主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを
狂愛の檻と、光の揺り籠⑭
数日の間、レオの私室の灯りが消えることはなかった。
机の上に広げられたアイゼンハルト帝国の詳細な地図、白亜の塔の構造図、そして衛兵の交代周期を記した羊皮紙。
レオは張り巡らされたすべての導線を頭の中で幾度も走らせ、最適解だけを抽出していった。
完璧だ。非の打ち所がない。
あの冷酷な叔父上すら、この計画の緻密さを見れば舌を巻くに違いない。
大人の人間を病的に恐れるリリィを怯えさせないよう、突入時の人員は己を含め最小限に絞る。
衛兵の意識を逸らすための偽装工作、退路の確保、そして彼女を保護した後の隠れ家まで、すべては一筋の狂いもなく線で結ばれていた。
「待っていてください、リリィ。今、私が貴方を救い出します」
レイストール出国の日、レオの胸はかつてない高揚感に満たされていた。
ルミを求めていた時の、あの血を吐くような無力感とは違う。
今度の自分は、暗闇の底で震える少女に差し伸べられる、唯一の救いの光なのだ。彼女の絶対的な信愛を勝ち取り、己の檻へと迎え入れる――その輝かしい未来が、すぐ目の前に迫っていると確信していた。
傲慢なまでの全能感と、熱を帯びた使命感を胸に、レオは漆黒の夜闇に紛れ、リリィが囚われているという白亜の塔へと足を踏み入れた。
――だが、その「完璧」は、あまりにも容易く、無慈悲に崩壊することになる。
◇
「……な、に……これ、は……」
白亜の塔の最上階。
リリィが幽閉されているはずの部屋の扉を、音もなくこじ開けたレオは、その場に縫い付けられたように硬直した。
完璧に調べ上げたはずの衛兵の巡回ルート。
だが、部屋の前に立っていたのは、事前に把握していた凡庸な兵士たちではなかった。
漆黒の甲冑に身を包んだ、明らかに常軌を逸した魔力を放つ、アイゼンハルト帝国が誇る近衛の精鋭、それも一個小隊が、初めからレオの来訪を「知っていた」かのように整然と待ち構えていたのだ。
「遅かったな、レイストールの若き策士」
中央から進み出た騎士の、冷徹な声が響く。
罠だ。その一語が、レオの脳内を最悪の結動で満たした。
完璧だったはずの計画。
どこで漏れた? 誰が売った? 密偵か? それとも――。
脳裏をよぎったのは、あの不敵に微笑む紫の瞳。
『毒を以て毒を制す』
叔父上はそう言った。
レオの視線をルミから逸らすために、この情報を与えたのだと。
ならば、この結末さえも、あの魔王の掌の上だったというのか。
狂愛の矛先を変えさせ、さらにその先で、調子に乗った甥の鼻をもう一度完璧にへし折るために。
「くっ……!」
レオは即座に魔力を練り上げ、剣を抜こうとした。
だが、相手は一国の精鋭だ。
多勢に無勢、おまけにここは敵国の懐深く。
包囲網は一瞬で狭まり、レオの身体は瞬く間に冷たい床へと組み伏せられた。
「リリィ……! リリィ……ッ!!」
床に顔を押し付けられながらも、レオは狂ったように部屋の奥の、豪奢な帳の向こうを睨みつけた。
だが、そこに彼女の姿はなかった。
あるのは、もぬけの殻となったベッドと、床に点々と落ちた、主を失った白百合の花びらだけ。
「無駄だ。その娘なら、数日前に別の場所へ移送された。お前のような野良犬が、帝国の『不浄』に触れることなど、最初から許されていないのだよ」
騎士の嘲笑混じりの言葉が、レオの耳に突き刺さる。
いなかった。
自分が命を懸け、完璧な計画を立てて、ようやく救い出せるはずだった、自分だけの雛鳥。
その存在すら、ここには最初から無かったのだ。
