孤独な神官は幼鬼に絆される

処刑場にはすでに今日の受刑者たちと見学の人間たち、そしてリジーがいた。
遅いよーとへらへら笑っているリジーを無視し腕時計を確認。
処刑は15時ジャスト。
現在はその1分前。
きっちり時間を測ってから私は手元の杖で地面を叩き杖の先についた飾りを鳴らすと執行!!と叫んだ。
瞬間、リジーは楽しそうに笑い受刑者たちに襲いかかり、受刑者たちは自らの力でなんとか彼とやりあっている。
私はただ見ているだけ。
これを見届けるのが私の今日の役目。
しばらくして決着がついた。
受刑者たちは全滅、死体の中央には高笑いするリジーがただ一人。
私は後ろに控えさせていた処理係に合図し周りの死体を片付けさせ、それを見届けるとさっさと私室へ戻った。

「ラヴィニア様、お疲れ様ですっ。何か飲みますかー?」
「あー、甘いものを」
「はーい。じゃあココアを用意しまーす!」
「ああ、頼む」

私室に戻り椅子にぐったり座る私にそう声をかけてきたエリシアはてきぱきとココアを用意し始める。
その間、疲れたと机に突っ伏しているとコンコンと扉をノックされる。
一体誰なんだと中に招くと入ってきたのはこの国の第一王子のミウラ様だった。
ちょうどいいと彼に先程の資料を返し、出し直してほしいと告げる。
彼はわかったと少し悔しそうな顔をしたかと思うともうあんなことはやめてと訴えてきた。

「彼らだって生きてるんだよ? 必死で。一体誰の命令であんなことしてるの?」
「存じ上げません。私よりリジーたちのが詳しいのでは? 私はただ見届けているだけですから」
「どうして……。君たちは神官なんだろう? なら、神様だってこんなこと望んでないよ……」
「まぁそうでしょうね。しかし、王子、私たち神官とは名ばかり。高給取りの雑用みたいなもんですよ」
「でも、俺、聞いたことあるんだ。神官の中にも神様に認められて力を与えられる人だっているって!」
「貴方が死神になったようにですか?」
「しー!!」

内緒でしょ!?と私の口を塞ぐ王子。
そう、彼も人間ではない。
相棒のロゴスという死神に気に入られ魔王討伐の途中に死神となった。
そう上層部が話しているのを小耳にはさんだ。
だからこれを神官らで知っているのは私とうっかり話してしまったエリシアのみ。

「しかし王子様も大変ですよねぇ。あ、ラヴィニア様、ココアどうぞ」
「ああ」
「よかったら王子様もどうぞー」
「あ、ありがとう。エリシアさん」

いえいえーとココアを用意したエリシアは承諾の入った書類を抱え、渡してきますーと部屋を出ていった。
こういう空気を読めるところもあるので私は安心してエリシアに仕事を任せられる。
そうして王子を部屋のソファに座らせて私は自席からその様子を眺める。

「死神でも人間の食べ物が食べられるんですね」
「食べるって! 食べないと流石に動けなくなっちゃうし。体は生身だから血だって出るんだよ?」
「体は人間と変わらない、か」
「そーそー。で! そこで出番なのが封印士って種族なんだ!」

王子はそう喜々として話し始めてしまった。
本来なら資料にまとめてほしいんだが、言っても止まらなさそうなので聞くことに。
王子も会ったというその種族は封印のみを生業とした種族で人間たちに害を成す人たちではないという。
彼らが住む場所は秘密の場所にあり教えることはできないけれど、そこの長に王子の知り合いがなったらしい。
言えば協力してもらえる、だからもうこんなことやめてほしいと。

「そうは言っても私にはなんの権限も……」
「あの牢屋に入れられる前に白亜の塔に隔離しちゃえば大丈夫! でもあの塔、ずっと使ってないから使用許可もどうしたらいいかわからなくて」
「言っときますが、あの塔、誰も管轄してませんよ」
「え、てことは……」
「貴方の権限でどうとでも使えますよ。わざわざそんなもの出さなくても」
「そうだったんだ! ありがと! じゃあ早速ロゴスたち連れて掃除しなきゃ!」

ありがとう!と告げて王子は私室を勢い良く飛び出していった。
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