【HL】水晶の燦めきに魅せられて

公園で遊び終わったウィードはすっかり疲れ切って僕の腕の中でぐっすり眠っていた。
最初はおんぶしようかと思ったけどだっこがいいとぐずりだしてしまったので仕方ないと現在に至る。
夕焼けが照らす中、僕たちは夕飯の買い出しをしながら家へと向かっていた。

「ウィード、ほんとに貴方に懐いててよかった……」
「なんでこんなに懐かれてるのか僕もわからないんですけどね……」
「貴方が優しいことを感じて懐いてるのよ。ほんと、貴方を選んでよかった……」
「まさかこんなことになるとは思わなかったですけどね」
「それはほんとにごめんなさい。でも私もあの時、貴方しかいないって寄ってきたときに思ったから……」

迷惑だったよね……とわかりやすくうつむくアリアさんにもういいですよと慰めるように声をかける。
僕はただウィードを彼に出会わせるまでの繋ぎでしかない。
どう頑張っても王子様にはなれないし、なる気もない。
僕はウィードにとってのお兄ちゃんでいいと眠るウィードを見てそう思う。

「そういえば例の儀式、そろそろですよね……」
「……ええ。私、ほんとに大丈夫なのよね……? ね……? フランベルジュ……」
「大丈夫。僕が二人とも守りますから」
「そう、よね……。大丈夫、なのよね……」

そう繰り返すアリアさんは自分の体を抱くようにして震えていて。
そりゃそうだ。
僕が何とか打開策を見つけないとアリアさんはこのまま聖泉に沈められてしまう。
そしていずれウィードも……。
何としても避けないとと思ってはいるもののどうしたらいいかなんて僕に考えつくはずもなく。
最悪この国をまた廃都はいとにするしかない。
僕のこの力で、この国を焼き尽くし、灰に戻す。
そして二人をどこか安全な別の場所へ移動させる。
そのくらいしか僕には考えられなかった。

「フランベルジュ……ごめんなさい……。私ってば貴方を困らせてばかりね……。ほんと、ごめんなさい……」
「そんなことないですって。僕はアリアさんの役に立てるならうれしいです」
「そう……? 貴方ってやっぱり優しいのね……。私も貴方みたいな人が付き人だったらよかったのに……」
「旦那さん、でしたっけ……。僕、会ったことないんですけど、どんな人だったんです?」
「あの人はとてもプライドが高くて、私の付き人になったことでさらにひどくなったみたい……」

ぽつぽつと話し始めたアリアさんの話はとても聞くに堪えないもので。
プライドの高い旦那は表面はアリアさんを引き立て、良い付き人、良い旦那として振舞っていたという。
けれど家に変えれば一変。
自分のいうことに少しでも逆らえば手を上げるひどい人だったらしい。
さらに話を聞いていた中で酷かったのはウィードが出来たのはその旦那に乱暴された結果だということ。
あまりにも酷い所業に僕は腸が煮えくりかえそうだった。

「あの人、私の付き人だったから仕事場での評価が上がったみたいで、それで今の地位になったの……」
「それって地位や名誉のためにアリアさんを利用しただけってことじゃないですか。そんなの……」
「そうね……。だから、ウィードには同じ思いしてほしくなかったの。こんなに可愛くて無垢な子だから……貴方に付き人になってもらえてよかった。ありがとう、フランベルジュ」
「お礼だなんて……。僕はアリアさんが苦しまずに済むならって……」
「ありがとう……。ほんとにもっと早く出逢えてたらよかったのにね……」

そう言って悲しそうに笑うアリアさんに僕は遅くなんかないですよと呟くと立ち止まる。
え?と振り返った彼女をまっすぐ見つめて遅くなんかないと繰り返した。

「フランベルジュ……?」
「アリアさんはもう御子様じゃない。なら付き人なんてものに苦しめられる必要もないんですよ。自由になっていいんです」
「でも……私は……」
「アリアさん、僕はウィードもアリアさんも守る覚悟は出来てます。だから、今からでも遅くない。僕と一から始めませんか?」
「フランベルジュ……」

真剣にそう伝えるとアリアさんは目を見開いたかと思うと私でいいの……?と不安そうに尋ねてきて。
僕がアリアさんがいいんです、と告げると彼女はとても嬉しそうに笑ってありがとうと言った。
こんなの間違った関係だってわかってる。
わかってるけど、アリアさんを救えるのは僕しかいない。
僕しかいないんだ。
そんな思いで僕はアリアさんに自分の気持ちを伝えた。
外だったから周りの視線がなんだか痛いけどそんなの気にしてられなかった。
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