孤独な神官は幼鬼に絆される
そしてその日がやってきた。
私は素顔を晒したまま断頭台へ上がる。
前代未聞の神官の処刑ともあって見物客がたくさん集まっていた。
神官の服は着たまま、後ろ手に縛られた私は抵抗もなくその機械へ首を差し出す。
ああ、これで終わるんだ。
私はやっと楽になれるんだ。
皆の視線を気にしながら生活する日々ももうおしまい。
やっと、やっと楽になれる。
周りの人たちは私の姿を見て悪魔だなんだと罵るけど、その声すら私にはもうどうでもいい。
私は今日ここで死ぬんだから。
「これより元王室神官ラヴィニア・ユーフェンの処刑を執り行う!」
そう言ってリジ―は断頭台で大人しくしてる私を見下ろしてにやりと笑うとそのサーベルで私の首を固定している鍵を外した。
何をするつもりなんだと見上げる私に彼は後ろにいた別の神官に何やら声をかけていて。
住民たちもざわつく中、彼が私に手渡したのは私の使っていた杖で。
「取りなよ、ラヴィちゃん。僕と本気の戦いをしよう!」
「は……?」
「僕はね、ラヴィちゃんと本気の勝負がしたいんだ。命を懸けた勝負をね。だってラヴィちゃんったらどんなに煽っても本気出してくれないしさー」
「貴様……そのためだけに私をッ……」
「そ。さぁ、杖を取ってよ。僕と命を懸けた戦いをしよう! ラヴィニア・ユーフェン!」
「リジ―・サーペントッ、貴様ぁ!!」
私は投げ出された杖を引っ掴むとにたにたと笑う彼に襲い掛かる。
こいつの退屈しのぎのために私の平穏な日常が壊された。
こいつのせいで私の大事な人達が苦しむ羽目になった。
そう思うだけで腸が煮えくりかえそうで。
「あはは! いいねいいね! ねぇ! 君の本気はそんなもんじゃないでしょ? もっと見せてよ! ラヴィちゃん!」
「リジ―……ッ!! 貴様だけは、貴様だけは許さん! 私のこの手で葬ってやる!!」
そう言って重いローブを脱ぎ捨てると杖でタンッと足元を叩く。
すると私の周りに緑色のかまいたちのような風の渦が何個か生まれ、一体これはと困惑する私にリジ―はマジかよ!とさらに興奮したような顔で見てくる。
「当てずっぽうで言ってたけど、マジで異形になってたなんて……! ラヴィちゃん、君はなんてサイッコーなんだ! あはは!!」
「私が……異形……? でも、これなら……この力ならリジ―、貴様を葬れるッ!!」
使い方なんて知らない。
知らないはずなのに、いつの間にか体に刻まれた記憶に自分の体が無意識に反応し、出現したかまいたちを、風の刃をリジ―に投げつけていく。
ヒュンヒュンと音を立ててリジ―に投げられる無数の刃。
彼はそれを何個か受けながらも避け私に突進してくる。
「楽しいねぇ! ラヴィちゃん! まるで戦場にいるみたいだよ!」
「軽々しく私の名を呼ぶなッ! リジ―・サーペントッ!!」
「あはは! 君だって僕の名前を呼んでるじゃないか! ラヴィニア・ユーフェン!」
キーンキーンと金属音が辺りに響き、私の発生させた風の刃が周囲の木々や建物を破壊していく。
住民たちはそんな私たちを恐れ、あっという間に散り散りに逃げて行った。
それでもかまわずリジ―はサーベルを振るう。
まるで血に飢えた怪物のように。
「やっぱり君と戦うのが一番楽しいなぁ! ラヴィちゃん、君はこんなとこで燻ってるべきじゃなかった! 君は戦場の方がお似合いだよ! そうだ、今からでも遅くない、僕と一緒に戦場に行こう! そしたら君はきっとこう言われるんだ! 戦場の白き悪魔ってね!」
「黙れ!! 私は貴様なんぞと組む気はない! 死ね! リジ―!!」
