主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを

静まり返った、真っ白な更地。
そこは、かつて四つの国家が栄華を誇っていた場所の成れの果てだった。

「ひ、ぃ……あ、ああ……っ」

五体満足のまま恐怖で狂いかけ、泡を吹いて這いずり回る宰相バルトロメウス。
そして、両腕を失い、血の海に沈んでいた偽物のアルヴィーノ。
二人は、目の前に立つ紫の髪の魔王が、自分たちを「どうして」生き残らせたのか、その本当の絶望をまだ理解していなかった。
アルヴィーノの紫の瞳には、もはや一切の知性も、人間としての自我も宿っていない。
ただ、左腕のなかで光を失い、人形のようにぐったりとしているルミを抱きしめたまま、右手のリズミカルな動きだけで、銀の杖を静かにかざした。
銀の杖の先端が、昏いおぞましい光を放つ。

――時空・生命属性『リザレクション・インフィニティ』

「ぎ、あああああああッ!?!?!?」

突如、更地に二人の凄まじい絶叫が響き渡った。
バルトロメウスの肉体が、足元から細胞レベルでじわじわと腐食し、溶けていく。
同時に、両腕を失っていた偽アルヴィーノの傷口からは、内臓が、骨が、文字通り破裂するようにして外へと飛び散っていく。
呼吸を止め、心臓が爆ぜ、脳が死に至る――その、人間が味わいうる「完全な死」の激痛が二人の意識を刈り取った、まさにその瞬間。
アルヴィーノのえげつない魔力値によって発動した蘇生魔法が、二人の肉体を、魂を、強制的に一秒前の「生」へと引き戻した。

「はっ、ひ、あ、あああああッ!? 死、死んで……頼む、死なせてくれええええ!!」

死んだはずの肉体が瞬時に再生し、再び、先ほどとは違う「業火に焼かれる死」が二人を襲う。
心臓が焼き切れ、灰になる寸前で、またしても『蘇生』される。
次は「全身の血液が沸騰して破裂する死」。
その次は「肉体が凍りついて粉々に砕け散る死」。

「やめなさい!! アルヴィーノ、もうやめるんだ!! 彼らはもう十分に報いを受けた! これ以上は君の魂が壊れてしまう!!」

アルフレッドが、喉を掻きむしるようにして何度も、何度も叫んでいた。
だが、今のアルヴィーノにはその声は1ミリも届いていない。
自我を失った彼の耳にあるのは、ルミが数日間の暗闇で流した涙の音だけだ。
ルミが味わった恐怖、奪われた声、汚された肌。
その数日間の地獄を、この男たちの肉体を使って数万倍、数億倍の「死のループ」で支払わせるまで、彼の右手が止まることはない。

「た、たす、けて……っ、もう嫌だ、死なせて……お願いだから、殺してください……っ!!」

かつて一国の政治を裏で操り、傲慢に不敵な笑みを浮かべていたバルトロメウスが、今や涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃに汚し、死を乞うて更地に頭を何度も叩きつけている。
けれど、アルヴィーノはそんな懇願など一瞥もせず、ただ機械的に、冷酷に、銀の杖を振り続ける。
死んでは蘇り、蘇っては死ぬ。
死を懇願されてもやめない。
終わりのない絶望の輪廻が、真っ白な更地の上で永遠に続くかと思われた、その時だった。

「……ん、……っ」

アルヴィーノの左腕の中で、ずっと人形のように動かなかった小さな身体が、微かに跳ねた。
声を奪われていたはずのルミの喉から、小さく、掠れた吐息が漏れる。

「……う、……お、うじ……さま……? ほ、んもの……?」

数日間に及ぶ地獄のような監禁と、大好きな人の姿をした怪物からの精神的蹂躙。
その深い、深い絶望の眠りの底から、ルミの水色の瞳が、ゆっくりと瞬きをして光を取り戻し始めた。
視界に映るのは、自分を壊れ物を扱うように愛おしげに、けれど信じられないほどの力で強く抱きしめている、本物のアルヴィーノの胸元。

「ル、ミ……?」

その声が聞こえた瞬間。
世界を滅ぼし、死の無限ループを紡いでいたアルヴィーノの右手が、ピタリと動きを止めた。
暗黒の虚無で塗りつぶされていたその紫の瞳に、一瞬にして、鮮烈な「人間としての光」と「自我」が引き戻される。

「ルミ! 目が覚めましたか!? ルミ……っ!!」

死を繰り返していたバルトロメウスたちのことなど一瞬で脳内から消え去り、アルヴィーノは取り乱したようにルミの顔を両手で包み込んだ。
ルミの水色の瞳に、あの温かな自分の姿が映り込んでいるのを見た瞬間、魔王の目から、初めてポロポロと大きな涙が溢れ落ちた。

「あ……ほ、んとの……アル、ヴィーノ……さま……だぁ……。ごめんね、俺……お留守番、ちゃんと、できなくて……っ」

声が出せるようになったルミが、震える小さな手でアルヴィーノの頬の涙を拭おうとする。
その健気で、あまりにも愛おしい本物のルミの温もりに、アルヴィーノは子供のように声を詰まらせて、その身体を狂おしいほどに抱きしめ直すのだった。
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