主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを

治療が終わった頃には、夜はすでに明けていた。
窓の隙間から差し込む白々とした朝光が、血と薬品に汚れた医療室を冷酷に照らし出す。
アルヴィーノは丸一日、一歩もその場から動かなかった。
部下たちがどれほど休息を勧めても、その声は彼の耳には一切届かない。
ただ、ベッドの脇に力なく膝をつき、ルミの冷え切った手を、両手で痛いくらいに強く、強く握りしめていた。
ここで手を離せば彼の魂が本当に天へと還ってしまうのではないかという、子供じみた恐怖のままに。
依然として、ルミは危険な状態のままだった。
魔術による生命維持装置の微かな駆動音だけが、部屋に虚しく響いている。
包帯に包まれた小さな身体は、時折、浅い呼吸と共に痛々しく震えていた。
ルミの手の冷たさが、アルヴィーノの指先を伝い、彼の心をじわじわと凍らせていく。
その凍えるような暗闇の中で、アルヴィーノはぐるぐると巡らせていた思考の最果て。
ついに辿り着いてしまった。

(ああ、違う。私は最初から、計算を間違えていた)

かつて、あの暗い研究所からこの少年を連れ出した時、彼は傲慢にもこう思っていた。
傷ついた哀れな少年を操り、自分に都合のいい「人形」に仕立て上げて利用してやるのだ、と。
手綱を握っているのは自分であり、この少年の心を支配しているのは自分なのだと、疑いもしなかった。
だが、それはあまりにも滑稽な勘違いだった。
お人形になれと言われれば、傷つきながらも「感情はいらない」と心を殺し、主が死ぬと思えば空から墜ちてまでその身を挺して盾となる。
そんなルミの純粋すぎる打算の狂った100%の愛に。
他人のための自己犠牲など「非合理的だ」と切り捨てていたはずの自分の脳を本当の意味で毒し、溶かされていたのは他でもない、自分アルヴィーノの方だったのだ。

「……ああ、私の負けですよ、ルミ……」

アルヴィーノの唇から自嘲を孕んだ、だが酷くあたたかい吐息が漏れた。
認めざるを得なかった。
自分がこれほどまでに彼に執着し、狂わされていた理由を。
これは、道具への過剰な固執などではない。
自分がどれだけ汚れていても、どれだけ冷酷な人間であっても、ただそこにいるだけで自分を救ってくれていたあの笑顔を、ルミという一人の存在を、どうしようもないほどに愛し、慈しみ、傷つけぬように大事にしたいという、一人の男としての「愛」だった。
それを自覚した瞬間、彼の中にあった兄への劣等感も、王宮への復讐も、精緻に組み立てたはずの計画も、どうでもよくなった。
そんなもののためにアルヴィーノはルミの心を傷つけ、あろうことか「人形」に戻ることを強いてしまった。
その結果が、この冷たくなった手だ。
アルヴィーノはルミの冷え切った手の甲に、そっと自分の額を押し当てた。
その瞳から静かに一筋の涙が零れ落ち、ルミの肌を濡らす。

「お願いですから、目を開けなさい……。今度は命令ではありません、私の……私の、心からの願いです……」

お前がいない世界など、私には何の価値もない。
だから頼むから、死なないでくれ。
もう二度と人形になどさせない。
私の腕の中で、もう一度、あの打算の狂ったあたたかい光を見せてくれ――。

朝の光の中で、アルヴィーノは初めて己の『愛』を受け入れ、ただ一人のルミのために、静かに祈り続けるのだった。
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