【HL】水晶の燦めきに魅せられて

次の日。
この世界の中心国であるレグルスから王様たちがやってきた。
廃都と化していたこの国が他の国が羨むほど美しい水晶を精製している。
そんな噂が広まり、王様の奥さん、つまり王妃様がその美しい水晶を見たいとやってきた。
そういうことらしい。
イスダリアの人たちは王様たちを快く受け入れ、自国の水晶を自慢気に見せていて。
僕は別に王様たちに興味もないので今日も今日とてアリアさんちに向かう。
こんちわーといつも通り中に入るといらっしゃいと優しい笑顔で出迎えてくれるアリアさん。
今日も旦那さんはいないみたい。

「フランベルジュはいいの? レグルスから王様たちが来ているんでしょう?」
「あー僕、そういうの興味ないんで。ウィードは?」
「あの子ならお昼寝中よ。よかったらあがって? お茶入れるから」

お邪魔しまーすと中にはいるとウィードのもとへ。
寝室でお昼寝しているウィードの傍に座り込んで寝てりゃ大人しいんだけどなとその頭を撫でる。
するともっと撫でて、と言うように僕の手に自分の頭を擦りつけてきて。
僕はそんなウィードの頭をぽんぽんとしてからアリアさんが用意してくれたお茶に手を付ける。

「今日も旦那さん、いないんすね」
「ええ。でも仕方ないわ。あの人が頑張ってくれているからこうしてのんびり生活できるのだし……」
「僕なら絶対アリアさんのこと一人にしないのに……」
「ふふ……。ありがとう。フランベルジュ。でもね、寂しくなんてないのよ。ウィードもいるし、貴方もよく来てくれるし。いつもありがとう、フランベルジュ」
「あ、いや、そんな僕はそんな」

そんな大それたことしてないと言いかけたときだった。
昼寝から目を覚ましたウィードが眠い目を擦りながら起き上がってきて、僕を見るなりにぃにー!と抱き着いてきた。
僕がその小さな体を抱きとめておはようとぽんぽんと頭を撫でてやると彼はえへへ~と嬉しそうに笑う。

「ね! にぃに! にぃにはおれのおーじさまなのー?」
「え?」
「だってにぃに、おれのことかわいいって! おーじさまはね、おひめさまのこと、かわいいっていうんだよ!」
「あのー……」
「ウィードね、最近童話にハマってるのよ」
「童話……」

これ!とウィードが見せてきたのはたくさんの絵本。
どれもお姫様と王子様が出会って結ばれるやつ。
ウィードはそれを開いて見せてこれもこれもとご丁寧にどんな物語なのか説明してくれる。
それを説明した後ににぃにがおーじさまなんでしょ!?と目を輝かせて見つめてきた。
僕はそれに違うよと苦笑いして答えるとわかりやすく落ち込んで、おれのおーじさまはどこ……?と目を潤ませた。

「にぃに、おーじさまじゃない……。おれ、おーじさま、いないの……?」
「いるもいないもお前は男だから探すならお姫様じゃないのか?」
「ううん。おれがおひめさまだから……」
「そっか……」
「おれのおーじさま……」
「ウィードにとってどんな人が王子様? ママとにぃにに教えてくれる?」
「うん! いいよ!」

そう言ってウィードはスケッチブックとクレヨンを持ってやってくるとおれのおーじさまはねー!と楽しそうに話し始めた。

「おれのおーじさまはとーってもかっこいいの!」
「うんうん、それで?」
「それでね! とーってもやさしいの! おれのこといっちばんにかんがえてくれるの!」
「へぇ。それでそれで?」
「んとね、それでね!」

こんな感じなの!とウィードは紫のクレヨンで自分の理想の王子様を描き始める。
ロングコートにケープマント。
頭に小さな金色の王冠を乗せている優しい青年って感じのイラスト。
これが王子様か……とそれを手に取り見ているとウィードはおーじさまいるかな?と小首を傾げて見上げてくる。
僕は少し考えてからきっといい子にしてたら現れるよと頭を撫でて、スケッチブックを返した。
するとそっか!と花が咲いたような笑顔で笑うウィードはスケッチブックを抱えて早く現れないかなぁと体を左右に揺らす。

「おれのおーじさまー」
「いい人が現れるといいわね、ウィード」
「うん!」
「この調子だと、好きな人ーって連れてくるの男だったりしてな」
「ふふ。ウィード、とってもかわいいから女の子に間違われたりしてね」
「おれおとこだよー?」
「わかってるって。男の子でお姫様なんだよな?」
「うん! おれ、おひめさまなの!」

目を輝かせて言うウィードにお姫様は女の子が夢見るものだよとも言えず僕とアリアさんは顔を見合わせて苦笑した。
僕たちはウィードが健やかに育って、大好きな人の傍でずっと笑っていられればそれでいい。
それだけが僕たちの共通の認識。
そんな僕らの前でウィードはまだ見ぬ王子様に思いを馳せ、ぼーっと妄想の世界に行っているようで。
楽しそうで何よりとアリアさんが昼食の準備を始めたので僕も手伝いを始めた。
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