主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを
あたたかな陽だまりが差し込む第二王子の私室。
ガルディニアでのあの凄惨な崩壊劇が嘘だったかのように、部屋の中には静かで、穏やかな時間が流れていた。
だが、その平穏は、どこか歪で、酷く頼りないものだった。
「……王子様?」
ルミはベッドの傍らに腰掛け、横たわるアルヴィーノの顔を覗き込んだ。
ちょっと癖のある、見慣れた深い紫の髪。
端正な横顔は彫刻のように美しく、規則正しい胸の上下だけが、彼が生きていることを辛うじて示している。
あの日、真っ白な更地から転移魔法で戻ってきた直後、アルヴィーノはルミを抱きしめたまま、眠るようにして意識を失った。
最初こそ、ルミは「あんなにすごい魔法をたくさん使ったから、疲れちゃったんだよね」と、彼の額にそっと触れ、ゆっくり休んでね、と微笑みかけていた。
数日間の監禁で傷ついたルミ自身の身体も、アルヴィーノの残していった温かな魔力のおかげですっかり癒えていたから、今度は自分が看病する番だと、小さな胸を張りすらしていたのだ。
けれどアルヴィーノは、起きなかった。
一日が経ち、二日が経ち、やがて一週間が過ぎても、その紫の瞳が開かれる気配は微塵もなかった。
食事を摂ることもなく、ただ昏々と眠り続ける大好きな人。
部屋付きの医師が診察をしても、「極限の魔力枯渇による一時的な昏睡状態」という診断が変わることはなく、ただ魔力が自然に回復するのを待つしかないのだという。
四つの国家を同時に滅ぼし、死者の魂を強制的に引き戻す蘇生魔法の乱発。
人間の肉体が扱える許容量を遥かに超えた魔力の酷使は、無敵と思われた魔王の身体を、内側から完全に空っぽにさせていた。
「王子様、おはよ……。今日も、いいお天気だよ」
十日目の朝。
ルミは震える手で、アルヴィーノの手をぎゅっと握りしめた。
いつもなら、指先が触れただけでもすぐに気づいて、愛おしそうに微笑みながら引き寄せてくれる、大きくて優しい手。
なのに、今のその手は驚くほどに力がなく、ルミがどれだけ強く握り返しても、微かにも動かない。
(……もし、このまま、ずっと起きなかったら……?)
心の中に生じた小さな不安の澱 が、急激に、巨大な恐怖となってルミの心を侵食していく。
自分のために、アルヴィーノは怒ってくれた。
自分のために、あの恐ろしい力を使い切ってしまった。
もし、あの優しい王子様を奪ったのが、自分なのだとしたら――。
「いやだ……、おいていかないで……っ」
大粒の涙が、アルヴィーノの微動だにしない手の甲にぽろぽろと落ちて染み込んでいく。
声を奪われていたあの地下牢の暗闇とは違う、静かすぎるこの部屋の孤独に、ルミの精神はもう限界を迎えようとしていた。
いくら名前を呼んでも、王子様は起きてくれない。
これ以上、どうしたらいいのか分からない。
ルミは涙を袖で乱暴に拭うと、縋るような思いでベッドから立ち上がった。
この王宮の中で、アルヴィーノの次に信頼できる、あの優しい「第一王子」の顔が脳裏に浮かんだ。
ルミは黄金の杖を握りしめ、縋るような思いで、第一王子アルフレッドの執務室へと走った。
ガルディニアでのあの凄惨な崩壊劇が嘘だったかのように、部屋の中には静かで、穏やかな時間が流れていた。
だが、その平穏は、どこか歪で、酷く頼りないものだった。
「……王子様?」
ルミはベッドの傍らに腰掛け、横たわるアルヴィーノの顔を覗き込んだ。
ちょっと癖のある、見慣れた深い紫の髪。
端正な横顔は彫刻のように美しく、規則正しい胸の上下だけが、彼が生きていることを辛うじて示している。
あの日、真っ白な更地から転移魔法で戻ってきた直後、アルヴィーノはルミを抱きしめたまま、眠るようにして意識を失った。
最初こそ、ルミは「あんなにすごい魔法をたくさん使ったから、疲れちゃったんだよね」と、彼の額にそっと触れ、ゆっくり休んでね、と微笑みかけていた。
数日間の監禁で傷ついたルミ自身の身体も、アルヴィーノの残していった温かな魔力のおかげですっかり癒えていたから、今度は自分が看病する番だと、小さな胸を張りすらしていたのだ。
けれどアルヴィーノは、起きなかった。
一日が経ち、二日が経ち、やがて一週間が過ぎても、その紫の瞳が開かれる気配は微塵もなかった。
食事を摂ることもなく、ただ昏々と眠り続ける大好きな人。
部屋付きの医師が診察をしても、「極限の魔力枯渇による一時的な昏睡状態」という診断が変わることはなく、ただ魔力が自然に回復するのを待つしかないのだという。
四つの国家を同時に滅ぼし、死者の魂を強制的に引き戻す蘇生魔法の乱発。
人間の肉体が扱える許容量を遥かに超えた魔力の酷使は、無敵と思われた魔王の身体を、内側から完全に空っぽにさせていた。
「王子様、おはよ……。今日も、いいお天気だよ」
十日目の朝。
ルミは震える手で、アルヴィーノの手をぎゅっと握りしめた。
いつもなら、指先が触れただけでもすぐに気づいて、愛おしそうに微笑みながら引き寄せてくれる、大きくて優しい手。
なのに、今のその手は驚くほどに力がなく、ルミがどれだけ強く握り返しても、微かにも動かない。
(……もし、このまま、ずっと起きなかったら……?)
心の中に生じた小さな不安の
自分のために、アルヴィーノは怒ってくれた。
自分のために、あの恐ろしい力を使い切ってしまった。
もし、あの優しい王子様を奪ったのが、自分なのだとしたら――。
「いやだ……、おいていかないで……っ」
大粒の涙が、アルヴィーノの微動だにしない手の甲にぽろぽろと落ちて染み込んでいく。
声を奪われていたあの地下牢の暗闇とは違う、静かすぎるこの部屋の孤独に、ルミの精神はもう限界を迎えようとしていた。
いくら名前を呼んでも、王子様は起きてくれない。
これ以上、どうしたらいいのか分からない。
ルミは涙を袖で乱暴に拭うと、縋るような思いでベッドから立ち上がった。
この王宮の中で、アルヴィーノの次に信頼できる、あの優しい「第一王子」の顔が脳裏に浮かんだ。
ルミは黄金の杖を握りしめ、縋るような思いで、第一王子アルフレッドの執務室へと走った。
