孤独な神官は幼鬼に絆される

「ねぇ、にあさんはどうしてあのおっきなフードをとらないんですか? とったほうがみやすいとおもうんですが……」
「あー、あれね。私もよく知らないんだよねぇ。ねぇ、ラヴィニア様ー! どうしてそれずっと被ってるんですかー?」
「あー、これか。いや、特別被ってなきゃいけないという決まりはない。ただ私はその方が他人の視線が気にならずに済むから被っているだけだ」
「他人の視線?」

そんなに気になります?と聞かれ私は深くため息を付きそっとフードを取ってこれだからなと顔を見せてやった。
そう、私の姿はパッと見、異形者かと思うほど人間とは少し違っていた。
緑の髪から覗くのは縦長に大きく瞳孔がある血のように赤黒い目。
この目のせいで私は散々な目にあった。
両親からも見放され、学校ではこれのせいでまともに人間として扱われたことがなかった。
どこにいくにも私が【人間】であることを証明しなくてはならず、毎日国から頒布されている「無魔力」の証明書を持ち歩かざるを得なかった。
いっそ異形であればよかったのにと思ったことだってある。

「私は綺麗だと思いますけどねぇ、何度見ても」
「ぼくも、にあさんのめ、とてもきれいだとおもいます」
「慣れているからだろう? だから私は基本は取らない。王の前でもな」

全くとフードを被り直すと再び書類に手を付ける。
そうしてそれから何事もなく平和な時間が過ぎ、書類を片付け終わると私はラグナを連れて城を後にした。

「にあさん! きょうはなにがたべたいですかー? にあさん、きょうはおつかれなのでぼくがんばっちゃいます!」

帰宅しがてら夕食の材料を買おうとラグナと共に食料品店にいた。
私が年端も行かない子供を連れているせいか周りの視線が痛い。
けれど別に私の容姿が原因ではないからこのくらいなら我慢できると特段気にせず回っていた。

「ラグナ、あまり大きな声を出さないで。一応外では私は偉い人だから……」
「あっ……ごめんなさい……。でもにあさん、どうしておしろでたのにまだそのふくなんですか?」
「決まりだからね」

完全なオフのとき以外は如何なる場合も神官としての振る舞いを忘れないように。
それが王室神官としての私の決まりだ。
いつ何時声をかけられても神官として対応しなくてはならない。
家につくまでは。
だから早く帰りたいと私は手早くてきとうに材料をカゴに突っ込むと彼の手を引き支払いをセルフで済ませるとさっさと店を出た。

「あ、あの、神官ラヴィニア様でお間違いないでしょうか?」

店を出た瞬間、私は数人の住民に囲まれた。
面倒事は避けたいと思いながら無視するわけにもいかずそうだが?と平静を装い対応をする。

「異形はいつになったらこの世界からいなくなるのですか?」
「私達住民はいつ異形になにされるか怖くて怖くて」
「その為の見せしめの処刑だ。我ら人間に害を成したものは全て例外なくこうなるというな」
「そうですが……」
「其方たちの恐怖もわかる。私達は人間は無力だからな。だからこそ圧倒的な力の差を見せつけ、貴様らに安寧の場などないと知らしめている。それに害を成そうものなら我らが其方らを守ろう。その為の我らレグルス城直属神官だ。安心して普段通りの生活を行うがいい」
「ラヴィニア様……」
「そう、ですよね……。他の国々が魔王により危機的状況に陥ったと耳にして気が動転してしまって……」
「その件ならミウラ第一王子らが解決済みだ。そちらも心配など無用。……そろそろよいか? 子供に夕飯をやらなくてはならないのでな」

そう言ってラグナを抱き上げると周りの住民たちが申し訳ございませんと道を譲ってくれる。
私はその間を進みさっさとその場を後にし、やっと家に帰宅した。
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