記憶の檻に世界で一番甘い初恋を-7日ごとに貴方に恋する-
夜の静寂を切り裂くように、最高級セダンは滑らかに都心の道路を走っていた。
車体の微かな揺れと、タイヤが路面を転がる規則正しい重低音に、ルミは静かに目を覚ました。
網膜の裏を覆っていた微睡みの幕がゆっくりと上がっていく。
視界に飛び込んできたのは、街灯の淡い光が交互に流れる、高級感あふれる車内の内装だった。
「……あ……」
自分の身体に、まだアルヴィーノの上質なジャケットが掛けられたままであることに気づく。
ルミが小さく身じろぎすると、すぐ隣から、かすかな電子音が聞こえた。視線を向ければ、そこには薄暗い車内の中で、黒いスマート端末を長い指で美しく、かつ冷徹な速さで操作しているアルヴィーノの横顔があった。
その瞬間、ルミの脳裏に「執務室のソファで眠ってしまった」という事実が鮮烈にフラッシュバックした。
(お仕事中なのに、俺、寝ちゃって……そのまま車に……っ!?)
血の気が一気に引いていく。
かつての地獄のような日々が頭をよぎり、ルミはハッとして慌てて上半身を起こした。掛けられていたジャケットがずり落ちるのも構わず、青ざめた顔でシートの上に両手を突き、声を震わせる。
「ご、ごめんなさい……っ! 俺、お仕事なのに、居眠りなんてしちゃって……本当に、ごめんなさい……!」
また怒られる。今度こそ見捨てられる。
激しい恐怖に突き動かされるようにして、ルミは必死に謝罪の言葉を口にした。
しかし、隣に座る男から返ってきたのは、冷酷な拒絶でも、鋭い罵声でもなかった。
アルヴィーノは手元にあった黒い端末の画面を消すと、それをシートの脇へと置いた。
そして、怯えに身を強張らせているルミの方へとゆっくりと身体を向ける。
「……ルミ」
低く、心地よい重みを持った声がルミの名を呼んだ。
アルヴィーノは大きな手をそっと伸ばすと、パニックになりかけているルミの水色の髪に、優しく触れた。
細い指先が髪をすくい上げ、そのまま形を整えるようにして、大きな手のひらでルミの小さな頭をゆっくりと、慈しむように撫で始める。
「慌てる必要はありません。……ゆっくり、眠れましたか?」
向けられた紫の瞳には、冷徹さの裏側に、どこまでも深く、濁りのない穏やかさが湛えられていた。
「アルヴィーノ、さん……?」
頭に触れる主人の手の温もりと、あまりにも優しい問いかけに、ルミは潤んだ瞳を見開いたまま動きを止めた。
「私は以前、体調や精神面を含めて問題ないと判断するまでは、そこに書かれていることだけをしていればいいと言ったはずです。張り詰めていたあなたの身体が休息を求めたのであれば、それを拒む理由はありません」
アルヴィーノはルミの頭を撫でる手を止めず、むしろその所有権を誇示するように、愛おしそうに何度もその髪を愛撫した。
「私の前で、そんな風に怯えて謝る必要はないのです。あなたはただ、私の与える安寧の中で、健やかに過ごしていればそれでいい」
その絶対的な全肯定の言葉と言い含めるような温かさに、ルミの胸の奥の尖った痛みが、すうっと溶けていく。
怒られなかった安堵と、この冷徹で完璧な主人が自分に向けてくれる、昏いほどに過保護な優しさ。
ルミは小さく息を吐くと、愛おしそうに自分を撫でてくれるアルヴィーノの手のひらに、そっと引き寄せられるようにして再びその身を預けるのだった。
車体の微かな揺れと、タイヤが路面を転がる規則正しい重低音に、ルミは静かに目を覚ました。
網膜の裏を覆っていた微睡みの幕がゆっくりと上がっていく。
視界に飛び込んできたのは、街灯の淡い光が交互に流れる、高級感あふれる車内の内装だった。
「……あ……」
自分の身体に、まだアルヴィーノの上質なジャケットが掛けられたままであることに気づく。
ルミが小さく身じろぎすると、すぐ隣から、かすかな電子音が聞こえた。視線を向ければ、そこには薄暗い車内の中で、黒いスマート端末を長い指で美しく、かつ冷徹な速さで操作しているアルヴィーノの横顔があった。
その瞬間、ルミの脳裏に「執務室のソファで眠ってしまった」という事実が鮮烈にフラッシュバックした。
(お仕事中なのに、俺、寝ちゃって……そのまま車に……っ!?)
血の気が一気に引いていく。
かつての地獄のような日々が頭をよぎり、ルミはハッとして慌てて上半身を起こした。掛けられていたジャケットがずり落ちるのも構わず、青ざめた顔でシートの上に両手を突き、声を震わせる。
「ご、ごめんなさい……っ! 俺、お仕事なのに、居眠りなんてしちゃって……本当に、ごめんなさい……!」
また怒られる。今度こそ見捨てられる。
激しい恐怖に突き動かされるようにして、ルミは必死に謝罪の言葉を口にした。
しかし、隣に座る男から返ってきたのは、冷酷な拒絶でも、鋭い罵声でもなかった。
アルヴィーノは手元にあった黒い端末の画面を消すと、それをシートの脇へと置いた。
そして、怯えに身を強張らせているルミの方へとゆっくりと身体を向ける。
「……ルミ」
低く、心地よい重みを持った声がルミの名を呼んだ。
アルヴィーノは大きな手をそっと伸ばすと、パニックになりかけているルミの水色の髪に、優しく触れた。
細い指先が髪をすくい上げ、そのまま形を整えるようにして、大きな手のひらでルミの小さな頭をゆっくりと、慈しむように撫で始める。
「慌てる必要はありません。……ゆっくり、眠れましたか?」
向けられた紫の瞳には、冷徹さの裏側に、どこまでも深く、濁りのない穏やかさが湛えられていた。
「アルヴィーノ、さん……?」
頭に触れる主人の手の温もりと、あまりにも優しい問いかけに、ルミは潤んだ瞳を見開いたまま動きを止めた。
「私は以前、体調や精神面を含めて問題ないと判断するまでは、そこに書かれていることだけをしていればいいと言ったはずです。張り詰めていたあなたの身体が休息を求めたのであれば、それを拒む理由はありません」
アルヴィーノはルミの頭を撫でる手を止めず、むしろその所有権を誇示するように、愛おしそうに何度もその髪を愛撫した。
「私の前で、そんな風に怯えて謝る必要はないのです。あなたはただ、私の与える安寧の中で、健やかに過ごしていればそれでいい」
その絶対的な全肯定の言葉と言い含めるような温かさに、ルミの胸の奥の尖った痛みが、すうっと溶けていく。
怒られなかった安堵と、この冷徹で完璧な主人が自分に向けてくれる、昏いほどに過保護な優しさ。
ルミは小さく息を吐くと、愛おしそうに自分を撫でてくれるアルヴィーノの手のひらに、そっと引き寄せられるようにして再びその身を預けるのだった。