主と従者の檻に、世界で一番甘い誓いを

そこは、言葉通りの「地獄」だった。
薄暗い地下室。
湿気で膨れた石壁には黒いカビが這い、床には乾ききらない血の跡がこびりついている。
空気は鉄錆と腐臭で重く、息を吸うだけで喉が焼けるようだった。
その中心で、少年は丸くなっていた。
のちに『ルミ』と呼ばれることになるその子は、骨ばった身体にボロ布のような服をまとい、膝を抱えて震えていた。

服は色も形もわからないほど破れ、泥と血で固まっている。
露出した肌には、古い傷と新しい傷が幾重にも重なり、まるで「痛みの地図」のようだった。
瞳には光がなかった。
ただ、空虚な闇だけが沈んでいた。
鞭が振り下ろされるたび、皮膚が裂ける音が地下室に響く。
だが少年は叫ばない。泣かない。
痛みを感じるという当たり前の反応すら、もう失われていた。
彼を痛めつける大人たちは、決まって同じ言葉を吐いた。

「お前は失敗作だ」
「何の役にも立たないゴミめ」
「闇魔法を持って生まれたくせに、このザマか」
「せっかくの希少種だというのにとんだ不良品だな」

少年は最初こそ怯え、泣き、助けを求めた。
平穏な日々を送っていた彼は突然この施設に連れてこられて様々な実験を受け続けて。
何度も叫んだ。
やめて。
いたい。
たすけて。
なんでこんなことするの。
けれどその全ての言葉を周りの大人は無視し、実験を繰り返す。
何度も何度も。
彼のその声は何度も踏みにじられ、嘲笑され、殴りつけられ、やがて消えた。
言葉が消え、感情が消え、最後には「自分」という概念すら曖昧になっていった。

叩かれても痛くない。
罵られても悲しくない。
ただ、世界が灰色に沈んでいく。

(……俺は、壊れた人形だ)

そう思い込むことでしか、心を守れなかった。
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