記憶の檻に世界で一番甘い初恋を-7日ごとに貴方に恋する-

『――もういい! 勝手にしなさい!』

ついに限界を迎えた伯父が、激昂した声で吐き捨て、席を蹴った。

『アルフレッド、アルヴィーノ! お前たち兄弟の狂気には、これ以上付き合いきれん! 後悔しても知らんぞ!』

伯母もまた、蛇のような視線を二人に投げつけながら、足早に部屋を後にする。
ガチャン、と重厚な玄関の扉が閉まり、やがて邸宅の敷地内から、あの不快な高級車のエンジン音が遠ざかっていく。
静寂が戻った応接室で、さっきまで獲物を狙う猛獣のようだった兄弟は、同時に背もたれへ深く身体を預けた。

「……はぁ」
「…………ふぅ」

一寸の狂いもなく重なった、大きく、そして心底うんざりとした溜息。

「本当に、相変わらず胸がむかつく老人たちだ。今すぐスイスの隠し口座をすべて空にして、破産させてやればよかった」

アルヴィーノが乱暴にネクタイを緩めながら、紫の瞳にどす黒い光を宿す。

「まあまあ、落ち着きなよアルヴィーノ。一応身内なんだからさ。それにしても、君のあの『お前たちに髪一根すら触れさせない』ってセリフ、傑作だったね」

アルフレッドがいつもの調子に戻ってヘラヘラと笑うが、その額には、弟の暴走を止めるために使った精神的疲労が滲んでいた。

その時だった。

パタパタパタ……と、廊下からおぼつかない、けれど愛らしい足音が近づいてくる。
応接室のドアが、内側からそっと、ほんの数センチだけ開けられた。

「……アルヴィーノさん? おにいちゃん……?」

ドアの隙間から、大きな水色の瞳が不安そうに二人を見つめていた。
手には、食べ終えたプリンの空きカップをぎゅっと握りしめている。
ルミは寝室で大人しく待っていたが、大きな怒鳴り声や車の去る音が聞こえたため、心配になって様子を見に来たのだ。

「ルミ」

その姿を見た瞬間、アルヴィーノの顔から全てのトゲが消え失せ、蕩けるような甘い笑みが戻った。
椅子から立ち上がり、すぐさまドアへと駆け寄って、ルミの小さな身体を優しく抱き上げる。

「いい子で待っていましたね。怖い声が聞こえて、驚かせてしまいましたか?」
「ううん、俺はだいじょうぶ……。でも、お外のひとたち、すごく怒ってた……? アルヴィーノさんと、おにいちゃんが、おこられてたの……?」

ルミはアルヴィーノの首に細い腕を回しながら、隣にいるアルフレッドの顔も交互に見つめる。その純粋な気遣いに、アルフレッドの心も一瞬で癒されていく。

「いやだなあ、ルミくん。僕たちが怒られるわけないじゃない。ただの、ちょっと声の大きなおじいちゃんとおばあちゃんが、僕たちに『可愛いお嫁さんを早く見せろ』って我が儘を言いに来ただけさ」

アルフレッドがルミの頬を人差し指でツンと突っつくと、ルミは不思議そうに小首を傾げた。

「およめさん……? でも、アルヴィーノさんのお嫁さんは、俺、だよね……?」

覚えたての「お仕事」の名前を一生懸命に思い出しながら、ルミは少し自信なさげに、けれど真っ直ぐにアルヴィーノの瞳を見つめた。
その、あまりにも破壊的で健気な言葉に、アルヴィーノの独占欲と愛が爆発する。

「ええ……! ええ、その通りです、ルミ! お前だけが私の唯一無二のお嫁さんだ! あの老人たちなど、お前の美しさの百分の一も理解できない愚か者。一生会う必要はありません」

狂おしいほどの熱量でルミを強く抱きしめ、その白い頬や額に、何度も、何度も熱い口づけを施していく。

「あはっ、くすぐったいよ、アルヴィーノさん……っ」

腕の中で嬉しそうに声を上げて笑うルミ。
その笑顔を見つめながら、アルフレッドはまた深くため息をつきつつも、どこか満足そうに笑った。

「やれやれ。これじゃあ、僕がこれからも外で守り続けてあげなきゃいけないね。こんなに可愛い義妹を、あの冷たい世界に引きずり戻すわけにはいかないからさ」

外の世界がどれほど醜く、義務や利権に塗れていようとも。
この閉ざされた美しい邸宅の中だけは、今日もアルヴィーノの過保護な愛と、ルミの無邪気な笑顔、そして甘いプリンの記憶だけで、どこまでも満たされていくのだった。
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