主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを

それは、あの静寂の舞踏会が終わった夜の、エレオノーラの私室でのことだった。

「――っ、なによ、なによ、なにあれ……!!」

大広間で見せていた完璧な王妃の微笑みは、扉が閉まった瞬間に霧散していた。
エレオノーラは身につけていた高価な扇子を床へ叩きつけ、狂ったように何度もドレスの裾を踏み荒らした。
室内に、彼女の荒い呼吸と激しい怒号だけが響き渡る。
脳裏に焼き付いて離れないのは、あの眩い光の真ん中で、世界で一番美しく舞っていたルミの姿だ。

(この私が、ヴァレンティ家の令嬢であるこの私が……あんな、どこの馬の骨ともわからない従者のガキに、すべてを持っていかれたのよ……!?)

これまで自分の美貌こそが最高だと思って生きてきた。
いずれはあの国の頂点に立つ自分が、ただの従者のガキに、美しさのすべてで敗北したのだ。
アルヴィーノがルミのために誂えさせたという、あの淡い水色の特注ドレス。
細部にあしらわれたレースも、しなやかなシルクも、一目で自分のどの衣装よりも莫大なお金がかけられていることが分かった。
何より、そのドレスを纏ったルミが、悔しいけれど、癪に障るほどに可愛らしかった。
その事実が、エレオノーラの傲慢なプライドをズタズタに切り裂いていた。

「あんな身分違いの薄汚いガラス玉の分際で、私より高いドレスを着て、私より可愛いなんて絶対に許さない……!!」

思い出すだけで、あまりの悔しさに身がよじれそうになる。
けれど、そのドレスを与えた張本人であるアルヴィーノの姿が脳裏をよぎった瞬間、エレオノーラの身体に、一瞬だけ冷たい戦慄が走った。
過去に、あの男から受けた容赦のない仕打ち。あの光の消えた紫の瞳、剥き出しにされた冷徹な牙――。
思い出すだけで今も身体がすくむほど、エレオノーラはアルヴィーノという男を心底恐れていた。
だからこそ、あの場でもアルヴィーノに直接文句を言うことなど、怖くて絶対にできなかったのだ。
けれど、だからこそ、あの男に盲目的に守られているルミへの憎悪が、逃げ場を失ってドロドロと膨れ上がっていく。

「……あの男の目が届かない場所なら、どうにでもできるわ」

アルヴィーノは恐ろしい。
けれど、あいつが絶対に離れられない軍の会議中なら、あの生意気で可愛いガキを、いくらでも痛めつけてやれる。

「見ていなさい。婚礼の喧騒に紛れて、その生意気な顔も、私より高いドレスも、全部ズタズタに切り刻んであげるわ――」

床に落ちた扇子をヒールの先で容赦なく踏み砕きながら、エレオノーラは暗い黄緑色の瞳に、どす黒い嫉妬を宿らせて冷酷に笑った。
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