奪取(試し読み)
書き下ろし短編「奪取」
冒頭試し読み
告白したのは彼女の方からだった。
一年生の終わり、終業式が数日後に迫ったその日僕は彼女から呼び出された。
何事だろうと思いつつも彼女の元へ向かう為に階段を登り屋上への扉を開ける。その瞬間春の匂いを含む空気が鼻腔をくすぐった。新しい季節、新しい予感をはらむ香りだ。
彼女の姿は既にそこにあった。ドアに背を向けて校庭を見ていたが、扉を開ける音に反応して僕の方に身体を向けた。その表情はいつもより固いが、僕の姿を視界に入れた瞬間少しだけ柔らかな表情になった。
屋上で二人きりで話すとなると、ただの世間話でないことだけは分かる。彼女とはクラスが同じで、時々話すくらいの関わりしかなかった。
「ありがとう、来てくれて」
彼女が僕に微笑みかける。
「いえ、話というのは」
「あの……」
彼女は視線を下に向けたまま何か言葉にしようとしては言い淀み、また何か口にしようとし、そして思いとどまるということを何度か繰り返した後、風にかき消されそうな声でつぶやいた。
「あ、あの、荒井くんのことが好きです。私と……その、付き合ってください」
二人きりで話すということは、もしかしたら想いを告げられることもあるかもしれないとは思っていた。でもまさか、本当にこんなことが起こるなんて。
女の子に告白されるなんて、自分には縁のないことだと思っていた。
人気があるわけではない、目立つタイプでもない。容姿だって他に優れた人間など沢山いた。鏡を見るたびに隈が酷いなと我ながら思う。自分でいうのもなんだが、容貌・性格共に親しみやすさはない。
なぜ、と聞こうとして彼女を見て──思いとどまった。
胸の前で手をぎゅっと握りしめて、見るからに緊張した面持ちで僕の返事を待っている。
彼女のことは嫌いでは無かった。無関心というほど他人でもない。どちらかというと好ましいかもしれないが、自分から積極的に関係を築こうとまでは思わない、そんな相手だった。
僕も年頃の男子高校生の例に漏れず、女の子に興味はあった。どうしても、何が何でも交際相手が欲しいという訳ではなかったが、やはり気持ちを向けられるというのはむずがゆいような中に嬉しさがある。自分の存在を全肯定されたような、何とも言い難い安心感のようなものといったらいいのだろうか。
そして何より、今にも崩れ落ちそうなほど緊張が最高潮に達し、小さく震える彼女のことを振るなどという心無いことが出来るわけもなく、
「──はい。僕でよろしければ」
気付けば彼女を受け入れていたのだった。
その時の、花がほころぶような彼女の笑顔はずっと目蓋の裏に焼きついている。
*
それから、彼女と交際を始めてから数ヶ月が経った。
僕達の関係はそのままつつがなく続いていた。他の恋人達がどのくらいの期間続くものなのかよく分からなかったが、三ヶ月以内に別れてしまうことが多いらしい。それをいえば、僕達は良い関係を保っているのではないかと思う。ケンカになることも無かったし、これといった言い合いも無かった。
正直、付き合った当初はその場の雰囲気に流された形だったが、今ではそれで良かったと思っている。
彼女と過ごす時間は、友人達と過ごす時間とはまた別の楽しさがある。楽しさというより安心するといったほうが近いかもしれない。
交際すること自体が初めての経験で、最初こそ僕も緊張して会話がたどたどしかった。だが、時間が経つと慣れるもので、今ではそれなりに他愛もない話を気軽にするようになった。
二年生になってクラスが変わり、僕達は離れ離れになってしまった。だがその代わりに待ち合わせをして放課後一緒に下校するようにしていた。
その日は放課後に二人で公園に来ていた。午後四時くらいの公園には人がまばらだ。遊び回る子供たち、ベンチに座ってのんびりしているご老人、散歩をしている青年、僕らと同じように恋人同士か、制服姿で語り合う男女など、各々が各々の時間を過ごしている。そんな穏やかな空気が辺りには満ちていた。
「荒井くん! 見て見て!」
気がつくと隣にいたはずの彼女は数メートル先にいて手を振っていた。何をするのかと見ていたら急に周りにいた鳩を追いかけ始めた。
彼女が鳩を追いかける、鳩が逃げる、また追いかける。それを繰り返しているうちにすっかり鳩が彼女の周りからいなくなってしまったので、僕は鞄からお昼に食べたパンの残りを取り出し小さくちぎって投げた。途端鳩が群がってくる。彼女が嬉しそうに駆け寄ってきて鳩を散らす。また鳩が集まる、彼女が追いかける。
