主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを

「アル、ヴィーノ……さま……っ」
「ルミ、ルミ……! ああ、本当に良かった……!」

四つの国家が消え去り、地平線まで真っ白な更地となった世界の中心で、アルヴィーノはルミを狂おしいほどに強く抱きしめ、その小さな背中に何度も何度も腕を回していた。
今のアルヴィーノの視界には、もうルミしか映っていない。
ルミの水色の瞳に光が戻り、自分の名前を呼んでくれた。
その奇跡の前に、世界を焼き尽くした怒りも、手にした銀の杖の魔力も、すべては些事として彼の脳内から消え去っていく。
足元には、肉体こそ蘇生魔法で完璧に再生されたものの、繰り返された死の苦痛によって精神を完全に破壊され、虚空に向かって「殺して……殺してください……」と壊れた人形のように呟き続けるバルトロメウスと、偽物の男が転がっている。
だが、アルヴィーノはその二人を一瞥することすら、もはやしなかった。

「ルミ、すぐにおうちへ戻りましょう。貴方の傷を癒やし、温かいお風呂に入って……今度こそ、誰にも邪魔されない二人だけの時間を過ごすのです」
「うん……っ。王子様、おうち、かえろう……?」

まだ少し震えながらも、アルヴィーノの首に細い腕を絡め、安堵の涙をこぼすルミ。
アルヴィーノはそんなルミを慈しむように横抱きにすると、未だに膝をついて呆然としている兄の方へ、一度だけ冷徹な視線を向けた。

「兄上。私はルミを連れて一足先に王宮へ戻ります。……あとの『処理』は、任せました」
「……あ、アルヴィーノ……っ!」

アルフレッドが血の気の引いた顔で手を伸ばすが、アルヴィーノはただ静かに空間を歪め、次の瞬間には転移の光と共にルミを連れて消え去ってしまった。
残されたのは、悲鳴も風の音さえもない、ただ地平線まで真っ白に続く静寂の更地。
そして、精神が崩壊して廃人となったガルディニアの宰相たち。

「はぁ………………っ」

アルフレッドは、天を仰いで深く、重い溜め息を吐き出した。
弟がルミを傷つけられた結果、一夜にして四つの国が地図から消滅した。この歴史上最大の惨劇を前に、彼は第一王子としての冷徹な政治の脳を無理やり動かす。

「……仕方のない……か……」

アルフレッドは窶れた手で前髪を掻き上げ、冷酷な光を瞳に宿して罪人たちを見下ろした。
幸い、首謀者であるバルトロメウスたちの身柄はここにある。

「……ガルディニア王国、および周辺同盟国は、我が国の第二王子を陥れるため『禁忌の侵略』を企てた。その結果、彼ら自身の禁忌魔術が制御を失って暴走し、自国を巻き込んで自滅した……。我が国は、その公式発表を以てこの地を直轄地とする。そして生き残ったこの罪人二人には、我が国の法に基づき、死すら許されぬ終身の断罪を与える」

それが、生温さを捨てたアルフレッドが下した、冷徹な『大人の政治』の結末だった。


一瞬にして元の安全な第二王子の私室へと帰ってきたアルヴィーノは、ルミをふかふかのベッドにそっと下ろし、すぐにその華奢な身体を包み込むように抱きしめた。
数日間の監禁、そして自分の姿をした怪物に怯え続けたルミの恐怖を、少しずつ自分の温もりで上書きしていくように。

「ルミ。可哀想に、本当に怖かったでしょう……。もう貴方を脅かすものは、この世界のどこにもいません」
「ううん……。俺ね、声が出ない間も、ずっと心の中で王子様のこと呼んでたんだよ。そしたら、本当に助けに来てくれた……。アルヴィーノ、さま……っ」

ルミはアルヴィーノの胸に顔を埋め、今度は恐怖の涙ではなく、嬉しさと安心の涙をぽろぽろと零した。
アルヴィーノはその涙を愛おしげに唇で拭い、ルミの耳元で酷く優しく囁く。

「ええ、ちゃんと届いていましたよ。……貴方のその愛らしい声が、私を地獄から引き戻してくれたのですから」

窓の外には、変わらない王宮の穏やかな陽だまり。
世界がどれほど形を変えようとも、この部屋の中だけは、昨日よりもさらに深い絆で結ばれた、二人だけの甘く静かな時間が流れていくのだった。
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