お互いこれでおしまいと言わんばかりに武器を構え薙いだ。
「僕の勝ちだね、ラヴィちゃん」
「チッ……」
リジ―が薙いだサーベルが私の杖の柄を折り、その反動で倒れた私の首に彼の武器の切っ先が突き付けられた。
「ねぇ、ラヴィちゃん。もう一回聞くね? 僕と一緒に戦場に出ようよ。異形討伐にさ」
「何度聞かれようと答えは同じ。貴様と行くくらいならここで死んでやる」
「強情だなぁ……。じゃあ、僕が優しく殺してあげるね、ラヴィちゃん」
「さっさとやれ」
これで本当にやっと楽になれる、そう思った時だった。
ダメだよと聞きなれた声がし、ハッとした時には私にサーベルを突き付けていた彼が遠くに吹き飛ばされていて。
私は体を起こすと声がした先に視線をやった。
「遅れてごめんね、ラヴィニア」
「ラ……グナ……?」
「ラヴィニア様!」
「エリシア……? 二人とも、生きててくれたんだな……っ」
そこにいたのは神々しい光に包まれ浮かんでいるラグナと頭に角を生やしたエリシアで。
二人は私の隣に来ると間に合ってよかったと杖を渡して笑いかけてくれる。
折れたはずのその杖はもとの形を取り戻していて、一体何がと驚いている私に二人は今は目の前の敵が先とリジ―をキッと睨みつけていた。
「あはは……っ、ラヴィちゃんったら……、もうそんな異形の仲間がいたんだっ……。しかもその子供、ただものじゃないでしょ……?」
「悪いけど、彼女を君には殺させてあげられない。彼女は僕が選んだたった一人の番だからね」
「ラグナ……? あんた何を言って……」
「ラグナくんは鬼の始祖、だったんですよ。ラヴィニア様」
「鬼の、始祖……?」
「黙っててごめんね、ラヴィニア」
立ってと手を差し伸べられて私はそっとその手に自分の手を乗せるとゆっくり立ち上がり、リジ―に対峙する。
私は素顔を晒したまま断頭台へ上がる。
前代未聞の神官の処刑ともあって見物客がたくさん集まっていた。
神官の服は着たまま、後ろ手に縛られた私は抵抗もなくその機械へ首を差し出す。
ああ、これで終わるんだ。
私はやっと楽になれるんだ。
皆の視線を気にしながら生活する日々ももうおしまい。
やっと、やっと楽になれる。
周りの人たちは私の姿を見て悪魔だなんだと罵るけど、その声すら私にはもうどうでもいい。
私は今日ここで死ぬんだから。
「これより元王室神官ラヴィニア・ユーフェンの処刑を執り行う!」
そう言ってリジ―は断頭台で大人しくしてる私を見下ろしてにやりと笑うとそのサーベルで私の首を固定している鍵を外した。
何をするつもりなんだと見上げる私に彼は後ろにいた別の神官に何やら声をかけていて。
住民たちもざわつく中、彼が私に手渡したのは私の使っていた杖で。
「取りなよ、ラヴィちゃん。僕と本気の戦いをしよう!」
「は……?」
「僕はね、ラヴィちゃんと本気の勝負がしたいんだ。命を懸けた勝負をね。だってラヴィちゃんったらどんなに煽っても本気出してくれないしさー」
「貴様……そのためだけに私をッ……」
「そ。さぁ、杖を取ってよ。僕と命を懸けた戦いをしよう! ラヴィニア・ユーフェン!」
「リジ―・サーペントッ、貴様ぁ!!」
私は投げ出された杖を引っ掴むとにたにたと笑う彼に襲い掛かる。
こいつの退屈しのぎのために私の平穏な日常が壊された。
こいつのせいで私の大事な人達が苦しむ羽目になった。
そう思うだけで腸が煮えくりかえそうで。
「あはは! いいねいいね! ねぇ! 君の本気はそんなもんじゃないでしょ? もっと見せてよ! ラヴィちゃん!」
