【HL】水晶の燦めきに魅せられて

そうして波乱のお風呂時間が終わり僕たちはいつも通り洞窟で集めた木の実や焼いた魚を食べる。
服も乾き自分のものに着替えていたけれど僕のに関しては上の服はアリアさんがさっきまで着ていたものなのでちょっと落ち着かない。
そわそわする僕にアリアさんはどうしたの?と聞いてくるけど、別になんでもないですとだけ返して立ち上がる。

「にぃに、どこいくのー?」
「ちょっと外の空気吸ってくるだけ。ウィードはここにいてな」
「えー! おれもいくー! ままもいこ!」

おれも!とご飯を食べ終わったウィードはぴょこんと立ち上がって僕の服をぎゅっと掴んでくる。
それを見てアリアさんも立ち上がってくると私もともう片方の手を握ってきて。
少し一人で頭を冷やしたかったんだけどなと思いながらも僕は二人を連れて川へと向かった。

「わぁ……! ままー! にぃにー! おそらきらきらだよ!」

川べりに座り三人で空を見上げるとそこに広がるのは綺麗な星空で。
綺麗だねと三人で見上げ、ホッと一息。
終始黙ってじっと綺麗な星空を見ているだけ。
ゆったりとした時間を楽しんでいるとこちらに歩み寄ってくる足音が聞こえ立ち上がる。
そこにいたのはイスダリアの上層部の人たちといかつい男で。
男の姿を見たアリアさんとウィードは怯えたように震え、僕の後ろに隠れると助けて……とか細い声で訴えてきた。

「よぉ? アリア。久しぶりだなぁ?」
「……ッ」
「先代様、御子様、お探ししましたよ。さぁ、神聖なる儀式を始めましょう」
「ダメだろ? アリア。お前は御子だったんだからお役目を果たさないと」

威圧的な態度で僕たちを睨むそいつはどうやらアリアさんの付き人だった人らしい。
僕は二人を後ろに庇いながらじりじりと後ろに退き、距離を取ろうとするもいつの間にか背後にも上層部の人たちが囲い込むようにいて。
その中の一人がアリアさんの手を掴むとそのまま僕とウィードから引き離し、ウィードも別の人に捕まってしまう。
僕はといえば二人に駆け寄ろうとするもアリアさんの付き人だったやつに地面に蹴り倒され、よくも俺様の大事な家族をと背中を踏みつけられ身動きが取れない。

「フラン……!」
「にぃにー!」
「アリアさん……! ウィード……!」
「さぁ行きましょう、御子様、先代様」

白い集団に連れられて二人は僕の前から姿を消す。
残された僕はそいつに蹴り飛ばされたり、殴られたり、酷い暴力を浴びせられて。
痛くて痛くてたまらない。
こんな苦痛をアリアさんやウィードも受けていたのかと思うともっと早く助けてあげられてたらと悔やんでも悔やみきれない。
もっと、もっと僕に力があれば。
こんなやつから、あんなしきたりから二人を守れるだけの強い強い力があれば……。
そう強く願った、その時だった。
突然周りの時が止まったかのように周りの音が聞こえなくなって、驚いて起き上がると無様ですねと僕を嘲笑うような彼の声が聞こえた。
彼は僕の前に現れるとこんにちはと変わらない微笑みを湛えて立っていた。
僕は彼に駆け寄りもっと力が欲しいと訴える。
アリアさんを、ウィードを守りたい。
そのための力が欲しいと。
けれど彼は首を縦に振ってはくれず、どちらかを選びなさいと告げた。

「貴方はどちらもを選ぶんですか? 強欲にもほどがありますね」
「それなら僕はアリアさんを選ぶよ、センチェルスさん。だって、ウィードは貴方が守ってくれるんでしょう?」
「賢明な判断ですね。ここでウィードを選ぶようならどうしてしまおうかと考えていたところです」
「だってウィードにとっての王子様が貴方なように、アリアさんにとっての王子様は僕らしいから」

だからアリアさんを選ぶよと繰り返す僕にいいでしょうと頷いた彼は羽ペンを取り出すと何やら少し考え込む素振りを見せた。
何だろうと見ているとこれにしましょうと空に「Flan・Guardianフラン・ガーディアン」と記すとそれを僕に取り込ませるように投げつけてくる。
その文字が僕の中に吸い込まれた瞬間、体中が燃えるように熱くなり僕の着ていた服の一部が赤く染まって、僕の髪も毛先だけオレンジに染まった。

「ようこそ、こちら側へ。炎王フラン・ガーディアン」
「これが……僕の……」
「助けに行きなさい、フラン。貴方の大事な人の元へ」

そう言われ僕は黒い翼を広げてイスダリアへと向かった。
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