絶対に自分が助けるのだと、あれほど気高くいられたはずの心が、音を立てて瓦解していく。
ルミの時と同じだ。
どれだけ策略を巡らせようとも、どれだけ血の滲むような努力を重ねようとも、自分の手のひらは、すり抜けていく砂のように何一つ掴むことができない。
「あ……、あああああ……ッ!!」
冷徹な策士の仮面は完全に剥がれ落ち、レオは夜の塔で、ただ無様に絶叫した。
救い手になるはずだった少年は、再び、何一つ持たない掠れた敗北者へと叩き落とされた。
その様子を、遥か遠くのレイストールから見下ろす、あの男の冷笑を感じながら。
アイゼンハルト帝国の冷たい床に這いつくばり、捕縛され、外交問題の一歩手前で「無能な若気の至り」として送り返された。
レイストール王国への帰路は、レオにとって死刑台へ続く歩道よりも屈辱的だった。
ボロボロの体で自身の私室へと戻り、扉を閉めた瞬間、レオは床に崩れ落ちた。
指先が震える。
剣術、勉学、魔法、そのすべてを貪り、完璧な計画を立てたつもりだった。
今度こそ、誰も入り込めない自分だけの檻を完成させ、あの白き雛鳥を救い出すはずだった。
なのに、なぜ。
「――無様な姿ですね、レオ」
暗闇に溶けていた低い声音が、部屋の空気を凍らせた。
レオが弾かれたように顔を上げると、部屋の奥、月明かりが差し込む窓辺に、漆黒の軍服を纏った男が佇んでいた。
彼はつい先ほどまで、己の腕の中で愛おしげに微睡んでいたルミを、優しく寝かしつけてきたばかりだった。
その双眸には、深い闇のような冷酷さと、すべてを見通す傲慢な光が宿っている。
「叔父……上……」
「我が国の次期国王が、隣国の罠に容易く嵌まり、命乞いをするように帰還するとは。兄上が裏でどれほど頭を下げたか、想像もつかないのでしょうね」
アルヴィーノは静かに歩み寄り、床に伏せるレオを冷徹に見下ろした。その足音は、死神の足音のように重く響く。
「なぜ、このような結果になったか、分かりますか」
アルヴィーノの問いに、レオは歯を食いしばり、血が滲むほどに唇を噛んだ。
「……わかり、ません。私は、完璧な計画を立てたはずです。衛兵の巡回、時間、退路、すべてを計算して……」
「『完璧』、ですか。片腹痛い」
アルヴィーノの唇が、酷薄な笑みに歪んだ。
「貴方の立てた作戦は、児戯にも等しい。穴だらけの、極めて稚拙な妄想です」
そこからのアルヴィーノは、まさに『鬼』だった。
一切の容赦なく、冷徹な言葉の刃で、レオが築き上げた「完璧」を粉々に解体していった。
「第一に、情報源の精査が甘い。貴方が放った密偵が、最初からアイゼンハルト側に買収されている可能性をなぜ考慮しなかった? 敵国が『不浄の姫』という極秘の存在を、なぜあのタイミングで貴方に目撃させた? すべては、お前のような青二才を誘い出すための撒き餌だ。
第二に、突入人員の絞り込み。リリィを怯えさせないため、などという感傷で戦力を削るなど、愚行の極み。戦場において最優先されるべきは『確実な奪還と生還』だ。不確定要素を排除せぬまま少人数で敵地に赴くなど、ただの自殺志願者と変わらない。
第三に、移送の可能性の看過。敵がこちらの動きを察知した際、対象を事前に移動させるという防衛策を、なぜ想定から外した? 貴方は『そこにリリィがいる』という願望を前提に作戦を組み立てた。それは戦略ではなく、ただの神頼みです」
一言、言われるたびに、レオの心臓に楔が打ち込まれていくようだった。
アルヴィーノが指摘する欠点は、どれもあまりに正論で、あまりに致命的だった。
