【HL】水晶の燦めきに魅せられて
その帰り道。
僕はウィードがどうしてあんなに怖がったのかを考えながらゆっくり歩く。
確かに生まれてからずっとあんなに泣きじゃくるウィードも、人見知りするウィードも見たことがない。
何かこの国の住人と王様たちと違いがあるのか。
地位とかではなく、なにか根本的にウィードが恐れる何かが……。
そんなことを考えながら歩いていると人にぶつかって、やばいと咄嗟にすみませんと謝って、その人の顔色を伺うようにそっと顔を上げた。
そこにいたのは襟足だけ長い紫の髪にアメシストのように綺麗な紫色の瞳を持ったすごく綺麗な男の人で。
そう、まるで……。
「王子様……?」
「はい?」
「あっ……」
思っていたことをポロっと口に出してしまい僕はハッとして両手で口を押えた。
その人は僕を見てここは?と少し戸惑った様子で尋ねてきて。
どこの人だろうと思いながら僕はここはイスダリアだと答えた。
「イスダリア……? この国が? まさか……」
「まさかもなにもここは水晶の国イスダリア。あ、でもずっと昔は北の廃都なんて呼ばれてたらしいっすけど……」
「私が飛ばされた時間の間にそんな……」
ぶつぶつなにかを考えるように顎に手を当てる彼に僕はそれじゃあと横を通り過ぎようとする。
けれど彼はふと思い出したように今は何年ですかと聞いてきて、僕はなんだこいつと思いながら今日の日付を伝えた。
するとそいつは目を大きく見開きあの子がいる時だと小さく呟いた。
「あのー……」
「それなら今からあの子を……いや、でもそうするとかなりの時空が歪む……となるとやはり……」
「僕、そろそろ行きますね?」
「あ、待ってください。貴方、名前は? それと一つ聞きたいことがあります」
「はぁ……。僕はフランベルジュって言いますけど」
「フランベルジュ……なるほど。では貴方が私が探していた炎王の候補ということですか。とりあえずそんなことはどうでもいいです。貴方、ウィードと言う子をご存知ありませんか? 貴方がいう時代が正しいならイスか、ここにあの子がいるはずなんです」
「へ? えっと……あんたが言ってる奴と同じかは知らないけどウィードって名前の子供ならいますけど」
「いくつですか?」
「え? えーっと……2歳、だったかな、確か。つーかあんた何なんだよ」
怪訝そうに尋ねる僕に彼はすごく驚いた顔をしたかと思うとあの子がこんなきれいな場所に……とどこか慈しむような表情を見せた。
どうやら悪いやつではなさそうだから案内しようか?と尋ねるとハッとしたようにそういうわけには行かないんですと寂しそうな顔をする。
「私は今あの子に会うわけには行かないんです。あの子と私が出逢うにはまだ早いんです。ですが一つ聞かせてください。あの子は……ウィードは今、幸せなんですか……? この時代のあの子は笑顔でいますか……?」
「え、ああ、まぁ。なんか今日レグルスの王様と王妃様に会って泣いてたけど、でもアリアさんのとこでいつもニコニコ笑ってます」
「ああ、そうなんですね。よかった……。今のあの子は私のように酷いことをされてはいないんですね……。よかった……本当によかった……」
「あんた、ウィードのなんなんだよ?」
「私、ですか? そう、ですね……」
さっきからころころ表情が変わるやつだなと見ていると彼は一言、あの子の王子様でしょうか、と優しく微笑んで答えた。
それからそいつは申し遅れましたと自己紹介をしてくれた。
──センチェルス・ノルフェーズ。
彼はそう名乗り、自分が人間ではないこと、そしてここに来た理由を簡単に説明してくれた。
大切な人を救いたい、そう繰り返した彼はとても真剣で。
その手助けをするのに僕を探していたと話してくれた。
「一ついい?」
「どうぞ」
「……その大切な人ってもしかして……」
ウィードなのか?と言いかけて止まった。
こいつはこの時代の人ではない。
なら未来のことを聞くのは得策ではない。
そう考える自分がいて、言い澱んだ僕に彼は察しの通りですとだけ答えてくれた。
「そうか……。ちゃんと自分だけの王子様を見つけられたんだな……。……それで、僕の手を借りたいってあんたと違って僕は人間だけど、どうする?」
「そうでした。そんな貴方にこれを」
そう言ってセンチェルスが渡してきたのは赤い包みに入った飴玉で。
なんだこれ?と尋ねるといずれ必要になる時が来ますとだけ答えるセンチェルス。
よくわからないけどその時が来たら食べればいい、そういうことらしい。
「それではまた、いずれ」
「お、おい……! ほんとにいいのか? ウィードに会わなくて……。あいつはあんたを待って……」
「会うわけにはいかないんですよ。会えば最後、私は私でなくなってしまう。それにここまでの選択が全て無駄になる。ここまで最善の選択をしてきたのに……」
「で、でも……一目くらいなら……」
「だめですよ。こう見えて私、とても繊細なんです。時を管理する私が根本を覆すわけにはいかないんです。それに……」
「それに……?」
「私はあの子といずれ出逢えますから。ですから今はその時のために我慢をする時なんです」
そう言って綺麗な笑みを浮かべるそいつはまたいずれと言い残して突風と共に姿を消した。
ぽつんと残されたのは突然のことに呆然とする僕とその手に確かに握られた飴玉一粒。
それだけが彼がこの場所にいたという証で。
「ウィードが……悪いやつらに……」
突拍子もない話だけれど僕はその言葉が本当なのであれば兄として可愛い弟を助けてやらなきゃなと心の中で誓い再び帰路へとついた。