「きゃーっ⁉︎」
一連の行動を何度か繰り返していたところ、突如彼女が悲鳴をあげた。
追いかけ回された怒りか、食事を邪魔された怒りか、鳩があろうことか彼女の制服にフンをしたのだ。申し訳ないがそれを見て僕は声をあげて笑ってしまった。
「鳩をいじめるからですよ」
「いじめてないよ、追いかけていただけなのに。ひどいよ。ああもうどうしよう、最悪だよ」
彼女が口を尖らせながら不満を漏らす。
僕はカバンからティッシュを取り出し彼女の制服を拭いてあげた。自分で拭こうと思ってたのに、でもありがとうと、一瞬驚いたのち照れたように笑った。
あまり感情を表に出さない僕とは違って、彼女は笑ったり、悲しんだり、照れたりと、表情を目まぐるしく変える。そのくるくると変わる表情を見ているのは飽きない。特に、彼女の笑顔を見た時は、心の奥底がほっと温かくなるような感覚と同時に、胸を締め付けられるような、たまらない気持ちにもなる。側でもっと見ていたいと思う。
いつしか、すっかり彼女は僕の日常に溶け込んでいた。
始まりこそその場の雰囲気に流されたが、いつの間にか僕は彼女のことが好きになっていた。
それなのに、慣れというのは恐ろしい。僕は油断したのだ。
*
「……あ、あのね、荒井くん。今日って塾なかったよね」
「ええ、そうですよ」
お昼休みに僕の元へ彼女が来て開口一番にそう訊ねた。塾のある曜日は前から伝えていたけれど、改めて確認しにくるとは何か用があるのだろうか。彼女とは、塾のない日は一緒に下校をしていた。クラスの違う僕たちは、時間を作らないと中々一緒にいることが出来ないからだ。
しかし、僕にも友達付き合いというものがある。ゲームが好きだということで、二年生から同じクラスになった赤川哲也君と意気投合しよく盛り上がっていた。話の流れで遊びに来なよと誘われることがあったが、先に述べたように放課後は彼女と帰るようにしていたのでそれは叶わなかった。
だが、進級して数ヶ月、そろそろ良いのではないか。たまには放課後に友人と遊びたい。気の置けない友人と恋人といる時の自分というものはまた違う。彼女といる時間も好きだが、リフレッシュもしたい。今日もまた僕は赤川君に声をかけられていたのだった。
「すみません、今日は先約があるので一緒に帰れません」
「えっ……?」
彼女は目をまるくして驚いたかと思うと、視線を泳がせ不安そうな顔で僕に問いかける。
「どうしたの、何か用事でもできたの」
「いえ、ちょっと。たまには友人とも遊びたいと思いまして」
「そう、なんだ……」
ああ、友人というのは男ですのでと聞かれてもいないことを話すも、彼女の心はここにあらず、生返事を返すばかりだった。ちょっとしたことで機嫌を損ねてしまうので女の子の相手は面倒だと思う反面、そんなに僕と帰れないことに落ち込むのかと、そのいじらしさに可愛げと少しばかりの優越感を感じてしまう。
「明日は一緒に帰りましょう」
「……いいよ」
その言葉は声音からして肯定の意ではなく否定の意だった。あれだけ塾の無い日は彼女から僕のクラスに来て毎日一緒に下校していたのに、一体どういう風の吹きまわしだろう。聞き返す間も無く彼女は俯きながら早足で去っていってしまった。
「おーい、荒井君お待たせ。そういえば来週なんだけどさ、同人ゲーム即売会に行かないかい? 会場以外の情報がない、どんなサークルが出展するかもわからない、謎のイベントなんだけどさ」
入れ違いに赤川君が教室に戻り、僕に話しかけてきた。
「大丈夫なんですか、その即売会は」
「さあ、でも掘り出し物がありそうじゃない? ま、帰りながら詳しい話をしようか」
僕は先ほどの彼女の様子に少しばかり心をざわつかせられていたが、すぐに赤川君との話に意識が向き数分後にはすっかり頭から抜け落ちてしまった。
翌日、いつも昼ご飯は僕の教室で一緒に食べることにしていたが、時間になっても彼女は来ない。何か用事でもあるのだろうかと夢野さんのクラスを覗きに行くと、そこにも彼女はいない。もしかして今日は学校を休んだのだろうか。
クラスメイトに尋ねると彼女は登校しているという。ではやはり何か用事があっていないのだろう。僕はクラスメイトに礼を言い、また放課後に様子を見に来ようと自分のクラスに戻った。
