主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを
狂愛の檻と、光の揺り籠㊳
それから数日の時が流れ――。
あの嵐のような騒動が嘘だったかのように、レイストールの王宮には穏やかな日常が戻っていた。
心身ともにすっかり元気を取り戻したレオとリリィは、初夏の柔らかな木漏れ日を浴びながら、色鮮やかな花々が咲き誇る王宮の庭園をゆっくりと散歩していた。
「レオ様、みて、ください……っ。あおいお花、とっても……きれいです……」
「ええ、本当に美しいですね、リリィ。……ですが、貴方の髪の輝きには敵いませんよ」
「ふえっ……? そ、そんなこと……ない、です……っ」
たどたどしくも嬉しそうに微笑むリリィの手を、レオは今度は優しく、そして誇らしげに握りしめていた。
もう二度と、彼女をあの暗い部屋に閉じ込めたりはしない。
この広い世界で、共に歩んでいくのだという決意が、二人の足取りを確かなものにしていた。
レンガ調の遊歩道を曲がり、噴水広場へと差し掛かった、その時だった。
正面から、同じように並んで歩いてくる二人の影があった。
完璧に着こなした漆黒の軍服、そしてその隣には、これでもかとフリルがあしらわれた、いつもの愛らしい白いロリータ服。
アルヴィーノとルミだった。
「あっ……」
誰からともなく小さな声が漏れ、その場に奇妙な静寂が訪れる。
温泉街へ二ヶ月の長期休暇に出かけたはずの叔父と、その最愛の従者。
なぜ彼らが今、目の前の庭園をのんびりと散歩しているのか。
無言のまま、互いに足を止め、じっと見つめ合う四人。
レオは「なぜここにいるのですか」と言いたげに眉をひそめ、リリィはおずおずとレオの後ろに隠れる。
ルミは気まずそうに、けれどどこか嬉しそうに水色の瞳を泳がせている。
その重苦しい沈黙を破り、最初に声を放ったのは、やはりこの男――アルヴィーノだった。
「……何か言いたげですね、レオ。私はまだ休暇中ですが、出発前にルミが『忘れ物をした』と言うので、一度荷物を取りに戻ってきただけです」
実にあっけらかんと、聞かれてもいない事を飄々と言い放つアルヴィーノ。
その薄い唇には、相変わらず掴みどころのない笑みが浮かんでいた。
「――では、さっさとその『忘れ物』とやらを持って、温泉街へ戻ったらどうですか?」
レオは新緑の瞳を冷ややかに細め、叔父であるアルヴィーノを真っ向から睨み据えた。
その声には、かつての焦燥や無力感など微塵もない。
堂々とした、一国の王子としての気高さを取り戻していた。
「私たちは二人で、この美しい庭園を心ゆくまで楽しみたいのです。邪魔をしないでいただきたい」
そう言い放つと同時に、レオはリリィの細い腰にそっと手を回し、自身の身体へと引き寄せた。
突然のことに「ふぇっ……!?」と顔を真っ赤にするリリィを、まるで「彼女は私のものだ」と見せつけるように、アルヴィーノの目の前で堂々と抱き寄せ、不敵に口元を歪めて煽ってみせる。
己の未熟さを知り、大人になると決意したレオなりの、精一杯の意地と反撃だった。
だが、百戦錬磨の天才軍師が、その程度の挑発で動じるはずもなかった。
「ええ、そのつもりですよ」
アルヴィーノは眉一つ動かさず、至ってサラリとレオの言葉を受け流した。
それどころか、ごく自然な動作で隣にいるルミの肩を抱き寄せ、自分の胸元へと引き寄せる。
白いロリータ服のフリルが、アルヴィーノの漆黒の軍服に重なった。
「兄上への書類の置き土産も無事に片付いたようですし、私としても、これ以上ここに長居して野暮な邪魔をするつもりはありません。……行きましょうか、ルミ」
「うん! アルヴィーノ様、行こ!」
抱き寄せられたルミは、嬉しそうにアルヴィーノの顔を見上げて微笑む。
アルヴィーノもまた、ルミに向ける瞳だけには深い慈愛を滲ませ、そのままレオたちに視線を戻すことなく、優雅な足取りでその場を去っていった。
去り際、ルミがレオたちの後ろで真っ赤になっているリリィに気づき、「リリィちゃん、またねー!」と無邪気にぶんぶんと手を振っていく。
嵐のように現れ、いつの間にかマウントを奪い返すような形で去っていった叔父の後ろ姿を、レオは忌々しそうに見送った。
「……相変わらず、食えない御方です」
「レ、レオ様……あ、あの……もう、お顔が……近いです……っ」
腕の中でゆで卵のように赤くなっているリリィの声に、レオはハッと我に返った。
慌てて腕の力を緩め、少し気恥ずかしそうにコホンと咳払いをする。
「失礼いたしました、リリィ。……ですが、約束通り、もう誰にも邪魔はさせません。さあ、私達の散歩を続けましょう」
「はい……っ、レオ様!」
