孤独な神官は幼鬼に絆される

どのくらい時間が経っただろうか。
私は死なない程度に与えられた食事にすら手を付けずじっと隅の方で蹲っていた。
いっそこのまま死ねたらと思いながら。
あれから何度か来た衛兵や看守にエリシアを呼んでほしい、あの子は大丈夫なのかと聞いたが私の意見など聞き入れてもらえるはずもなく。
ただ時間だけが刻々と過ぎていた。
そんなある日、こつこつと足音が聞こえ私の部屋の前で止まった。
ああ、また無駄な物を持ってきたのかと無視しようとしたその時。

「やっと見つけましたよ。こんなところにいたんですね」

優しい青年の声。
見つけた?誰を?
そう聞こうと思って顔を上げたけれどすぐに顔を伏せた。
この顔を見られたくない。
この瞳を見られたくない。
その一心で。

「おや? 貴女がラヴィニアでよろしいんですよね?」
「……だからなんだ」
「あ、やっと返事してくれましたね。私は貴女を探してここまで来たんですよ」
「私を? こんな無力な私に何ができるというんだ?」
「そのための力を貴女は既に持っているはずですよ。彼から、貰っているはずですから」
「彼……?」

何を言って……と顔を上げるとそこにいたのは紫色の髪をした看守だった。
彼はその時は近いですよと微笑むとその場から姿を消してしまう。
なんだったんだと呆けていると再び足音が聞こえ現れたのは他の誰でもないリジー本人だった。
彼はにやにや笑いながら君の処刑が来週に決まったよと伝えてきた。

「処刑執行人はこの僕だよ、ラヴィちゃん。楽しもうね?」
「リジー、貴様……っ」
「おー怖い怖い。あ、それとね、ラヴィちゃんにとっておきのお知らせだよ? 君が大事にしてた従者ちゃん、行方不明だってさ。今、衛兵たちが血眼になって探してる。見つけ次第殺せってさ」
「エリシアは関係ないだろう!? 罰せられるのは私だけで十分なはずだ! 貴様、王妃に何を告げ口した!?」
「僕はただ、君のお気に入りの従者ですよって教えてあげただけ。そしたらさぁ、王妃様、それなら始末しておしまいって!」

傑作だよねぇと笑うリジーに私は襲いかかろうとするも柵が邪魔してそれもままならない。
こんなものさえなければと冷たい鉄柵を掴み彼を睨みつける。
するとリジーはひとつだけ助けられる方法があるよ?と意地悪く笑って私に告げて。
どうせ碌でもないことを言ってくるんだろうと私は貴様の話なんぞ聞かんと彼の言葉を遮った。

「あははっ! そうだよねぇ。ラヴィちゃんが僕なんかの話を聞くわけないよねぇ。じゃあそこでじっと待ってなよ。君のお気に入りのエリシアちゃんが無残な死体になって連れて来られるのをさ」

またねと去っていく背中を見送り私はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
それから彼女たちの無事を祈りながら、紫の彼が残した言葉を反芻する。
私には力がある。
彼に与えられた力が。
彼っていったい誰なんだと思いながら私は一夜を明かした。
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