記憶の檻に世界で一番甘い初恋を-7日ごとに貴方に恋する-

レイストール家御用達のその店は、街の喧騒から完全に切り離された、重厚な絨毯が敷き詰められた静寂の空間だった。
壁一面には最高級の生地見本が整然と並び、熟練の職人たちが物言わぬ気配で奥に控えている。

中央の台の上に、ルミは小さく立ち尽くしていた。

「さあ、ルミくん。背筋を伸ばして、あちらの鏡を見ていてね」

アルフレッドの穏やかな声に応え、ルミは微動だにせず鏡を見つめる。
職人が無言でメジャーを手に近づいてくると、ルミは条件反射のように身を硬くした。
かつて悪徳企業で、機械的に身体の数値を測られ、商品価値を査定されていた忌まわしい記憶が脳裏をかすめる。

しかし、その緊張はすぐに解けた。

「……随分と細いな。栄養状態が長く思わしくなかったのか、元々の体質か……」

職人が呟いた言葉には、悪意もなければ、数値化して売り飛ばそうとする冷酷な鑑定眼もなかった。
ただ、一人の少年を「美しく装う」という目的のための、プロフェッショナルな眼差しだけがそこにあった。
メジャーがルミの細い手首や首元、肩幅をなぞっていく。
年齢に対して驚くほど小柄なその身体は、少しの力でも折れてしまいそうなほど華奢で、守らなければならない存在として鏡の中に映し出されていた。

「これほど小柄となると、既製品では絶対に合いませんね。すべて一から、ミリ単位で調整して仕立てる必要があります」

職人が手元のメモに数字を書き込んでいく。
その様子を、ソファに腰掛けたアルヴィーノが、鋭くもどこか満足げな紫の瞳でじっと眺めていた。

「当然です。私の秘書として、私の傍に立つにふさわしい、完璧な装いでなければならない。……兄上、妥協は許しませんよ」

「わかってるさ、アルヴィーノ」

アルフレッドは微笑みながら、ルミの髪を軽く整えてやる。
冷徹な絶対投資家と、優しすぎる共同経営者。
二人の視線がルミというキャンバスに集中する中、ルミはただ、自分を「所有物」としてではなく、一人の人間として美しくしようとする彼らのやりとりに、どこか不思議な高揚感と、言いようのない安らぎを感じていた。

この小さな身体を、アルヴィーノにふさわしい「秘書の装い」で飾る。
それがどんなものになるのか、ルミにはまだ想像もつかなかった。
けれど、鏡の中に映る自分を見つめる職人の丁寧な仕事ぶりを見て、ルミは初めて自分の身体が、誰かに「大切にされる」ためにあるのだと、静かに納得し始めていた。
8/46ページ
スキ