孤独な神官は幼鬼に絆される
「ラグナくん! 逃げるよ!」
「え……?」
ラヴィニア様が嵌められて投獄された。
私はラヴィニア様の体調が心配でそっと神殿についていきこっそり中を覗き込んでいた。
そんな私の目に写ったのはラヴィニア様が他の神官たちに取り押さえられる光景で。
ラヴィニア様は必死に自分が異形ではないことを訴えているけれどラヴィニア様の素顔を見た誰しもが耳を貸さなかった。
私は助けに入ろうと思ったけれど今の私には何の力もない。
助けに入ったところできっと私も捕まっていずれはラグナくんも……。
そこまで考えて私が今取らなきゃいけない行動はただ一つ。
ラグナくんをこの街から、国から出すこと。
私はラヴィニア様にごめんなさいと心の中で謝りながら急いで彼女の家へと向かう。
家には掃除をしていたラグナくんがいて、私の突然の訪問に驚きながらもなにがあったんですか?と駆け寄ってきてくれた。
「ラグナくん、あとで全部話すから今は何も言わずについてきて。お願い」
「……わかりました」
私がいてラヴィニア様がいないことにラグナくんはなにかを感じたのか素直に頷いてくれて一緒に家から逃げ出した。
行き先はラヴィニア様が逃した子たちがいるあの場所。
あの場所にラグナくんをおいて、私はラヴィニア様を助けるために城に戻る。
ただラグナくんをあの下衆から逃すことができればそれでいい。
そう思い私はラグナくんの手を引き必死に走った。
そうして暫く走ってあの子たちがいる村についた。
「あ、エリシア様だ! みんなー! エリシア様だよー!」
「なんだって!? ラヴィニア様は一緒じゃないのか!?」
エリシア様ー!と村の住人たちがたかたかっと足早に駆け寄ってくる。
よかった、ここは無事だと安心し、ラグナくんをお願いと預け、城に戻ろうとしたときだった。
その手を掴んだのは他の誰でもないラグナくんで。
どうしたの?と振り返るとそのままいくつもり?と尋ねられた。
「ニアさん、助けに行くんでしょ?」
「ラグナ、くん……?」
いつもと様子が違うと見つめる私にラグナくんは今の君じゃ無理だよと告げてきて。
言いようのない恐怖に襲われ私は彼の手を振り払い後退ると一体何者なの?と恐る恐る尋ねる。
すると彼はもういいかなと呟き指をパチンと鳴らし、本来の姿を現した。
煌々とした光に包まれ浮かび上がるその姿は容姿こそ変わらないけれどなぜかとても恐ろしくて。
そんな私を余所にラグナくんはこう告げる。
「ぼくは鬼の始祖なんだ」と。
騙しててごめんねと苦笑いするラグナくんは確かに幼い姿のままだけど彼から放たれる圧力は凄まじいもので。
そんな彼を見た住民の一人がたかたかっと駆け寄ってくるとラグナロク様だー!とぴょんぴょん跳ね始めた。
「あ、ぼくの同族も助けてくれてたんだ。ニアさん優しいなぁ。だからこそぼくはニアさんと番になりたいんだけど」
「ラヴィニア様に何をする気なの……?」
「ぼくは何もしない。だってぼくは魔王になれないから。現コーキセリア王がぼくじゃダメっていうんだもん。だからニアさんに魔王になってもらう。そのためにぼくの血だってあげてたし、名前だって考えてあるんだから」
「一体なにを……」
「さて、ぼくのことはどうでもいいんだ。エリシアさん、ニアさんに何があったの?」
そろそろ話してほしいなと笑うラグナくんに私はそうだったと思い出し神殿で見たことをわかりやすく話す。
感情的にならないように湧き上がる怒りを抑えながら。
全てを聞いてからそういうことかと少し考える素振りを見せたかと思うとラグナくんは私にある提案をしてきた。
「エリシアさんもぼくの仲間にしてあげる」と。
