主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを

意識を失い、操り人形のように脱力したルミの身体を、アルフレッドはそっと両腕で抱き上げた。
驚くほどに軽く、そして冷え切ってしまった小さな身体。大人ですら発狂しかねない擬似回路の激痛に、この細い身体で、ただ「大好きな人を助けたい」という一心だけで耐え抜いたのだ。

アルフレッドは、昏々と眠り続けるアルヴィーノのすぐ隣に、ルミの身体をそっと横たえた。
ルミの小さな手は、意識を失ってなお、アルヴィーノの深い紫色の魔石ブローチを壊れ物のように、けれど決して離さないという強い意志を込めて、ぎゅっと握りしめている。
アルフレッドはその健気な姿に、胸を締め付けられるような切なさを覚えながら、彼らの胸元まで優しく毛布を掛け直した。

「……魔道士。アルヴィーノの様子はどうだ」

アルフレッドは乱れた前髪をかき上げ、声音を潜めて背後の老魔道士へと問いかけた。
老魔道士は、驚嘆と、どこか畏怖の入り混じった眼差しで魔力測定の触手を見つめ、それから何度も深く首を縦に振った。

「……奇跡、としか言いようがありません、殿下。アルヴィーノ殿下のあの巨大すぎる回路の底に、確かに……本当に小さな、しかし決して消えない魔力の灯火が灯っております」
「灯火、だと?」
「はい。通常の魔導士の魔力であれば、あの昏い深淵に触れた瞬間に全てを吸い尽くされ、霧散していたはずです。ですが、ルミ殿の闇の魔力は、まるで最初からアルヴィーノ殿下の回路の一部であったかのように、驚くほど自然に馴染み、最深部へと融けていきました。……あの子の命がけの魔力が、完全に稼働を停止していたアルヴィーノ殿下の魔術核を、内側から『揺り動かした』のです」

魔道士は興奮を抑えるように息を呑み、ベッドの上の二人を見つめた。

「まだほんの僅か、数パーセントにも満たない回復量ですが、アルヴィーノ殿下の肌に赤みが戻り、自力で呼吸を維持する力が格段に安定し始めています。ルミ殿のあの強い意志と魔力でなければ、この最初の一歩を踏み出すことは、絶対に不可能だったでしょう……」

魔道士の報告を聞き、アルフレッドは長く、静かな溜め息を吐き出した。
張り詰めていた肩の力が、ほんの少しだけ抜けていくのを感じる。

「そうか。……ルミくんのあの覚悟が、本当にあの魔王の心を動かしたんだね」

アルフレッドはベッドの傍らに歩み寄り、眠る二人の顔を静かに見下ろした。
数カ月前、ルミが死の淵を彷徨ったあの夜。
攻撃しかできなかった己の無力さに絶望し、血を吐くような努力で『蘇生魔法』を掴み取ったアルヴィーノ。
そして今、その代償で眠り続けるアルヴィーノを救うため、激痛に耐え、己の闇の魔力を捧げてその深淵に最初の灯火を灯したルミ。
お互いがお互いのために、命を削り、痛みを背負い、守り合おうとしている。

「まったく……どこまでも不器用で、どこまでも傲慢で、そしてこれ以上ないほどに深く愛し合っているな、君たちは」

アルフレッドは苦笑を交えながら、二人を起こさないよう、酷く優しい声で呟いた。
初日の夜は、こうして静かに更けていく。
まだアルヴィーノが完全に目を覚ますには何日もの時間がかかるだろう。明日からも、ルミにはさらなる激痛と過酷な試練が待ち受けている。
けれど、この真っ暗な暗闇の中に、確かにひとすじの、水色の光が灯ったのだ。
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