自分が「完璧」だと信じ込んでいたものは、ただの独りよがりの、視野の狭い独白に過ぎなかったのだと、突きつけられる。
「貴方はルミの時もそうだった。外堀を埋めれば手に入ると、自らの都合の良い盤面だけを夢想していた。本質が見えていないのです。だから、一度破滅してもなお、同じ過ちを繰り返す」
叔父の言葉は、レオのプライドを、魂を、完膚なきまでに叩き潰した。
再び訪れる、圧倒的な無力感。この男には、一生勝てない。
ルミを奪うことも、リリィを救うことも、自分には何もできない。
しかし。
レオの緑の瞳の奥で、昏い泥のような執念が、再びちろちろと燃え上がった。
このまま終われば、リリィはあの地獄で朽ち果てる。
彼女を自分だけの檻に閉じ込めるという誓いすら、ただの幻に終わる。それだけは、絶対に耐えられない。
レオは床に額を擦り付けた。
かつての「光の王子」としてのプライドなど、もうどうでもよかった。歪んだ支配欲を満たすためなら、悪魔にでも縋る。
「……叔父上」
「何ですか」
「教えて、ください……!」
レオは血を吐くような声で、冷酷な軍師を見上げた。
その瞳には、かつてルミを求めた時とは違う、獲物を絶対に逃さないための、冷徹な獣のギラつきが宿っていた。
「彼女を……リリィを、確実にこの手で救い出し、私のものにするための、本当の戦略の練り方を。敵を欺き、盤面を支配し、絶対に失敗しないための方法を……どうか、私に教えてください……!」
頭を垂れる甥の姿を、アルヴィーノはしばらく無言で見下ろしていた。
やがて、部屋の空気を震わせるような、低く愉悦に満ちた笑い声が、魔王の唇から漏れ出た。
「いいでしょう。そこまで歪み、泥を啜る覚悟があるというのなら――『慈悲なき軍師』の戦術を、その骨の髄まで叩き込んで差し上げます」
それは、次期国王たる光の王子が、本物の「怪物」へと変貌を遂げるための、血塗られた契約の瞬間だった。
数日の間、レオの私室の灯りが消えることはなかった。
机の上に広げられたアイゼンハルト帝国の詳細な地図、白亜の塔の構造図、そして衛兵の交代周期を記した羊皮紙。
レオは張り巡らされたすべての導線を頭の中で幾度も走らせ、最適解だけを抽出していった。
完璧だ。非の打ち所がない。
あの冷酷な叔父上すら、この計画の緻密さを見れば舌を巻くに違いない。
大人の人間を病的に恐れるリリィを怯えさせないよう、突入時の人員は己を含め最小限に絞る。
衛兵の意識を逸らすための偽装工作、退路の確保、そして彼女を保護した後の隠れ家まで、すべては一筋の狂いもなく線で結ばれていた。
「待っていてください、リリィ。今、私が貴方を救い出します」
レイストール出国の日、レオの胸はかつてない高揚感に満たされていた。
ルミを求めていた時の、あの血を吐くような無力感とは違う。
今度の自分は、暗闇の底で震える少女に差し伸べられる、唯一の救いの光なのだ。彼女の絶対的な信愛を勝ち取り、己の檻へと迎え入れる――その輝かしい未来が、すぐ目の前に迫っていると確信していた。
傲慢なまでの全能感と、熱を帯びた使命感を胸に、レオは漆黒の夜闇に紛れ、リリィが囚われているという白亜の塔へと足を踏み入れた。
――だが、その「完璧」は、あまりにも容易く、無慈悲に崩壊することになる。
◇
「……な、に……これ、は……」
白亜の塔の最上階。
リリィが幽閉されているはずの部屋の扉を、音もなくこじ開けたレオは、その場に縫い付けられたように硬直した。
完璧に調べ上げたはずの衛兵の巡回ルート。
だが、部屋の前に立っていたのは、事前に把握していた凡庸な兵士たちではなかった。
