記憶の檻に世界で一番甘い初恋を-7日ごとに貴方に恋する-
翌朝、遮光カーテンの隙間から差し込む柔らかな朝光に、ルミは静かに目を覚ました。
高級なシルクのシーツの感触に一瞬戸惑ったものの、ここが昨夜連れてこられた大邸宅であることを思い出す。
恐る恐る寝室を出てリビングへと向かったルミは、その光景に完全に圧倒され、足を踏み鳴らすことすらできずに立ち尽くした。
広大なリビングは、一夜にして都心の一等地にある最高級ブティックと化していた。
アルフレッドが手配した有名メゾンのスタイリストや仕立て職人たちが一列に並び、彼らが恭しく掲げているのは――繊細なレースや精緻なフリルが惜しみなく施された、目の覚めるような「白いロリータ服」の数々だった。
「あ、起きたねルミくん! おはよう。さあ、どれから試着してみるかい?」
なんの悪意もない、太陽のような笑顔を浮かべたアルフレッドが、楽しそうに次々とコーディネートを提案してくる。
昨日までの、あのサイズも合わない泥に汚れたボロボロのスーツから一転、生まれて初めて無理やり着せられたのは、まるでお姫様のような可憐でお仕着せがましいお洋服だった。
純白の生地に包まれた自分の姿が信じられず、ルミは耳の付け根まで真っ赤にして、どうしていいか分からずにおろおろと視線を彷徨わせる。
そこへ、静かな足音が近づいてきた。
仕立ての良い黒のベストを完璧に着こなしたアルヴィーノが、片手にコーヒーカップを携え、音もなくリビングに現れる。
その冷徹な紫の瞳が、恥ずかしさのあまりに純白のフリルの裾をきゅっと握りしめているルミの姿を捉えた。
その瞬間、アルヴィーノの切れ長の目が、わずかに、けれど確実に細められる。
「ねえアルヴィーノ、ちょうどいいところに。こっちの総レースのパフスリーブと、シルクのリボンが贅沢なこっちのドレス、ルミくんにどっちが似合うと思う?」
アルフレッドが楽しげに二着の白いロリータ服を掲げ、弟に意見を求める。
その光景に、ルミの心臓は破裂しそうなほどに跳ね上がった。
――王子様みたいに、冷徹で、完璧で、格好いいアルヴィーノさんに、こんな女の子みたいな格好を見られてしまった。変だと思われたんじゃないか。気味が悪いと、幻滅されてしまったんじゃないか。
急激に込み上げてきた不安と羞恥心で視界が潤み、今にも泣きそうになりながら、ルミはただじっと、アルヴィーノから下される冷酷な審判を待つように身を硬くした。
アルヴィーノは手にしていたコーヒーカップを、近くのサイドテーブルに音もなく置いた。
そして、一切の感情を削ぎ落とした無表情のまま、まっすぐにルミへと近づいてくる。
怯えに震えるルミの前に来ると、アルヴィーノはその場に静かに膝をつき、少年の低い目線へと自らの視高を合わせた。
至近距離で見つめられる恐怖と緊張に、ルミの呼吸が止まる。
アルヴィーノは、手袋越しではない、自らの大きな手をそっと伸ばし、ルミの染まった頬を優しく包み込んだ。
冷たい指先が、熱を持った肌に触れる。
「……変、ですか……?」
消え入りそうな、今にも壊れてしまいそうな声で、ルミは縋るように尋ねた。
アルヴィーノは、頬を包む手のひらに微かに力を込め、慈しむような、しかしどこか狂気を孕んだ深い眼差しでルミを見つめ返した。
「いいえ。――非常に、似合いますよ。ルミ」
その低く深く響く声は、ルミの絶対記憶の網膜の裏へと、これ以上ない鮮烈な事実として刻み込まれた。
変だなんて思われていなかった。
それどころか、あの孤高のアルヴィーノに「似合う」と肯定されたのだ。
その事実の重みと、じわじわと胸を満たしていく名前のない嬉しさで、ルミの胸はちぎれそうなほどにいっぱいになった。