「リジ―……ッ!! 貴様だけは、貴様だけは許さん! 私のこの手で葬ってやる!!」
そう言って重いローブを脱ぎ捨てると杖でタンッと足元を叩く。
すると私の周りに緑色のかまいたちのような風の渦が何個か生まれ、一体これはと困惑する私にリジ―はマジかよ!とさらに興奮したような顔で見てくる。
「当てずっぽうで言ってたけど、マジで異形になってたなんて……! ラヴィちゃん、君はなんてサイッコーなんだ! あはは!!」
「私が……異形……? でも、これなら……この力ならリジ―、貴様を葬れるッ!!」
使い方なんて知らない。
知らないはずなのに、いつの間にか体に刻まれた記憶に自分の体が無意識に反応し、出現したかまいたちを、風の刃をリジ―に投げつけていく。
ヒュンヒュンと音を立ててリジ―に投げられる無数の刃。
彼はそれを何個か受けながらも避け私に突進してくる。
「楽しいねぇ! ラヴィちゃん! まるで戦場にいるみたいだよ!」
「軽々しく私の名を呼ぶなッ! リジ―・サーペントッ!!」
「あはは! 君だって僕の名前を呼んでるじゃないか! ラヴィニア・ユーフェン!」
キーンキーンと金属音が辺りに響き、私の発生させた風の刃が周囲の木々や建物を破壊していく。
住民たちはそんな私たちを恐れ、あっという間に散り散りに逃げて行った。
それでもかまわずリジ―はサーベルを振るう。
まるで血に飢えた怪物のように。
「やっぱり君と戦うのが一番楽しいなぁ! ラヴィちゃん、君はこんなとこで燻ってるべきじゃなかった! 君は戦場の方がお似合いだよ! そうだ、今からでも遅くない、僕と一緒に戦場に行こう! そしたら君はきっとこう言われるんだ! 戦場の白き悪魔ってね!」
「黙れ!! 私は貴様なんぞと組む気はない! 死ね! リジ―!!」
お互いこれでおしまいと言わんばかりに武器を構え薙いだ。
「僕の勝ちだね、ラヴィちゃん」
「チッ……」
リジ―が薙いだサーベルが私の杖の柄を折り、その反動で倒れた私の首に彼の武器の切っ先が突き付けられた。
「ねぇ、ラヴィちゃん。もう一回聞くね? 僕と一緒に戦場に出ようよ。異形討伐にさ」
「何度聞かれようと答えは同じ。貴様と行くくらいならここで死んでやる」
「強情だなぁ……。じゃあ、僕が優しく殺してあげるね、ラヴィちゃん」
「さっさとやれ」
これで本当にやっと楽になれる、そう思った時だった。
ダメだよと聞きなれた声がし、ハッとした時には私にサーベルを突き付けていた彼が遠くに吹き飛ばされていて。
私は体を起こすと声がした先に視線をやった。
「遅れてごめんね、ラヴィニア」
「ラ……グナ……?」
「ラヴィニア様!」
「エリシア……? 二人とも、生きててくれたんだな……っ」
そこにいたのは神々しい光に包まれ浮かんでいるラグナと頭に角を生やしたエリシアで。
二人は私の隣に来ると間に合ってよかったと杖を渡して笑いかけてくれる。
折れたはずのその杖はもとの形を取り戻していて、一体何がと驚いている私に二人は今は目の前の敵が先とリジ―をキッと睨みつけていた。
「あはは……っ、ラヴィちゃんったら……、もうそんな異形の仲間がいたんだっ……。しかもその子供、ただものじゃないでしょ……?」
「悪いけど、彼女を君には殺させてあげられない。彼女は僕が選んだたった一人の番だからね」
「ラグナ……? あんた何を言って……」
「ラグナくんは鬼の始祖、だったんですよ。ラヴィニア様」
「鬼の、始祖……?」
「黙っててごめんね、ラヴィニア」
立ってと手を差し伸べられて私はそっとその手に自分の手を乗せるとゆっくり立ち上がり、リジ―に対峙する。