主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを

そこは、音も、光も、温度さえもない、酷く冷たい冷たい夢の中だった。

意識が境界を失って、ただ暗闇の中をふわふわと漂っている。
アルヴィーノは、自分の輪郭すら曖昧になっていくような深い虚無の中にいた。
なぜこれほどまでに身体に力が入らないのか。
なぜ指先一つ動かすことすら叶わないのか。
昏い意識の濁流の中で、どれだけ思考を巡らせても、その答えには行き着かない。
ただ、魂の奥底にある本能だけが、激しい焦燥感を伴って警鐘を鳴らし続けていた。

――早く目覚めなければいけない。
――私のすべてである、あの子の元へ帰らなければ。

「ルミ……っ」

愛しい少年の名前を呼ぼうとするが、声は形をなさず、冷たい闇に泡となって消えていく。
焦れば焦るほど、あがけば足掻くほど、底なしの沼に囚われたかのように、アルヴィーノの意識はさらに深く、昏い奈落の底へと沈み込んでいく。
世界を滅ぼす極大魔法も、死の理を覆す蘇生魔法も、己の魔術回路が完全に干からびたこの精神世界の底では、一滴の火花すら生み出せない。
完璧な無力。
かつて、自分を庇って死にかけたルミを前に、ただ両手を見つめて絶望するしかなかったあの夜の悪夢が、形を変えてアルヴィーノを締め付け、侵食していく。

(……私は、このまま目覚めぬ闇に消えるのでしょうか)

どれほどの時間が経ったのかもわからない。
永遠とも思える孤独な漂流の果てに、無敵を誇った魔王の心が、ほんの僅かに絶望へと傾き、深く、深く目を閉じようとした。
――その時だった。

『――っ、あ、』

凍りついていた精神世界の最深部に、突如として、微かな「震え」が走った。
それは、あまりにも唐突に、けれどどこまでも優しくアルヴィーノの昏い回路に融け込んできた、ひとすじの魔力の脈動。
冷たい深淵を拒むことなく、まるであたたかな陽だまりのように融け合っていくその昏い光は、まぎれもなく、彼が世界で一番愛している少年の、闇の魔力だった。

(これは……ルミ……?)

暗闇の底に、ぽつんと小さな、水色の光の灯火が灯る。
それと同時に、どこか遠く、けれど狂おしいほどに恋焦がれた愛らしい声が、アルヴィーノの魂に直接響いてきた。

『王子様が、起きない方が、もっとこわい……。だから、俺、がんばる……絶対に、連れて帰ってくる……っ』

泣きじゃくりながらも、決して折れない強い意志を孕んだ、ルミの声。
その瞬間、アルヴィーノの形を失いかけていた精神の器が、劇的なまでの熱を持って蘇った。

(ルミが、泣いている……?)

あの子が泣いている。
自分のために、その小さな身体で何かを耐え忍び、必死に自分の手を引こうとしてくれている。
それを理解した瞬間、アルヴィーノの内に、冷たい絶望を完全に焼き尽くすほどの、凄まじい執念が燃え上がった。

(待っていなさい、ルミ……。今、貴方の元へ……!)

回路の底に灯った水色の小さな灯火を、アルヴィーノは自身の魂で強く、強く抱きしめた。
まだ身体は動かない。暗闇から完全に抜け出せたわけでもない。
けれど、底なしの沈没は止まった。
ルミくんが命がけで繋いでくれたひとすじの光の糸を、彼はその両手で、決して離さないと誓うように、固く固く握り締めるのだった。
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