凍てつく姫に、春を告ぐ-蒼き獅子の騎士譚-
木々の隙間から覗くその少女の姿が、薔薇の陰からゆっくりと露わになる。
彼女の髪は、まるで冬の初雪をそのまま紡いだかのように、美しく、そして長い白髪だった。
日の光を浴びて淡くきらめくその髪と、吸い込まれそうなほどに澄んだ真っ赤な瞳。
その対比は、どこか幻想的な異国の妖精を思わせるほどに可憐だった。
少女はおろおろと視線を泳がせ、白いドレスの裾を小さな手できゅっと握りしめながらも、恐る恐る、レオの方へと一歩ずつ歩み寄ってきた。
レオはその場から動かず、ただ無言で、その不思議な少女の接近を見つめていた。
いつもなら、見知らぬ者が間合いに入れば即座に警戒の結界を展開するか、あるいは完璧な王子の微笑みで距離を置くところだ。
だが、今のレオにはそんな気力すらなく、ただガラス玉のような新緑の瞳で、赤い瞳を見つめ返すことしかできなかった。
レオのすぐ目の前まで来ると、少女はさらに小さく身を縮め、上目遣いに顔を覗き込んできた。
そして、今にも消え入ってしまいそうな、耳を澄まさないと聞こえないくらいのか細い声で、ぽつりと言葉を紡いだ。
「だ、だいじょーぶ……ですか……?」
「――え?」
レオの眉が、微かに動いた。
その問いかけには、王族に対する追従も、次期国王への下心も、一切含まれていなかった。
ただ、庭園の片隅で、今にも消えてしまいそうなほど深く冷たい絶望の闇を纏って立ち尽くしていたレオの姿を見て、放っておけずに声をかけた――そんな、純粋で無垢な心配の心だけが、その赤い瞳の奥から伝わってきた。
ルミから完璧に拒絶され、誰からもその「男としての傷」を顧みられることのなかったレオの心に、少女の小さな一言が、波紋のように静かに広がっていく。
レオが何かを答えようと、その青白い唇を僅かに開いた、その時だった。
『――レオ殿下! レオ殿下、どちらにいらっしゃいますか!』
遠くの回廊から、レオを探す隣国の城の侍従たちの声が、騒がしく響き渡った。
「っ……!」
その声に、少女はビクッと目に見えて身体を震わせた。
まるで、見つかってはならない秘密の逢瀬を咎められたかのように、真っ赤な瞳を大きく見開いて怯えの表情を浮かべる。
少女はもう一度だけ、名残惜しそうにレオの顔を見上げると、何かを言いかけるように小さな唇を動かした。
しかし、近づいてくる足音に焦ったのか、そのままくるりと背を向け、白く長い髪を風になびかせながら、早足でその場を逃げ出すように駆けていってしまった。
「あ……待って――」
レオの手が、無意識のうちに空中に伸ばされる。
しかし、その指先が彼女の白い髪に触れることはなく、少女の小さな背中は、薔薇の生垣の向こうへと、あっという間に消え去っていった。
差し出されたままの、レオの右手のひら。
そこには何も残っていない。
けれど、数ヶ月間の冷酷な魔王の嘲笑、そして大好きな人の残酷な拒絶だけで満たされていたレオの視界に、確かに一瞬だけ、鮮烈な「白と赤」の残像が焼き付いていた。
「レオ、ここにいたのかい。次の夜会の打ち合わせが……」
足音と共に現れたアルフレッドが、息子の様子にふと声を詰まらせる。
そこに立っていたレオは、ここ数日間の「生気を失った人形」ではなかった。
伸ばした手をゆっくりと下ろしながら、その新緑の瞳の奥で、消えかかっていた小さな『光』が、微かに、しかし確かにゆらりと色を取り戻し始めていた。
彼女の髪は、まるで冬の初雪をそのまま紡いだかのように、美しく、そして長い白髪だった。
日の光を浴びて淡くきらめくその髪と、吸い込まれそうなほどに澄んだ真っ赤な瞳。
その対比は、どこか幻想的な異国の妖精を思わせるほどに可憐だった。
少女はおろおろと視線を泳がせ、白いドレスの裾を小さな手できゅっと握りしめながらも、恐る恐る、レオの方へと一歩ずつ歩み寄ってきた。
レオはその場から動かず、ただ無言で、その不思議な少女の接近を見つめていた。
いつもなら、見知らぬ者が間合いに入れば即座に警戒の結界を展開するか、あるいは完璧な王子の微笑みで距離を置くところだ。
だが、今のレオにはそんな気力すらなく、ただガラス玉のような新緑の瞳で、赤い瞳を見つめ返すことしかできなかった。
レオのすぐ目の前まで来ると、少女はさらに小さく身を縮め、上目遣いに顔を覗き込んできた。
そして、今にも消え入ってしまいそうな、耳を澄まさないと聞こえないくらいのか細い声で、ぽつりと言葉を紡いだ。
「だ、だいじょーぶ……ですか……?」
「――え?」
レオの眉が、微かに動いた。
その問いかけには、王族に対する追従も、次期国王への下心も、一切含まれていなかった。
ただ、庭園の片隅で、今にも消えてしまいそうなほど深く冷たい絶望の闇を纏って立ち尽くしていたレオの姿を見て、放っておけずに声をかけた――そんな、純粋で無垢な心配の心だけが、その赤い瞳の奥から伝わってきた。
ルミから完璧に拒絶され、誰からもその「男としての傷」を顧みられることのなかったレオの心に、少女の小さな一言が、波紋のように静かに広がっていく。
レオが何かを答えようと、その青白い唇を僅かに開いた、その時だった。
『――レオ殿下! レオ殿下、どちらにいらっしゃいますか!』
遠くの回廊から、レオを探す隣国の城の侍従たちの声が、騒がしく響き渡った。
「っ……!」
その声に、少女はビクッと目に見えて身体を震わせた。
まるで、見つかってはならない秘密の逢瀬を咎められたかのように、真っ赤な瞳を大きく見開いて怯えの表情を浮かべる。
少女はもう一度だけ、名残惜しそうにレオの顔を見上げると、何かを言いかけるように小さな唇を動かした。
しかし、近づいてくる足音に焦ったのか、そのままくるりと背を向け、白く長い髪を風になびかせながら、早足でその場を逃げ出すように駆けていってしまった。
「あ……待って――」
レオの手が、無意識のうちに空中に伸ばされる。
しかし、その指先が彼女の白い髪に触れることはなく、少女の小さな背中は、薔薇の生垣の向こうへと、あっという間に消え去っていった。
差し出されたままの、レオの右手のひら。
そこには何も残っていない。
けれど、数ヶ月間の冷酷な魔王の嘲笑、そして大好きな人の残酷な拒絶だけで満たされていたレオの視界に、確かに一瞬だけ、鮮烈な「白と赤」の残像が焼き付いていた。
「レオ、ここにいたのかい。次の夜会の打ち合わせが……」
足音と共に現れたアルフレッドが、息子の様子にふと声を詰まらせる。
そこに立っていたレオは、ここ数日間の「生気を失った人形」ではなかった。
伸ばした手をゆっくりと下ろしながら、その新緑の瞳の奥で、消えかかっていた小さな『光』が、微かに、しかし確かにゆらりと色を取り戻し始めていた。