ルミは泣きそうだった瞳を潤ませたまま、愛おしそうに、ぎゅっと自分の白いお洋服の袖を握りしめるのだった。
高級なシルクのシーツの感触に一瞬戸惑ったものの、ここが昨夜連れてこられた大邸宅であることを思い出す。
恐る恐る寝室を出てリビングへと向かったルミは、その光景に完全に圧倒され、足を踏み鳴らすことすらできずに立ち尽くした。
広大なリビングは、一夜にして都心の一等地にある最高級ブティックと化していた。
アルフレッドが手配した有名メゾンのスタイリストや仕立て職人たちが一列に並び、彼らが恭しく掲げているのは――繊細なレースや精緻なフリルが惜しみなく施された、目の覚めるような「白いロリータ服」の数々だった。
「あ、起きたねルミくん! おはよう。さあ、どれから試着してみるかい?」
なんの悪意もない、太陽のような笑顔を浮かべたアルフレッドが、楽しそうに次々とコーディネートを提案してくる。
昨日までの、あのサイズも合わない泥に汚れたボロボロのスーツから一転、生まれて初めて無理やり着せられたのは、まるでお姫様のような可憐でお仕着せがましいお洋服だった。
純白の生地に包まれた自分の姿が信じられず、ルミは耳の付け根まで真っ赤にして、どうしていいか分からずにおろおろと視線を彷徨わせる。
そこへ、静かな足音が近づいてきた。
仕立ての良い黒のベストを完璧に着こなしたアルヴィーノが、片手にコーヒーカップを携え、音もなくリビングに現れる。
その冷徹な紫の瞳が、恥ずかしさのあまりに純白のフリルの裾をきゅっと握りしめているルミの姿を捉えた。
その瞬間、アルヴィーノの切れ長の目が、わずかに、けれど確実に細められる。
「ねえアルヴィーノ、ちょうどいいところに。こっちの総レースのパフスリーブと、シルクのリボンが贅沢なこっちのドレス、ルミくんにどっちが似合うと思う?」
アルフレッドが楽しげに二着の白いロリータ服を掲げ、弟に意見を求める。
その光景に、ルミの心臓は破裂しそうなほどに跳ね上がった。
――王子様みたいに、冷徹で、完璧で、格好いいアルヴィーノさんに、こんな女の子みたいな格好を見られてしまった。変だと思われたんじゃないか。気味が悪いと、幻滅されてしまったんじゃないか。
急激に込み上げてきた不安と羞恥心で視界が潤み、今にも泣きそうになりながら、ルミはただじっと、アルヴィーノから下される冷酷な審判を待つように身を硬くした。
アルヴィーノは手にしていたコーヒーカップを、近くのサイドテーブルに音もなく置いた。
そして、一切の感情を削ぎ落とした無表情のまま、まっすぐにルミへと近づいてくる。
怯えに震えるルミの前に来ると、アルヴィーノはその場に静かに膝をつき、少年の低い目線へと自らの視高を合わせた。
至近距離で見つめられる恐怖と緊張に、ルミの呼吸が止まる。
アルヴィーノは、手袋越しではない、自らの大きな手をそっと伸ばし、ルミの染まった頬を優しく包み込んだ。
冷たい指先が、熱を持った肌に触れる。
「……変、ですか……?」
消え入りそうな、今にも壊れてしまいそうな声で、ルミは縋るように尋ねた。
アルヴィーノは、頬を包む手のひらに微かに力を込め、慈しむような、しかしどこか狂気を孕んだ深い眼差しでルミを見つめ返した。
「いいえ。――非常に、似合いますよ。ルミ」
その低く深く響く声は、ルミの絶対記憶の網膜の裏へと、これ以上ない鮮烈な事実として刻み込まれた。
変だなんて思われていなかった。
それどころか、あの孤高のアルヴィーノに「似合う」と肯定されたのだ。
その事実の重みと、じわじわと胸を満たしていく名前のない嬉しさで、ルミの胸はちぎれそうなほどにいっぱいになった。
ルミは泣きそうだった瞳を潤ませたまま、愛おしそうに、ぎゅっと自分の白いお洋服の袖を握りしめるのだった。