女子と女子

 隣に寝転ぶ女が言った。
「ねェ。死ぬ時は、海に行きましょうよ」
 私は身を起こして、その女を見下ろした。彼女は相変わらずうつ伏せに寝転がって、足を天井に向けて、ゆらゆらと、まるで人魚が泳ぐが如く左右を交互に動かしている。
 その顔はこちらを見上げていた。いつもどおりの、だからこそ何を考えているのかわからない、そんな表情をしていた。
 柔らかそうな唇が薄っすらと隙間を作る。吐息を漏らすような微かな声が、歌うようにして言葉を紡ぐ。
「二人で、海に落ちて、漂い続けましょうよ。どこまでも、どこまでも。きっと、地球の裏側に立っていけるし、北にも、南にも行くことができる。行き先は波の気分次第だけれど。ねェ。きっと、楽しい」
 笑う。まるで子供みたいに邪気のない、無垢な笑みであった。可愛らしい。
 手を伸ばして、その白い頬に触れた。そして髪を撫でて、梳いていく。くすぐったいのか、くふくふと喉の奥から笑い声が漏れていた。
「ネ、ネ。いい考えでしょう?そう思うでしょう?」
 口元に指を添えるなんて、上品なフリをして笑っているけれども、その様子はどこまでも子どもの真似事のように見える。そんな彼女が愛おしくて、指先で腕を撫でていけば、波立つ肌が指紋を削っていくようだった。
 女はうつ伏せにしていた体を仰向けに直す。私はその上に跨って、開かれた両手に己の手のひらを合わせた。
 カーテンが揺れる。窓から生ぬるい風が吹いている。明日の天気も今日と変わらず、やや蒸し暑い日になるらしい。
 しっとりとした肌が重ね合わさって、そして指が絡み合っていく。
 顔を寄せる。啄むように唇を落とした。乾燥していたお互いのそれは、徐々に湿って濡れていく。
 暫くののちにお互いの唾液が混ざり合っていく。舌に感じるその苦味に、まだ生きていたいかもしれないと、そう思ったのであった。
1/1ページ
    スキ