孤独な神官は幼鬼に絆される

「たすけて……」

か細い声でそう伝えてきた少年。
さすがにこの状況はやばいと私の腰に抱き着いている彼を引きはがすため触れようとした時だった。
奥のほうから人影が見えて私は咄嗟に扉を閉め、その子の手を引きリビングに戻ると辺りを見渡しクローゼットを開くとここにいてと告げて扉を閉める。
するとちょうどいいタイミングでベルが鳴り、私は脱ぎ捨てた神官服を着てから玄関の扉を開く。

「神官ラヴィニア様、お疲れのところ突然の訪問、申し訳ございません」
「構わない。何の用だ?」
「はい。実は異端者を探しておりまして」

玄関前にいたローブの集団はこの写真の子供なのですがと見せてきて、確かに写真には傷だらけのあの子が映っていた。
やはり彼らはあの子を探して私の家に来たようで私はその写真を返すとこの子が何か?と聞いてみることに。
彼らは少し黙った後、捕らえた異形者の一人だと話した。
この世界には人間と、異形者と呼ばれる人ならざる者が存在する。
私がいるこの国、レグルスは世界の中心とも呼ばれる国で時折異形者を捕らえ、彼らを完全に支配するため、見せしめに始末したりしていた。
私も何回かその現場に立ち会ったことがある。
神官として、異形者を逃がさないように監視役として。
その凄惨な処刑方法に何度目を瞑りたくなったか。
どうやら今回もその件で捕らえたはいいが逃げ出されてしまい、その中の一人が私の家に来た、そういうことらしい。

「なるほど」
「こちらにこの者が走っていったのを目視したので参った次第なのですが、お見掛けしてはいらっしゃいませんでしょうか?」
「いや、私は見ていない。別の家に行ったのでは?」
「左様ですか……。どちらに行ったかお伺いしても?」
「その子かはわからないが小さな子どもならあっちに走っていったのを見た。今なら追いつくのでは?」
「ありがとうございます、神官ラヴィニア様。感謝致します」
「よい。そなたらも気をつけよ。異形は我らに何をしてくるかわからん」

そう言い私は玄関の扉を閉め鍵をかけると奥のリビングに戻る。
一息つくとローブを脱ぎクローゼットの扉を開ける。
中には体を震わせこちらを怯えたように見ているあの写真の少年がいた。
夢じゃなかったかぁーと思い、その場に膝をつきやってしまったと俯くとあの……とクローゼットから出てきた少年が声をかけてくる。
顔を上げると心配そうにこちらを見る金色の瞳と目が合い、少し視線をずらすと前髪の付け根あたりだろうか、小さな角が見えた。
そうか、この子も異形者だったと思い出し深呼吸を一度してから震える彼と目線があうようにじっと見つめる。

「あの……ぼく……」
「……異形者に、ショタ……私完全に犯罪者じゃん……。バレたら干される……」
「おねー、さん……?」

こてんと小首を傾げる彼はまるでこの世に降り立った天使のように可憐で可愛くて。
鈴を転がすような少年独特の可愛らしい声に癒され呆けている自分の頬を叩き目を覚まさせるとまずはお風呂に入ろうかと彼を連れて脱衣所へ向かう。
ついでにクローゼット内の濡れた服もまとめて洗おうと持っていて洗濯機へ放り込む。

「あの……」
「そのままだと風邪引くでしょ。さっさと脱いで。さっき私が入ったばっかだからまだ冷めてないはずだし」
「でも……ぼく……」

もじもじしている彼の服をぺろっとめくり一気に脱がすとそれも洗濯機に放り込み裸になった彼を浴室内に入れ、椅子に座らせるとちょっと待っててとシャワーを出してお湯が出るのを待つ。
その間も彼はまだ怖いのか、はたまた寒いのかわからないけど震えていて。

「そこにシャンプーハットあるでしょ。それ被って待ってて」
「でもぼく……」
「ほら。じゃないと目にシャンプー入っちゃうでしょ?」
「はい……」

壁に掛けたピンクのシャンプーハットをかぶる彼。
良かった、子供用のハットを用意しておいて。
使い道なんてないだろうと遊びに来た仲間に言われてたけどありました。
そんなことを考えているとお湯が出てきて私は彼の髪に少し弱めのシャワーを当てる。

「熱くない?」
「あ、はい……。だいじょーぶ、です……」
「じゃあそのままじっとしててね」

お湯で柔らかな髪を濡らし、シャンプーで優しく洗い、流して。
その間も彼は私に言われた通りじっと座って微動だにしなかった。
髪を洗い終わり軽く体をシャワーで洗い流して少し温くなったお風呂に入れる。
しばらくそこで温まっててと伝えると私は一旦浴室を出、洗濯機を回し、急いでリビングに戻った。
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