「夢野さん、いますか」
放課後、彼女の様子を見に行くと、またしてもそこに彼女の姿はなかった。昼休みに話しかけたクラスメイトが僕に気づき、声をかけてくれた。彼女はもう帰ってしまったのだという。僕は礼を言うとその場を立ち去った。
僕が彼女のクラスに向かったのは終業のチャイムが鳴ってからすぐだ。その間に帰ったとすれば、相当急いで昇降口に向かったことになる。しかし、廊下で彼女とすれ違うことはなかった。つまり、僕を避けて彼女は帰路についた。…………何かがおかしい。
彼女のことが気がかりではあったが、今日は塾の日だったので放課後はそのまま塾へ向かってしまった。
【続きは同人誌で】
冒頭試し読み
告白したのは彼女の方からだった。
一年生の終わり、終業式が数日後に迫ったその日僕は彼女から呼び出された。
何事だろうと思いつつも彼女の元へ向かう為に階段を登り屋上への扉を開ける。その瞬間春の匂いを含む空気が鼻腔をくすぐった。新しい季節、新しい予感をはらむ香りだ。
彼女の姿は既にそこにあった。ドアに背を向けて校庭を見ていたが、扉を開ける音に反応して僕の方に身体を向けた。その表情はいつもより固いが、僕の姿を視界に入れた瞬間少しだけ柔らかな表情になった。
屋上で二人きりで話すとなると、ただの世間話でないことだけは分かる。彼女とはクラスが同じで、時々話すくらいの関わりしかなかった。
「ありがとう、来てくれて」
彼女が僕に微笑みかける。
「いえ、話というのは」
「あの……」
彼女は視線を下に向けたまま何か言葉にしようとしては言い淀み、また何か口にしようとし、そして思いとどまるということを何度か繰り返した後、風にかき消されそうな声でつぶやいた。
「あ、あの、荒井くんのことが好きです。私と……その、付き合ってください」
二人きりで話すということは、もしかしたら想いを告げられることもあるかもしれないとは思っていた。でもまさか、本当にこんなことが起こるなんて。
女の子に告白されるなんて、自分には縁のないことだと思っていた。
人気があるわけではない、目立つタイプでもない。容姿だって他に優れた人間など沢山いた。鏡を見るたびに隈が酷いなと我ながら思う。自分でいうのもなんだが、容貌・性格共に親しみやすさはない。
なぜ、と聞こうとして彼女を見て──思いとどまった。
胸の前で手をぎゅっと握りしめて、見るからに緊張した面持ちで僕の返事を待っている。
彼女のことは嫌いでは無かった。無関心というほど他人でもない。どちらかというと好ましいかもしれないが、自分から積極的に関係を築こうとまでは思わない、そんな相手だった。
僕も年頃の男子高校生の例に漏れず、女の子に興味はあった。どうしても、何が何でも交際相手が欲しいという訳ではなかったが、やはり気持ちを向けられるというのはむずがゆいような中に嬉しさがある。自分の存在を全肯定されたような、何とも言い難い安心感のようなものといったらいいのだろうか。
そして何より、今にも崩れ落ちそうなほど緊張が最高潮に達し、小さく震える彼女のことを振るなどという心無いことが出来るわけもなく、
「──はい。僕でよろしければ」
気付けば彼女を受け入れていたのだった。
その時の、花がほころぶような彼女の笑顔はずっと目蓋の裏に焼きついている。
*
それから、彼女と交際を始めてから数ヶ月が経った。
僕達の関係はそのままつつがなく続いていた。他の恋人達がどのくらいの期間続くものなのかよく分からなかったが、三ヶ月以内に別れてしまうことが多いらしい。それをいえば、僕達は良い関係を保っているのではないかと思う。ケンカになることも無かったし、これといった言い合いも無かった。
正直、付き合った当初はその場の雰囲気に流された形だったが、今ではそれで良かったと思っている。
彼女と過ごす時間は、友人達と過ごす時間とはまた別の楽しさがある。楽しさというより安心するといったほうが近いかもしれない。
交際すること自体が初めての経験で、最初こそ僕も緊張して会話がたどたどしかった。だが、時間が経つと慣れるもので、今ではそれなりに他愛もない話を気軽にするようになった。
二年生になってクラスが変わり、僕達は離れ離れになってしまった。だがその代わりに待ち合わせをして放課後一緒に下校するようにしていた。
