【HL】水晶の燦めきに魅せられて

少し離れた場所までくると僕はセンチェルスさんを呼んだ。
彼はやはりこうなりましたかとため息交じりに僕の前に現れると残念でしたねと告げた。

「センチェルスさん……! お願い、二人を助けて……!」
「それは出来かねます」
「は……?」

出来ないんですと繰り返す彼はこれは決まったことだと告げて。
どういうこと?と戸惑う僕にこれがなければ私はあの子に出逢えないと答えた。

「大丈夫。二人は生きてますよ」
「生きて、る……?」
「ええ。それに……ほら」

降ってきたと空を見上げるとぽつぽつと雨が降り始めて。
雨脚は次第に強まり、イスダリアを包んでいた炎をあっという間に消し去ってしまう。
今なら……と二人のもとに戻ろうとした僕の手を掴んだのは他の誰でもないセンチェルスで。
彼は行きますよと声をかけると杖を一振りし、空間を切り裂くと僕を連れてその中へと入っていく。
たくさんのフィルムが流れる中、僕は彼に連れられしばらく歩くと別の場所へと辿りついた。
そこには先ほどの少女たちとは別に三人の女性たちがいて。
どの子も魅力的だったけど昔ほど心躍らない自分がいて少し驚いた。

「あー! おにいちゃんきたー!」
「おにいちゃん! あれー? おひめさまはー?」

たかたかっと駆け寄ってきたアクアとアースはどこにいるのー?と僕の周りをくるくる回りだして。
それを聞いたセンチェルスはどういうことですか?と聞いてきてそれに二人があのね!とあの泉であったことを話した。
すると彼は少し考えたあとそれならと僕をある場所へ案内してくれた。
その道中、急激な眠気に襲われた僕を背負い彼はまさか契約してたなんてと言い出して。
なんのことと問いかけることもできず僕は抗えない眠りに落ちかける。
その度に起きなさいと叩かれるので痛みでなんとか気を保っていて。
そうしてたどり着いたのはラベンダーが咲き誇るきれいな花畑で。
これは……と見惚れる僕の手を引きこっちへと彼に導かれたのは一つの墓標の前。

「センチェルスさん……?」
「よく見なさい、フラン」
「え……?」

墓標を指差し真剣な表情で告げる彼に促されよく見るとそこには記されていたのは【アリア・ウォーリア、ここに眠る】という文字で。
一瞬理解が出来ず困惑する僕にセンチェルスさんはアリアさんになにがあったのかをわかる範囲でと話してくれた。

「それじゃあ……アリアさんは……」
「ええ。亡くなってます。ですから契約をした貴方は今、次の姫を得るまで眠りにつこうとしています。それでは私が困るんです。なので選びなさい、フラン。こちらが用意した別の人と契約を交わすか、貴方の時を犠牲に彼女を呼び戻すか」

そう話すセンチェルスさんの言ってることはよくわからなかったけど、とりあえず僕の時を犠牲にすればアリアさんが戻ってくるらしい。
それだけはわかった。

「なら、僕はアリアさんを選ぶよ」

そう迷いなく伝えるといい度胸ですと優しく笑み目を閉じて力を抜きなさいと言われそのとおりにする。
眠りそうになる僕に彼は気を確かに保ってくださいと言ってきてごめんごめんとなんとかそのまま寝ないように舌をかんだり手のひらに爪を立てたりして起きる努力をしていた。

「しっかり思い浮かべなさい。そして彼女を呼びなさい。貴方の声が、意思が貴方の想い人を呼び戻すきっかけになるのですから」
「僕の想い……」
「そう、貴方の強い想いですよ」

そう言われて僕は思い返す。
アリアさんと過ごした楽しかった日々を。
あの日々に戻れるなら僕はなんだって犠牲に出来る。
そんなことを思いながら僕は両手を空へ広げ彼女を受け止めるような体勢を取るとゆっくり一呼吸し、彼女を呼ぶ。

「アリア、おいで」

目を閉じたままそう呟くとふわっとラベンダーの香りが舞い上がり、僕にぎゅっと抱き着くような感覚に襲われて。
恐る恐る目を開けるとあの時と同じ綺麗な水色の髪が風にたなびくのが見えて、僕はアリアさん……?と声をかけるとやっと来てくれたと微笑む彼女の顔が見えた。
あの時と変わらない、水色の髪にサファイアのような青い瞳。
間違いない、僕が知ってるアリアさんだ。
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