孤独な神官は幼鬼に絆される

──数日後。

「ラグナ、今日は少し私に付き合ってくれる?」
「え? は、はい!」


いつもどおり神官服に着替えた私はラグナにそう声をかけ、こっちにおいでと手招く。
たかたかっと駆け寄ってきたラグナにいつも逃している子達に着せている白いフード付きのローブを着せると目深にフードを被せじっとしててと言いつける。
少し困惑した顔で頷いた彼を抱き上げて例の白亜の塔へ向かった。
塔に着くとすでに王子とその護衛として王子を死神にしたロゴスという少年がいた。
王子は私の姿を見つけるとこっちこっち!と手招いてくる。

「その子がラヴィニアさんが言ってた鬼の子?」
「ああ、そうだ。こちらで秘密裏に保護している子鬼だ」
「りょーかい。じゃあ、ロゴス! いくよ!」
「わかっている」

王子と彼は王子の号令に合わせて塔の入り口にある手形に自分の手を当てる。
するとギィ……と音を立て鉄の門が開き私達は王子たちに案内されるまま中へ入ると白亜の塔へと足を踏み入れた。
中は彼らが頑張ったんだろう、綺麗にされていて埃っぽさも感じない。
薄暗いことを除けば特に気になるようなことはなく、確かにここなら安全かもしれないと悟る。

「ごめんねー! 待たせちゃってー!」

王子は奥の方にそう叫ぶと現れたのは綺麗な水色の髪と同じ水色と金色のオッドアイが印象的な少年で。
彼は少し不機嫌そうな顔をして一緒に来ていた茶髪の青年に背中を押されて一歩前に出た。

「あれ? もしかしてウィード、機嫌悪い?」
「まぁね。寝てる彼を起こしてきたからなんだろうけど……起こし方がまずかったかなぁ」
「起こし方?」
「うん」

お姫様だからねと苦笑いしている茶髪の青年にウィードと呼ばれた水色の少年はもう始めていい?と尋ねて。
青年は頑張っておいでと告げると一歩少年から退いた。

「王子、あの少年が例の?」
「そ。あの子が俺の知り合い。ウィードっていうんだ」
「おい、神官。早くその子鬼をあやつの前に差し出せ。それでなくともあやつは相当不機嫌みたいだからな。早くせんとこの国が滅ぶ」
「あ、ああ」

王子のお付きのやつに言われ私はラグナを床に降ろしウィードの前に連れてくるとそこにいてと私も一歩下がった。

「に、にあさん……」
「大丈夫だから」

困惑する彼にそう言うとウィードがラグナに突然声をかけてきた。
凄く不機嫌そうな声に怯えながらラグナは名前を名乗りフードを取って顔を見せる。
ウィードはそれを聞くとわかったと頷き腕についたブレスレットを撫でる。
するとそこから光が溢れその光が本の形になると弾け消え、ウィードの手元に降りてくる。

「じゃあ、始めるね」
「は、はい」

彼はそう言うと深く息を吸い、魔力を解放したようで青い光がふわふわと周りを漂い始めた。
これは……と見ている私にやっぱり人間にも見えるんだねと王子が声をかけてきた。
私はその意味がわからず彼にどういうことなんだと問いかける。
王子は私の問いに本来は見えないものなんだよと笑って答えた。

「この光はねその人の魔力量によって輝きも、量も、もちろん見える範囲も変わるんだ。人間であるラヴィニアさんに見えるってことはウィードの魔力量が相当高いってこと」
「そう、なのか……」
「綺麗でしょ? 俺達は見慣れた景色だけど人間にとってはとても新鮮な景色だと思うよ」
「ああ。そうだな」

本当に綺麗だと見ているの光は少しずつ消えていって。
これでおしまいと声が聞こえ、ハッとしてラグナに歩み寄り、膝をついて角があったところを見ると確かに角はなくなっていた。
ラグナは私の顔を見てどうですか?と不安そうに尋ねてきて、大丈夫だと返すとよかったぁと嬉しそうに笑った。

「もう帰っていい?」
「あ! 待って! ねぇ、ウィードってファウラがやってたような天使の加護ってできる?」
「え? できない事はないけど、あいつが言ってた通り未完成だから完全なのはできないよ。それに早く帰りたいからやだ。これ以上俺とセンチェルスの朝のおはようの時間を邪魔するなら怒るよ」
「あー、今、不機嫌な理由わかった。おはようの電話してなかったね、ウィード」
「そう。俺、センチェルスとおはようってしてない。してないの」

もう邪魔しないでと今にも何かしてきそうな彼に私はこれだけで十分だと伝えるとわかってくれればいいのとウィードは青年を連れてその場から姿を消した。
残された私とラグナは王子たちと合流すると白亜の塔を離れた。

「王子、すまないが私はこれから仕事になる。ラグナのことを頼めないか?」
「あ、そか。わかった! じゃあラグナ、俺たちといこっか!」
「え、でも……ぼくは……」
「ラグナ。王子たちといて」

仕事終わったら迎えに行くからと不安そうに私を見上げるラグナの頭を撫でて離れると自分の私室へと向かった。
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