記憶の檻に世界で一番甘い初恋を-7日ごとに貴方に恋する-
それから、さらに幾百もの「1週間」が、二人の上を優しく、穏やかに通り過ぎていった。
ある朝、ルミはいつものように真っ白な状態で目を覚ます。
頭の中には何もなくて、自分が誰なのかも分からない。けれど、不思議なことに、今のルミの心には恐怖も不安もひとかけらもなかった。
「……ふわぁ」
小さくあくびをして起き上がると、胸の奥がじんわりと、まるで春の陽だまりのように温かい。
頭の記憶は空っぽなのに、身体と心が「ここはとっても安全で、お前は世界一幸せな場所にいるんだよ」と、優しく教えてくれているのが分かったから。
ルミは迷うことなく、枕元にあるピンクゴールドの眼鏡をかける。
そして、慣れた手つきで白銀のタブレットを起動した。
もう、何ページもある『総集編』をすべて読み返すことすら、今のルミには必要なかった。
画面の一番最初、擦り切れることのない鮮明な光の中に浮かび上がる、その一文だけを見つめる。
『これを開いたルミへ。あなたは世界で一番愛されている、アルヴィーノのお嫁さんです』
「うんっ!」
それだけで、ルミの全てが満たされた。
水色の瞳がその文字を捉えた瞬間、ルミはタブレットをベッドに置き、ちょうど部屋に入ってきた紫の瞳の男――アルヴィーノの胸へと、一瞬の迷いもなく小さな身体ごと飛び込んでいった。
「――おっと。おはよう、私の可愛いルミ」
突然の愛らしい奇襲に、アルヴィーノは驚きつつも、蕩けるような甘い笑みを浮かべてルミをしっかりと受け止める。
ルミは彼の首にぎゅっと抱きつき、その大好きな匂いと体温に胸を弾ませた。
「アルヴィーノさん! おはようございます!」
「おや……今朝はノートもタブレットも、ほとんど読んでいないようですが、私の名前が分かりましたか?」
不思議そうに、けれど狂おしいほどの愛おしさを込めて髪を撫でてくる旦那様に、ルミは彼の胸に顔を埋めたまま、嬉しそうにクスクスと笑った。
「ううん、頭の中はまだ真っ白だよ? でもね、この一番最初のページを見るだけで、おれ、ぜんぶ分かっちゃうの。おれの名前はルミで、アルヴィーノさんっていう、世界一かっこよくて素敵な旦那様をもった、世界一幸せな人なんだって!」
ルミはアルヴィーノの胸から顔を上げ、満面の笑みで彼の頬に自分の頬をすり寄せた。
「だからね、もう何も覚えてなくてもいいの。これだけで、おれは充分しあわせだから!」
「……ルミ」
その屈託のない、絶対的な信頼に満ちた言葉に、アルヴィーノは一瞬だけ息を詰まらせた。
かつて、あの子の記憶が1週間しか持たないと知った時、絶望の輪廻に歯噛みした。けれど、そんな悲劇のルールすら、二人が積み重ねたアナログの涙とデジタルの絆、そしてルミの身体に染み付いた愛の重さが、完全に打ち砕いたのだ。
記憶をなくす朝は、もう恐怖の始まりではない。
毎週、新しく生まれる世界で、一番大好きな旦那様に何度でも甘えるための、最高に幸福な「始まりの朝」。
「ええ……ええ、そうですね、ルミ。お前は何も覚えなくていい。お前が忘れた愛の歴史は、すべてこの私が抱きしめておいてあげます」
アルヴィーノはルミを壊れんばかりに強く抱きしめ、その甘い首筋に深く口づけを落とした。
ドアの隙間から、その様子を呆れたような、けれどどこか嬉しそうな目で見守るアルフレッドが、そっとお祝いのプリンをのせたワゴンを運んでくる。
「何も覚えていなくても、心はちゃんと繋がっている」
1週間ごとにリセットされる真っ白な世界の中で、二人が辿り着いた、完璧で、少し歪で、世界一幸福な楽園の結末(カタチ)だった。