僕はウィードがどうしてあんなに怖がったのかを考えながらゆっくり歩く。
確かに生まれてからずっとあんなに泣きじゃくるウィードも、人見知りするウィードも見たことがない。
何かこの国の住人と王様たちと違いがあるのか。
地位とかではなく、なにか根本的にウィードが恐れる何かが……。
そんなことを考えながら歩いていると人にぶつかって、やばいと咄嗟にすみませんと謝って、その人の顔色を伺うようにそっと顔を上げた。
そこにいたのは襟足だけ長い紫の髪にアメシストのように綺麗な紫色の瞳を持ったすごく綺麗な男の人で。
そう、まるで……。
「王子様……?」
「はい?」
「あっ……」
思っていたことをポロっと口に出してしまい僕はハッとして両手で口を押えた。
その人は僕を見てここは?と少し戸惑った様子で尋ねてきて。
どこの人だろうと思いながら僕はここはイスダリアだと答えた。
「イスダリア……? この国が? まさか……」
「まさかもなにもここは水晶の国イスダリア。あ、でもずっと昔は北の廃都なんて呼ばれてたらしいっすけど……」
「私が飛ばされた時間の間にそんな……」
ぶつぶつなにかを考えるように顎に手を当てる彼に僕はそれじゃあと横を通り過ぎようとする。
けれど彼はふと思い出したように今は何年ですかと聞いてきて、僕はなんだこいつと思いながら今日の日付を伝えた。
するとそいつは目を大きく見開きあの子がいる時だと小さく呟いた。
「あのー……」
「それなら今からあの子を……いや、でもそうするとかなりの時空が歪む……となるとやはり……」
「僕、そろそろ行きますね?」
「あ、待ってください。貴方、名前は? それと一つ聞きたいことがあります」
「はぁ……。僕はフランベルジュって言いますけど」
「フランベルジュ……なるほど。では貴方が私が探していた炎王の候補ということですか。とりあえずそんなことはどうでもいいです。貴方、ウィードと言う子をご存知ありませんか? 貴方がいう時代が正しいならイスか、ここにあの子がいるはずなんです」
「へ? えっと……あんたが言ってる奴と同じかは知らないけどウィードって名前の子供ならいますけど」
「いくつですか?」
「え? えーっと……2歳、だったかな、確か。つーかあんた何なんだよ」
怪訝そうに尋ねる僕に彼はすごく驚いた顔をしたかと思うとあの子がこんなきれいな場所に……とどこか慈しむような表情を見せた。
どうやら悪いやつではなさそうだから案内しようか?と尋ねるとハッとしたようにそういうわけには行かないんですと寂しそうな顔をする。
「私は今あの子に会うわけには行かないんです。あの子と私が出逢うにはまだ早いんです。ですが一つ聞かせてください。あの子は……ウィードは今、幸せなんですか……? この時代のあの子は笑顔でいますか……?」
「え、ああ、まぁ。なんか今日レグルスの王様と王妃様に会って泣いてたけど、でもアリアさんのとこでいつもニコニコ笑ってます」
「ああ、そうなんですね。よかった……。今のあの子は私のように酷いことをされてはいないんですね……。よかった……本当によかった……」
「あんた、ウィードのなんなんだよ?」
「私、ですか? そう、ですね……」
さっきからころころ表情が変わるやつだなと見ていると彼は一言、あの子の王子様でしょうか、と優しく微笑んで答えた。
それからそいつは申し遅れましたと自己紹介をしてくれた。
──センチェルス・ノルフェーズ。
彼はそう名乗り、自分が人間ではないこと、そしてここに来た理由を簡単に説明してくれた。
大切な人を救いたい、そう繰り返した彼はとても真剣で。
その手助けをするのに僕を探していたと話してくれた。
「一ついい?」
「どうぞ」
「……その大切な人ってもしかして……」
ウィードなのか?と言いかけて止まった。
こいつはこの時代の人ではない。
なら未来のことを聞くのは得策ではない。
そう考える自分がいて、言い澱んだ僕に彼は察しの通りですとだけ答えてくれた。
「そうか……。ちゃんと自分だけの王子様を見つけられたんだな……。……それで、僕の手を借りたいってあんたと違って僕は人間だけど、どうする?」
「そうでした。そんな貴方にこれを」
そう言ってセンチェルスが渡してきたのは赤い包みに入った飴玉で。
なんだこれ?と尋ねるといずれ必要になる時が来ますとだけ答えるセンチェルス。
よくわからないけどその時が来たら食べればいい、そういうことらしい。
「それではまた、いずれ」
「お、おい……! ほんとにいいのか? ウィードに会わなくて……。あいつはあんたを待って……」
「会うわけにはいかないんですよ。会えば最後、私は私でなくなってしまう。それにここまでの選択が全て無駄になる。ここまで最善の選択をしてきたのに……」
「で、でも……一目くらいなら……」
「だめですよ。こう見えて私、とても繊細なんです。時を管理する私が根本を覆すわけにはいかないんです。それに……」
「それに……?」
「私はあの子といずれ出逢えますから。ですから今はその時のために我慢をする時なんです」
そう言って綺麗な笑みを浮かべるそいつはまたいずれと言い残して突風と共に姿を消した。
ぽつんと残されたのは突然のことに呆然とする僕とその手に確かに握られた飴玉一粒。
それだけが彼がこの場所にいたという証で。
「ウィードが……悪いやつらに……」
突拍子もない話だけれど僕はその言葉が本当なのであれば兄として可愛い弟を助けてやらなきゃなと心の中で誓い再び帰路へとついた。