漆黒の甲冑に身を包んだ、明らかに常軌を逸した魔力を放つ、アイゼンハルト帝国が誇る近衛の精鋭、それも一個小隊が、初めからレオの来訪を「知っていた」かのように整然と待ち構えていたのだ。
「遅かったな、レイストールの若き策士」
中央から進み出た騎士の、冷徹な声が響く。
罠だ。その一語が、レオの脳内を最悪の結動で満たした。
完璧だったはずの計画。
どこで漏れた? 誰が売った? 密偵か? それとも――。
脳裏をよぎったのは、あの不敵に微笑む紫の瞳。
『毒を以て毒を制す』
叔父上はそう言った。
レオの視線をルミから逸らすために、この情報を与えたのだと。
ならば、この結末さえも、あの魔王の掌の上だったというのか。
狂愛の矛先を変えさせ、さらにその先で、調子に乗った甥の鼻をもう一度完璧にへし折るために。
「くっ……!」
レオは即座に魔力を練り上げ、剣を抜こうとした。
だが、相手は一国の精鋭だ。
多勢に無勢、おまけにここは敵国の懐深く。
包囲網は一瞬で狭まり、レオの身体は瞬く間に冷たい床へと組み伏せられた。
「リリィ……! リリィ……ッ!!」
床に顔を押し付けられながらも、レオは狂ったように部屋の奥の、豪奢な帳の向こうを睨みつけた。
だが、そこに彼女の姿はなかった。
あるのは、もぬけの殻となったベッドと、床に点々と落ちた、主を失った白百合の花びらだけ。
「無駄だ。その娘なら、数日前に別の場所へ移送された。お前のような野良犬が、帝国の『不浄』に触れることなど、最初から許されていないのだよ」
騎士の嘲笑混じりの言葉が、レオの耳に突き刺さる。
いなかった。
自分が命を懸け、完璧な計画を立てて、ようやく救い出せるはずだった、自分だけの雛鳥。
その存在すら、ここには最初から無かったのだ。
絶対に自分が助けるのだと、あれほど気高くいられたはずの心が、音を立てて瓦解していく。
ルミの時と同じだ。
どれだけ策略を巡らせようとも、どれだけ血の滲むような努力を重ねようとも、自分の手のひらは、すり抜けていく砂のように何一つ掴むことができない。
「あ……、あああああ……ッ!!」
冷徹な策士の仮面は完全に剥がれ落ち、レオは夜の塔で、ただ無様に絶叫した。
救い手になるはずだった少年は、再び、何一つ持たない掠れた敗北者へと叩き落とされた。
その様子を、遥か遠くのレイストールから見下ろす、あの男の冷笑を感じながら。
アイゼンハルト帝国の冷たい床に這いつくばり、捕縛され、外交問題の一歩手前で「無能な若気の至り」として送り返された。
レイストール王国への帰路は、レオにとって死刑台へ続く歩道よりも屈辱的だった。
ボロボロの体で自身の私室へと戻り、扉を閉めた瞬間、レオは床に崩れ落ちた。
指先が震える。
剣術、勉学、魔法、そのすべてを貪り、完璧な計画を立てたつもりだった。
今度こそ、誰も入り込めない自分だけの檻を完成させ、あの白き雛鳥を救い出すはずだった。
なのに、なぜ。
「――無様な姿ですね、レオ」
暗闇に溶けていた低い声音が、部屋の空気を凍らせた。
レオが弾かれたように顔を上げると、部屋の奥、月明かりが差し込む窓辺に、漆黒の軍服を纏った男が佇んでいた。
彼はつい先ほどまで、己の腕の中で愛おしげに微睡んでいたルミを、優しく寝かしつけてきたばかりだった。
その双眸には、深い闇のような冷酷さと、すべてを見通す傲慢な光が宿っている。
「叔父……上……」
「我が国の次期国王が、隣国の罠に容易く嵌まり、命乞いをするように帰還するとは。兄上が裏でどれほど頭を下げたか、想像もつかないのでしょうね」
アルヴィーノは静かに歩み寄り、床に伏せるレオを冷徹に見下ろした。その足音は、死神の足音のように重く響く。