ある朝、ルミはいつものように真っ白な状態で目を覚ます。
頭の中には何もなくて、自分が誰なのかも分からない。けれど、不思議なことに、今のルミの心には恐怖も不安もひとかけらもなかった。
「……ふわぁ」
小さくあくびをして起き上がると、胸の奥がじんわりと、まるで春の陽だまりのように温かい。
頭の記憶は空っぽなのに、身体と心が「ここはとっても安全で、お前は世界一幸せな場所にいるんだよ」と、優しく教えてくれているのが分かったから。
ルミは迷うことなく、枕元にあるピンクゴールドの眼鏡をかける。
そして、慣れた手つきで白銀のタブレットを起動した。
もう、何ページもある『総集編』をすべて読み返すことすら、今のルミには必要なかった。
画面の一番最初、擦り切れることのない鮮明な光の中に浮かび上がる、その一文だけを見つめる。
『これを開いたルミへ。あなたは世界で一番愛されている、アルヴィーノのお嫁さんです』
「うんっ!」
それだけで、ルミの全てが満たされた。
水色の瞳がその文字を捉えた瞬間、ルミはタブレットをベッドに置き、ちょうど部屋に入ってきた紫の瞳の男――アルヴィーノの胸へと、一瞬の迷いもなく小さな身体ごと飛び込んでいった。
「――おっと。おはよう、私の可愛いルミ」
突然の愛らしい奇襲に、アルヴィーノは驚きつつも、蕩けるような甘い笑みを浮かべてルミをしっかりと受け止める。
ルミは彼の首にぎゅっと抱きつき、その大好きな匂いと体温に胸を弾ませた。
「アルヴィーノさん! おはようございます!」
「おや……今朝はノートもタブレットも、ほとんど読んでいないようですが、私の名前が分かりましたか?」
不思議そうに、けれど狂おしいほどの愛おしさを込めて髪を撫でてくる旦那様に、ルミは彼の胸に顔を埋めたまま、嬉しそうにクスクスと笑った。
「ううん、頭の中はまだ真っ白だよ? でもね、この一番最初のページを見るだけで、おれ、ぜんぶ分かっちゃうの。おれの名前はルミで、アルヴィーノさんっていう、世界一かっこよくて素敵な旦那様をもった、世界一幸せな人なんだって!」
ルミはアルヴィーノの胸から顔を上げ、満面の笑みで彼の頬に自分の頬をすり寄せた。
「だからね、もう何も覚えてなくてもいいの。これだけで、おれは充分しあわせだから!」
「……ルミ」
その屈託のない、絶対的な信頼に満ちた言葉に、アルヴィーノは一瞬だけ息を詰まらせた。
かつて、あの子の記憶が1週間しか持たないと知った時、絶望の輪廻に歯噛みした。けれど、そんな悲劇のルールすら、二人が積み重ねたアナログの涙とデジタルの絆、そしてルミの身体に染み付いた愛の重さが、完全に打ち砕いたのだ。
記憶をなくす朝は、もう恐怖の始まりではない。
毎週、新しく生まれる世界で、一番大好きな旦那様に何度でも甘えるための、最高に幸福な「始まりの朝」。
「ええ……ええ、そうですね、ルミ。お前は何も覚えなくていい。お前が忘れた愛の歴史は、すべてこの私が抱きしめておいてあげます」
アルヴィーノはルミを壊れんばかりに強く抱きしめ、その甘い首筋に深く口づけを落とした。
ドアの隙間から、その様子を呆れたような、けれどどこか嬉しそうな目で見守るアルフレッドが、そっとお祝いのプリンをのせたワゴンを運んでくる。
「何も覚えていなくても、心はちゃんと繋がっている」
1週間ごとにリセットされる真っ白な世界の中で、二人が辿り着いた、完璧で、少し歪で、世界一幸福な楽園の結末(カタチ)だった。
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