男子と男子

 僕が所属する華道部には、それはそれは美しい『お姫様』がいる。
 艶やかな着物に身を包み、花の前に座ればまるで傾国の美女が描かれた日本画のような美しさを周囲に見せつける。また完成された作品も本人に負けず劣らず美しく、幾度とコンクールで受賞していた。

 正に錦上添花。生け花とお姫様が並ぶ姿はそれはそれは眩く光り輝いていた。

 そんな美しく光る花に群がる蛾が、我々だ。部活動勧誘会の際、その見目麗しいかんばせに目を奪われ、まるで吸い寄せられたかのように椅子に座り、いつのまにか入部届を出していた。惹きつけられるような、そんな何かを感じたのだ。

 蛾は常に花からの寵愛を得ようと、毎時間、毎分、毎秒、姫に愛の言葉を囁く。

 しかし花はそのたびににこりと微笑んで、哀れな害虫に無理難題を言い渡す。
 例えば、部屋の二酸化炭素濃度が高くなっているから花を生け終わるまで呼吸を止めていて欲しい。

 例えば、貢がれた飲み物が多すぎて飲みきれないから10ℓの水をここで一気飲みして欲しい。

 例えば、何かインスピレーションが浮かびそうだから「いいよ」というまで鉄棒に逆さにぶら下がってと言って、相手が意識を飛ばす直前になっても見つめ続けていたり。

 もちろんそれらをクリアできた虫は1匹もおらず、途中でリタイアした虫ケラたちを美しい花は一瞥するだけでその後、何の反応も示さない。虫が話しかけても、目の前に立っていても、花にとまっても、まるで何もないかのように存在を丸っと無視してしまうのだ。

 突然麗しの姫君に存在を認識してもらえない事実に心を折られ、華道部を去っていく蟲も少なくはないが、それでもなお凛と咲き誇る桜の花を見んとしてしぶとく残り続ける螟蛾は少なくない。

 その美しさは着物を脱いだ教室においても健在で、耳のあたりで切りそろえられた横髪に、短く切られた濡羽色の後ろ髪。伏目がちの瞳が開かれ、炎のような薄い唇が蠱惑的に釣り上がる。すらりと伸びた足はきっちりとアイロンがけされた黒いスラックスに隠され、詰襟がその白い頸を覆い隠している。

 人は"彼"を、かぐや姫と呼んだ。
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