その言葉を上手く理解できずにいるとニアさんを助けたいんでしょ?と迫られ頷く私にそれなら受け入れてと自分の親指を噛むとそのまま私の口の中に突っ込んできた。
わけのわからないまま驚いていると飲んで?と言われ私は恐る恐る彼の指から出る血を舐めて飲んだ。
口に広がる鉄の味に吐き気を感じる私にラグナくんはもっととグイっと奥の方に突っ込んできて。
「そんなもんじゃニアさんを助けられないよ。エリシアさん」
「──ッ……! ──ッ……!」
「うんうん、その調子。いい子だね。大丈夫、痛いのは一瞬だから」
なんでこんなことをと思っていると突然激しい痛みに襲われラグナくんの指を嚙み千切りそうになる。
けれどそれがわかっていたのかラグナくんはその指を引っ込め、苦しむ私を見下ろしていて。
体の中で得体の知れない何かが這いずり回って、私の中の何かを破壊しては再構築しているようで、その痛みは形容しがたいもので。
悲鳴を上げながら地面を転げまわる私にラグナくんはもう少しで痛くなくなるからねと優しい声をかけてきた。
すると次第に言葉通り体の痛みは収まっていき、一体何がと戸惑う私にようこそこちら側へと微笑みかけてくるとラグナくんは見て、といつの間にか村の住民に用意させた姿見を差し出してくる。
そこに写っているのは頭から2本の角を生やし、白目が黒く染まった赤い瞳の私の姿で。
なにこれ……と驚く私にラグナくんはぼくの仲間になったんだよと歩みよってきた。
「それってつまり……」
「君は鬼になったってこと。これでニアさんを助けに行く準備が整った。あとはその力を使いこなすだけ」
「私が、鬼……? これでラヴィニア様を、助けられる……。あの下衆からラヴィニア様を救える……」
「うん。だからがんばろっか、エリシアさん。力の使い方はぼくが教えてあげるから」
すぐに使いこなせるよと言われ私はしばらくその村に滞在し、ラグナに鬼の力の使い方を教わることになった。
「え……?」
ラヴィニア様が嵌められて投獄された。
私はラヴィニア様の体調が心配でそっと神殿についていきこっそり中を覗き込んでいた。
そんな私の目に写ったのはラヴィニア様が他の神官たちに取り押さえられる光景で。
ラヴィニア様は必死に自分が異形ではないことを訴えているけれどラヴィニア様の素顔を見た誰しもが耳を貸さなかった。
私は助けに入ろうと思ったけれど今の私には何の力もない。
助けに入ったところできっと私も捕まっていずれはラグナくんも……。
そこまで考えて私が今取らなきゃいけない行動はただ一つ。
ラグナくんをこの街から、国から出すこと。
私はラヴィニア様にごめんなさいと心の中で謝りながら急いで彼女の家へと向かう。
家には掃除をしていたラグナくんがいて、私の突然の訪問に驚きながらもなにがあったんですか?と駆け寄ってきてくれた。
「ラグナくん、あとで全部話すから今は何も言わずについてきて。お願い」
「……わかりました」
私がいてラヴィニア様がいないことにラグナくんはなにかを感じたのか素直に頷いてくれて一緒に家から逃げ出した。
行き先はラヴィニア様が逃した子たちがいるあの場所。
あの場所にラグナくんをおいて、私はラヴィニア様を助けるために城に戻る。
ただラグナくんをあの下衆から逃すことができればそれでいい。
そう思い私はラグナくんの手を引き必死に走った。
そうして暫く走ってあの子たちがいる村についた。
「あ、エリシア様だ! みんなー! エリシア様だよー!」
「なんだって!? ラヴィニア様は一緒じゃないのか!?」
エリシア様ー!と村の住人たちがたかたかっと足早に駆け寄ってくる。
よかった、ここは無事だと安心し、ラグナくんをお願いと預け、城に戻ろうとしたときだった。
その手を掴んだのは他の誰でもないラグナくんで。
