【HL】水晶の燦めきに魅せられて

「ただいまかえり……ってどうしたんすか!? アリアさん!」

家に帰ると部屋の中は散らかっていて、アリアさんは酷く傷つけられて座り込んでいて。
一体なにがと呆然とする僕にクローゼットに隠されていたであろうウィードがそっとその扉を開けて覗いて、僕の姿を見るや否やにぃにー!と泣きながら抱きついてきた。

「ウィード、アリアさん、一体なにがあったんだ? 僕が買い出しに行ってる間に……」
「ままがしんじゃうかとおもったぁー!!」
「ごめんなさい……フランベルジュ……。びっくりさせちゃって……」
「いやいや。それよりなにがあったんっすか?」
「……」
「ウィード、なにがあったか、にぃにに話せる?」

目線を合わせるように膝をつき、そう尋ねると泣きながらぱぱがきたのと一言口にした。
なんで父親がこんなことを?と思っているとウィードがたすけてにぃにー!と泣き叫び始めてしまった。

「アリアさん、話してください。僕だってアリアさんを、ウィードを守ってあげたい。でも何から守ればいいのか……」
「……あの人が……帰ってきたの……。あの人は、レグルスの親衛隊の一員で……この前のウィードの粗相が耳に入ったみたいで、それで……」
「そんな……。あんなの、ウィードがまだ小さいから仕方ないじゃないっすか……」
「ええ……。でも、あの人の矜持がそれを許さなかったみたいで……。ごめんなさいね……心配かけて……」

傷ついた体を無理矢理に動かそうとするアリアさんに無理しないでくださいとなんとか座らせると急いで救急箱を持ってくると傷の手当を始める。
顔にも叩かれた跡があるし、そこかしこに擦り傷やいろんな傷が残ってる。
女の人にこんな傷残すなんてと思いながら僕はアリアさんの傷の手当をして、おれも……と差し出してきたウィードの腕の傷を一緒に手当してあげる。

「痛かったな、ウィード。でもなんでクローゼットに隠れてたんだ?」
「ままにかくれてなさいって……」
「ウィードは悪くないから……。私が、ちゃんと対応できなかったから……わたしがわるいの……」
「アリアさん……」
「わたしが……全部わるいの……。ごめんなさい……」

ごめんなさい……と俯き繰り返すアリアさん。
僕はただそれを見ているしかできなくて。
なんて無力な存在なんだろう。
大切な人さえ守れなくて、一人で抱えさせて。
これじゃ僕がここにいる意味がない。
力さえ、力さえあればと僕は拳をぎゅっと握りしめる。
その時ふとジャケットのポケットの中にあの飴玉があることを思い出しそっと取り出す。

──いずれ必要になる時が訪れます。

彼は去り際に僕にそう告げた。
今がその時なのでは?と僕は手の中の飴玉をじっと見つめる。

「にぃに……、それ、なぁに……?」
「え、あー、これは……そうだな……。にぃにが強くなるためのお薬、かな」
「にぃに、それのんだらつよくなる?」
「そうだな。強くなる。ウィードやアリアさんを守れるくらい強くなれる」
「にぃに……。にぃに、おれたち、まもってくれる……? たすけて、くれる……?」
「ああ。だからここでじっとしてられるか?」

できる?と目線を合わせるように座りウィードの頭にぽんと手を置くとまっすぐ見つめる。
するとさっきまでぐずっていたウィードはごしごしと袖口で涙を拭き力強く頷くとできるよ!とまっすぐ見つめ返してきた。
僕はそのままいい子だと撫でると立ち上がり手の中にある飴玉の包装を解き中の小さなそれを口の中へ放り込む。
特に味のしない飴玉だなと口の中で転がしてからこの小ささならと一気に噛み砕いた。
瞬間、僕の言いようのない不思議な感覚に襲われなんだこれと自分の両手を見ると赤い炎のようなものに包まれていて。
感覚的に熱いはずなのにそれは僕の体を包み込んでいるのにも関わらずまったく熱さを感じない。
どういうことだ……と驚く僕の目に映ったのは赤い炎のような光に包まれる僕をその大きな瞳に映したウィードで。
異様な光景に彼はにぃに……?とぽつりと呟くとじっと僕を見つめてくる。

「一体何が起こって……」
「にぃに、せなか……」
「背中?」

うんと小さく頷いたウィードが僕の背中を指差す。
なんだんだと僕は近くの姿見に自分の姿を晒した。
するとそこにいたのは背中に真っ黒な翼を生やした自分で。
驚く僕を次に襲ったのは声を上げられないほどの激痛だった。
例えようのないその痛みに僕はその場に膝をつき蹲ると耐えるように自分の身を抱きしめる。
何が起こってる?
僕に何が起こっているんだ?
思考を巡らせようとしても痛みがそれを邪魔して何も考えられない。

「にぃに……?」
「うぃー、ど……っ、く、るなっ……!!」

痛がる僕に心配そうな顔をしたウィードが触れようと近づいてくる。
今の僕は自分がどうなっているのか、これからどうなるのか見当もつかない。
だから僕はウィードに来るなと力の限り叫んだ。
聞いたことのない僕の大声にびっくりして一瞬怯えたウィードは何かを察したのかまっすぐ僕を見つめてゆっくり歩み寄ってきて。
何をする気なんだと見つめ返すとおれが……と呟きその小さな手で僕の頭に触れた。
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