「なぜ、このような結果になったか、分かりますか」
アルヴィーノの問いに、レオは歯を食いしばり、血が滲むほどに唇を噛んだ。
「……わかり、ません。私は、完璧な計画を立てたはずです。衛兵の巡回、時間、退路、すべてを計算して……」
「『完璧』、ですか。片腹痛い」
アルヴィーノの唇が、酷薄な笑みに歪んだ。
「貴方の立てた作戦は、児戯にも等しい。穴だらけの、極めて稚拙な妄想です」
そこからのアルヴィーノは、まさに『鬼』だった。
一切の容赦なく、冷徹な言葉の刃で、レオが築き上げた「完璧」を粉々に解体していった。
「第一に、情報源の精査が甘い。貴方が放った密偵が、最初からアイゼンハルト側に買収されている可能性をなぜ考慮しなかった? 敵国が『不浄の姫』という極秘の存在を、なぜあのタイミングで貴方に目撃させた? すべては、お前のような青二才を誘い出すための撒き餌だ。
第二に、突入人員の絞り込み。リリィを怯えさせないため、などという感傷で戦力を削るなど、愚行の極み。戦場において最優先されるべきは『確実な奪還と生還』だ。不確定要素を排除せぬまま少人数で敵地に赴くなど、ただの自殺志願者と変わらない。
第三に、移送の可能性の看過。敵がこちらの動きを察知した際、対象を事前に移動させるという防衛策を、なぜ想定から外した? 貴方は『そこにリリィがいる』という願望を前提に作戦を組み立てた。それは戦略ではなく、ただの神頼みです」
一言、言われるたびに、レオの心臓に楔が打ち込まれていくようだった。
アルヴィーノが指摘する欠点は、どれもあまりに正論で、あまりに致命的だった。
自分が「完璧」だと信じ込んでいたものは、ただの独りよがりの、視野の狭い独白に過ぎなかったのだと、突きつけられる。
「貴方はルミの時もそうだった。外堀を埋めれば手に入ると、自らの都合の良い盤面だけを夢想していた。本質が見えていないのです。だから、一度破滅してもなお、同じ過ちを繰り返す」
叔父の言葉は、レオのプライドを、魂を、完膚なきまでに叩き潰した。
再び訪れる、圧倒的な無力感。この男には、一生勝てない。
ルミを奪うことも、リリィを救うことも、自分には何もできない。
しかし。
レオの緑の瞳の奥で、昏い泥のような執念が、再びちろちろと燃え上がった。
このまま終われば、リリィはあの地獄で朽ち果てる。
彼女を自分だけの檻に閉じ込めるという誓いすら、ただの幻に終わる。それだけは、絶対に耐えられない。
レオは床に額を擦り付けた。
かつての「光の王子」としてのプライドなど、もうどうでもよかった。歪んだ支配欲を満たすためなら、悪魔にでも縋る。
「……叔父上」
「何ですか」
「教えて、ください……!」
レオは血を吐くような声で、冷酷な軍師を見上げた。
その瞳には、かつてルミを求めた時とは違う、獲物を絶対に逃さないための、冷徹な獣のギラつきが宿っていた。
「彼女を……リリィを、確実にこの手で救い出し、私のものにするための、本当の戦略の練り方を。敵を欺き、盤面を支配し、絶対に失敗しないための方法を……どうか、私に教えてください……!」
頭を垂れる甥の姿を、アルヴィーノはしばらく無言で見下ろしていた。
やがて、部屋の空気を震わせるような、低く愉悦に満ちた笑い声が、魔王の唇から漏れ出た。
「いいでしょう。そこまで歪み、泥を啜る覚悟があるというのなら――『慈悲なき軍師』の戦術を、その骨の髄まで叩き込んで差し上げます」
それは、次期国王たる光の王子が、本物の「怪物」へと変貌を遂げるための、血塗られた契約の瞬間だった。