また少しだけ距離の縮まった二人は、今度こそ二人だけの穏やかな時間を楽しむために、初夏の光が満ちる庭園の奥へと歩み進めていくのだった。
それから数日の時が流れ――。
あの嵐のような騒動が嘘だったかのように、レイストールの王宮には穏やかな日常が戻っていた。
心身ともにすっかり元気を取り戻したレオとリリィは、初夏の柔らかな木漏れ日を浴びながら、色鮮やかな花々が咲き誇る王宮の庭園をゆっくりと散歩していた。
「レオ様、みて、ください……っ。あおいお花、とっても……きれいです……」
「ええ、本当に美しいですね、リリィ。……ですが、貴方の髪の輝きには敵いませんよ」
「ふえっ……? そ、そんなこと……ない、です……っ」
たどたどしくも嬉しそうに微笑むリリィの手を、レオは今度は優しく、そして誇らしげに握りしめていた。
もう二度と、彼女をあの暗い部屋に閉じ込めたりはしない。
この広い世界で、共に歩んでいくのだという決意が、二人の足取りを確かなものにしていた。
レンガ調の遊歩道を曲がり、噴水広場へと差し掛かった、その時だった。
正面から、同じように並んで歩いてくる二人の影があった。
完璧に着こなした漆黒の軍服、そしてその隣には、これでもかとフリルがあしらわれた、いつもの愛らしい白いロリータ服。
アルヴィーノとルミだった。
「あっ……」
誰からともなく小さな声が漏れ、その場に奇妙な静寂が訪れる。
温泉街へ二ヶ月の長期休暇に出かけたはずの叔父と、その最愛の従者。
なぜ彼らが今、目の前の庭園をのんびりと散歩しているのか。
無言のまま、互いに足を止め、じっと見つめ合う四人。
レオは「なぜここにいるのですか」と言いたげに眉をひそめ、リリィはおずおずとレオの後ろに隠れる。
ルミは気まずそうに、けれどどこか嬉しそうに水色の瞳を泳がせている。
その重苦しい沈黙を破り、最初に声を放ったのは、やはりこの男――アルヴィーノだった。
「……何か言いたげですね、レオ。私はまだ休暇中ですが、出発前にルミが『忘れ物をした』と言うので、一度荷物を取りに戻ってきただけです」
実にあっけらかんと、聞かれてもいない事を飄々と言い放つアルヴィーノ。
その薄い唇には、相変わらず掴みどころのない笑みが浮かんでいた。
「――では、さっさとその『忘れ物』とやらを持って、温泉街へ戻ったらどうですか?」
レオは新緑の瞳を冷ややかに細め、叔父であるアルヴィーノを真っ向から睨み据えた。
その声には、かつての焦燥や無力感など微塵もない。
堂々とした、一国の王子としての気高さを取り戻していた。
「私たちは二人で、この美しい庭園を心ゆくまで楽しみたいのです。邪魔をしないでいただきたい」
そう言い放つと同時に、レオはリリィの細い腰にそっと手を回し、自身の身体へと引き寄せた。
突然のことに「ふぇっ……!?」と顔を真っ赤にするリリィを、まるで「彼女は私のものだ」と見せつけるように、アルヴィーノの目の前で堂々と抱き寄せ、不敵に口元を歪めて煽ってみせる。
己の未熟さを知り、大人になると決意したレオなりの、精一杯の意地と反撃だった。
だが、百戦錬磨の天才軍師が、その程度の挑発で動じるはずもなかった。
「ええ、そのつもりですよ」
アルヴィーノは眉一つ動かさず、至ってサラリとレオの言葉を受け流した。
それどころか、ごく自然な動作で隣にいるルミの肩を抱き寄せ、自分の胸元へと引き寄せる。
白いロリータ服のフリルが、アルヴィーノの漆黒の軍服に重なった。
「兄上への書類の置き土産も無事に片付いたようですし、私としても、これ以上ここに長居して野暮な邪魔をするつもりはありません。……行きましょうか、ルミ」
「うん! アルヴィーノ様、行こ!」
抱き寄せられたルミは、嬉しそうにアルヴィーノの顔を見上げて微笑む。
アルヴィーノもまた、ルミに向ける瞳だけには深い慈愛を滲ませ、そのままレオたちに視線を戻すことなく、優雅な足取りでその場を去っていった。
去り際、ルミがレオたちの後ろで真っ赤になっているリリィに気づき、「リリィちゃん、またねー!」と無邪気にぶんぶんと手を振っていく。
嵐のように現れ、いつの間にかマウントを奪い返すような形で去っていった叔父の後ろ姿を、レオは忌々しそうに見送った。
「……相変わらず、食えない御方です」
「レ、レオ様……あ、あの……もう、お顔が……近いです……っ」
腕の中でゆで卵のように赤くなっているリリィの声に、レオはハッと我に返った。
慌てて腕の力を緩め、少し気恥ずかしそうにコホンと咳払いをする。
「失礼いたしました、リリィ。……ですが、約束通り、もう誰にも邪魔はさせません。さあ、私達の散歩を続けましょう」
「はい……っ、レオ様!」
また少しだけ距離の縮まった二人は、今度こそ二人だけの穏やかな時間を楽しむために、初夏の光が満ちる庭園の奥へと歩み進めていくのだった。
