主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを

――その絶叫が届いたのか、あるいは、世界がまだアルヴィーノにこの上ない絶望を与えることを選んだのか。

医官たちが蘇生を諦めかけたその瞬間。
アルヴィーノの手の中で、ルミの冷え切った指先が、ほんの微かにピクリと動いた。
それと同時に単調な警告音が、突如として途切れる。

「……脈、脈が戻りました!!」
「魔力炉、微弱ですが……再稼働を始めました! 蘇生、蘇生成功です!!」

医官たちの悲鳴に近い叫び声が、医療室に響き渡る。
ルミの胸元に、かつてないほど不安定で、いつ消えてもおかしくないほど微かな、薄氷を踏むような脈動が戻ってきた。
アルヴィーノは、ルミの胸に顔を埋めたまま、ただ震えていた。
指先から伝わるそのあまりにも微かな体温に、安堵などという生易しい感情は浮かばなかった。
ただ、全身を襲う凄まじい悪寒と、胃を抉られるような恐怖が、彼の肉体を支配していた。

(……生き、ているのですか……? これが……?)

指を離せば、すぐにでも霧のように消えてしまいそうな、このあまりにも頼りない命の灯。
アルヴィーノは、ルミの胸ぐらを掴んでいた手をゆっくりと解き、その青白い頬に、自分の震える指先をそっと添えた。
認めるしかなかった。
この頼りない脈動ひとつで、自分の世界は天国にも地獄にもなるほどに入れ込んでいたことを。

――そこから、さらに数週間という果てしない時間が過ぎた。

ルミの容態は「持ち直した」とは言え、依然としていつ容態が急変してもおかしくない薄氷の状態が続いていた。
そして何より、あの夜の死にかけを境にルミは、深い深い昏睡の底へと沈み込んでしまった。
窓の外の世界が何度夜の闇に塗り潰され、再び白々とした朝を連れてこようとも、ルミの瞳が開くことはなかった。
時間が過ぎるほどにアルヴィーノの衰弱は、王宮内の誰もが眉をひそめるほどに加速していった。
あの日以来、アルヴィーノはルミのベッドの脇から一歩も動こうとしなかった。
食事は医官たちが無理やり流し込むスープを数口すするのみ。
眠ることさえ、彼は拒絶し続けた。

「……眠ったら……眠ったら、この子が、また消えてしまう……」

乱れ放題の髪、血の気の失せた土気色の肌、そして漆黒の闇のように深い隈が刻まれた瞳。
かつて「完璧な軍師」と称された優雅な王子の面影は、そこには影も形もなかった。
ただ、少年の手を握りしめ、何かをブツブツと呟き続ける、生き霊のような男が一人いるだけだ。
王宮内では、「第二王子が狂った」という噂が、すでに確定事項として広がっていた。

「……おい、聞いたか? 第二王子殿下、もう一ヶ月近く、あの少年のベッドの横から動いていないらしい……」
「ああ、食事も拒否して、ただ少年の手を握りしめて、ずっと『私を、においていかないでください』って呟いているそうだ……。医官が近づこうとしたら、蛇に睨まれた蛙みたいに威圧されて泣き崩れていたメイドがいたらしい……」

周りのドン引きの視線も、兄アルフレッドの心配そうな顔も、今のアルヴィーノには1ミリも届かなかった。
彼の世界は、この薄氷のようなルミの脈動を、自らの手の温もりで繋ぎ止めることだけに限定されていた。
何週間も、何十時間も、目を覚ましてほしいという同じ祈りを空虚に繰り返し続ける。
ルミの冷たい手の甲に、アルヴィーノはそっと自分の額を押し当てた。
限界を超えて摩耗した脳みそが、ふっと薄れていく。
一瞬、強烈な目眩が彼を襲い、視界がぐにゃりと歪む。

「……っ……だめだ……手を、離すな……」

アルヴィーノは奥歯が砕けんばかりに噛み締め、その激痛で無理やり意識を覚醒させた。
口の端から、一筋の赤い血が伝い落ちる。
限界の向こう側で、なおもルミという名の煉獄にしがみつき続けるアルヴィーノ。
王宮の隅にある医療室で、かつての完璧な王子は、ただ一人の少年のために、静かに、そして確実に枯死していこうとしていた。
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