記憶の檻に世界で一番甘い初恋を-7日ごとに貴方に恋する-

ようやく激しい痛みの発作から解放され、深い眠りに落ちたルミ。
しかし、その小さな顔には、痛みに耐えかねて歪んでいた名残と、精神をすり減らした痛々しいほどの疲労感が色濃く刻まれていた。

「……ルミ」

アルヴィーノは、まるでガラスの細工物でも扱うかのように、細くぐったりとしたルミの身体をそっと抱き上げた。
都心の静閑な住宅街に佇む邸宅。その最奥にある自らの寝室へ、ルミを大切に連れ戻す。

冷たいコンクリートの地下室でも、張り詰めた緊張感の漂う最高経営責任者室でもない。ここは、世界で一番安全で、ルミを害するものが何一つ存在しない、アルヴィーノだけのテリトリー。

シルクのシーツが敷かれた最高級のベッドへ、ルミを静かに横たえる。
アルヴィーノは、まだ微かに涙の跡が残るルミの白い頬を、愛おしそうに親指でそっと撫でた。

「お前は、どこまで健気で……そして、哀れなほどに私を狂わせるのか」

記憶を失ってもなお、本能で自分を守ろうとした愛しい少年。
その純粋すぎる防衛反応が愛おしくてたまらないと同時に、ルミにそこまでの過負荷を強いた元凶に対するどす黒い怒りが、アルヴィーノの胸の奥でマグマのように煮えくり返っていた。

ルミの呼吸が完全に安定し、穏やかな寝息に変わったのを確認すると、アルヴィーノはルミの額に静かに口づけを落とした。
そして、ベッドサイドのランプを限界まで暗く落とし、音もなく部屋を後にする。

カチャリ、と重厚なドアが閉まった瞬間。

主人の顔から、ルミに見せていたあの蕩けるような甘い微笑みが、完全に消失した。
ネクタイを乱暴に引き剥がして床へ投げ捨て、シャツの袖をまくり上げる。切れ長の紫の瞳には、かつて数々の巨大企業を容赦なく食い荒らし、灰にしてきたあの「冷徹無比な魔王」の、冷酷極まりない光が宿っていた。

書斎へ向かう廊下で、アルヴィーノはスマートフォンを取り出し、短縮ダイヤルを押す。

「――兄上か」

『おや、アルヴィーノ。ルミくんの様子はどうだい?』

のんびりとした兄の声。しかし、アルヴィーノの次の言葉を聴いた瞬間、その声のトーンが一変した。

「社内のネズミどもが、私のPCにバックドアを仕掛け、私をハッキングしようとした。……そして、ルミの脳を再び汚した」
『……なんだって?』
「ルミが命がけで暴いてくれたデータだ。ネズミどもの仕掛けた罠のコード、および裏の連携ルートはすべて私の頭に入っている。兄上、国家権力の包囲網をもう一度、今度はさらに強固に敷き詰めろ。一匹たりとも逃がすな」
『……分かった。それほどまでに愚かな真似をした羽虫たちだ、二度と社会の表舞台に立てないよう、僕の方でも徹底的に『処理』させてもらうよ』

通話を切ると、アルヴィーノは書斎のデスクへと向かい、パーソナルコンピューターの前に座った。

画面に表示されているのは、ルミがその水色の瞳に焼き付け、身を挺してハッキングを阻止したあの冷たい文字列。
ルミが命がけで守ってくれたこのシステムを使い、アルヴィーノは猛烈な速度でキーボードを叩き始めた。

「お前たちがルミに与えた苦痛の、数万倍の絶望を教えてあげましょう」

ルミの脳内から吐き出された情報を逆探知し、ハッキングを仕掛けてきた反主流派の取締役たちの個人端末、隠し口座、そして過去のすべての不正データを、アルヴィーノの冷徹な指先が次々とロックオンしていく。

ただの社会的抹殺では生ぬるい。
資産の凍結、親族を含めたすべての社会的信用の失墜、そして生涯這い上がることのできない底なしの闇へと、彼らを一秒ごとに引きずり落としていく。アルヴィーノの構築する「報復のプログラム」は、一切の慈悲を持たない完璧な死刑宣告だった。

深夜の静寂の中、キーボードを叩く硬質な音だけが室内に響く。
画面の青白い光に照らされたアルヴィーノの横顔は、悪魔そのものだった。

すべては、あのベッドで眠る、真っ白で無垢な自分の小鳥のために。

お前を脅かす有象無象は、今度こそこの世の塵にすら残さず消滅させてみせる。
お前が目覚める頃には、世界はお前を愛する私と、甘いプリンと、美しいお洋服だけになっているはずだ――。

最愛の少年を守るため、そしてその全存在を自分の歪んだ愛で完全に飼い慣らすため、天才軍師アルヴィーノの本当の、そして最後の粛清劇が、冷酷に幕を開けたのだった。
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