どうしたの?と振り返るとそのままいくつもり?と尋ねられた。
「ニアさん、助けに行くんでしょ?」
「ラグナ、くん……?」
いつもと様子が違うと見つめる私にラグナくんは今の君じゃ無理だよと告げてきて。
言いようのない恐怖に襲われ私は彼の手を振り払い後退ると一体何者なの?と恐る恐る尋ねる。
すると彼はもういいかなと呟き指をパチンと鳴らし、本来の姿を現した。
煌々とした光に包まれ浮かび上がるその姿は容姿こそ変わらないけれどなぜかとても恐ろしくて。
そんな私を余所にラグナくんはこう告げる。
「ぼくは鬼の始祖なんだ」と。
騙しててごめんねと苦笑いするラグナくんは確かに幼い姿のままだけど彼から放たれる圧力は凄まじいもので。
そんな彼を見た住民の一人がたかたかっと駆け寄ってくるとラグナロク様だー!とぴょんぴょん跳ね始めた。
「あ、ぼくの同族も助けてくれてたんだ。ニアさん優しいなぁ。だからこそぼくはニアさんと番になりたいんだけど」
「ラヴィニア様に何をする気なの……?」
「ぼくは何もしない。だってぼくは魔王になれないから。現コーキセリア王がぼくじゃダメっていうんだもん。だからニアさんに魔王になってもらう。そのためにぼくの血だってあげてたし、名前だって考えてあるんだから」
「一体なにを……」
「さて、ぼくのことはどうでもいいんだ。エリシアさん、ニアさんに何があったの?」
そろそろ話してほしいなと笑うラグナくんに私はそうだったと思い出し神殿で見たことをわかりやすく話す。
感情的にならないように湧き上がる怒りを抑えながら。
全てを聞いてからそういうことかと少し考える素振りを見せたかと思うとラグナくんは私にある提案をしてきた。
「エリシアさんもぼくの仲間にしてあげる」と。
その言葉を上手く理解できずにいるとニアさんを助けたいんでしょ?と迫られ頷く私にそれなら受け入れてと自分の親指を噛むとそのまま私の口の中に突っ込んできた。
わけのわからないまま驚いていると飲んで?と言われ私は恐る恐る彼の指から出る血を舐めて飲んだ。
口に広がる鉄の味に吐き気を感じる私にラグナくんはもっととグイっと奥の方に突っ込んできて。
「そんなもんじゃニアさんを助けられないよ。エリシアさん」
「──ッ……! ──ッ……!」
「うんうん、その調子。いい子だね。大丈夫、痛いのは一瞬だから」
なんでこんなことをと思っていると突然激しい痛みに襲われラグナくんの指を嚙み千切りそうになる。
けれどそれがわかっていたのかラグナくんはその指を引っ込め、苦しむ私を見下ろしていて。
体の中で得体の知れない何かが這いずり回って、私の中の何かを破壊しては再構築しているようで、その痛みは形容しがたいもので。
悲鳴を上げながら地面を転げまわる私にラグナくんはもう少しで痛くなくなるからねと優しい声をかけてきた。
すると次第に言葉通り体の痛みは収まっていき、一体何がと戸惑う私にようこそこちら側へと微笑みかけてくるとラグナくんは見て、といつの間にか村の住民に用意させた姿見を差し出してくる。
そこに写っているのは頭から2本の角を生やし、白目が黒く染まった赤い瞳の私の姿で。
なにこれ……と驚く私にラグナくんはぼくの仲間になったんだよと歩みよってきた。
「それってつまり……」
「君は鬼になったってこと。これでニアさんを助けに行く準備が整った。あとはその力を使いこなすだけ」
「私が、鬼……? これでラヴィニア様を、助けられる……。あの下衆からラヴィニア様を救える……」
「うん。だからがんばろっか、エリシアさん。力の使い方はぼくが教えてあげるから」
すぐに使いこなせるよと言われ私はしばらくその村に滞在し、ラグナに鬼の力の使い方を教わることになった。