その日は放課後に二人で公園に来ていた。午後四時くらいの公園には人がまばらだ。遊び回る子供たち、ベンチに座ってのんびりしているご老人、散歩をしている青年、僕らと同じように恋人同士か、制服姿で語り合う男女など、各々が各々の時間を過ごしている。そんな穏やかな空気が辺りには満ちていた。
「荒井くん! 見て見て!」
気がつくと隣にいたはずの彼女は数メートル先にいて手を振っていた。何をするのかと見ていたら急に周りにいた鳩を追いかけ始めた。
彼女が鳩を追いかける、鳩が逃げる、また追いかける。それを繰り返しているうちにすっかり鳩が彼女の周りからいなくなってしまったので、僕は鞄からお昼に食べたパンの残りを取り出し小さくちぎって投げた。途端鳩が群がってくる。彼女が嬉しそうに駆け寄ってきて鳩を散らす。また鳩が集まる、彼女が追いかける。
「きゃーっ⁉︎」
一連の行動を何度か繰り返していたところ、突如彼女が悲鳴をあげた。
追いかけ回された怒りか、食事を邪魔された怒りか、鳩があろうことか彼女の制服にフンをしたのだ。申し訳ないがそれを見て僕は声をあげて笑ってしまった。
「鳩をいじめるからですよ」
「いじめてないよ、追いかけていただけなのに。ひどいよ。ああもうどうしよう、最悪だよ」
彼女が口を尖らせながら不満を漏らす。
僕はカバンからティッシュを取り出し彼女の制服を拭いてあげた。自分で拭こうと思ってたのに、でもありがとうと、一瞬驚いたのち照れたように笑った。
あまり感情を表に出さない僕とは違って、彼女は笑ったり、悲しんだり、照れたりと、表情を目まぐるしく変える。そのくるくると変わる表情を見ているのは飽きない。特に、彼女の笑顔を見た時は、心の奥底がほっと温かくなるような感覚と同時に、胸を締め付けられるような、たまらない気持ちにもなる。側でもっと見ていたいと思う。
いつしか、すっかり彼女は僕の日常に溶け込んでいた。
始まりこそその場の雰囲気に流されたが、いつの間にか僕は彼女のことが好きになっていた。
それなのに、慣れというのは恐ろしい。僕は油断したのだ。
*
「……あ、あのね、荒井くん。今日って塾なかったよね」
「ええ、そうですよ」
お昼休みに僕の元へ彼女が来て開口一番にそう訊ねた。塾のある曜日は前から伝えていたけれど、改めて確認しにくるとは何か用があるのだろうか。彼女とは、塾のない日は一緒に下校をしていた。クラスの違う僕たちは、時間を作らないと中々一緒にいることが出来ないからだ。
しかし、僕にも友達付き合いというものがある。ゲームが好きだということで、二年生から同じクラスになった赤川哲也君と意気投合しよく盛り上がっていた。話の流れで遊びに来なよと誘われることがあったが、先に述べたように放課後は彼女と帰るようにしていたのでそれは叶わなかった。
だが、進級して数ヶ月、そろそろ良いのではないか。たまには放課後に友人と遊びたい。気の置けない友人と恋人といる時の自分というものはまた違う。彼女といる時間も好きだが、リフレッシュもしたい。今日もまた僕は赤川君に声をかけられていたのだった。
「すみません、今日は先約があるので一緒に帰れません」
「えっ……?」
彼女は目をまるくして驚いたかと思うと、視線を泳がせ不安そうな顔で僕に問いかける。
「どうしたの、何か用事でもできたの」
「いえ、ちょっと。たまには友人とも遊びたいと思いまして」
「そう、なんだ……」
ああ、友人というのは男ですのでと聞かれてもいないことを話すも、彼女の心はここにあらず、生返事を返すばかりだった。ちょっとしたことで機嫌を損ねてしまうので女の子の相手は面倒だと思う反面、そんなに僕と帰れないことに落ち込むのかと、そのいじらしさに可愛げと少しばかりの優越感を感じてしまう。
「明日は一緒に帰りましょう」
「……いいよ」
その言葉は声音からして肯定の意ではなく否定の意だった。あれだけ塾の無い日は彼女から僕のクラスに来て毎日一緒に下校していたのに、一体どういう風の吹きまわしだろう。聞き返す間も無く彼女は俯きながら早足で去っていってしまった。
「おーい、荒井君お待たせ。そういえば来週なんだけどさ、同人ゲーム即売会に行かないかい? 会場以外の情報がない、どんなサークルが出展するかもわからない、謎のイベントなんだけどさ」
入れ違いに赤川君が教室に戻り、僕に話しかけてきた。
「大丈夫なんですか、その即売会は」
「さあ、でも掘り出し物がありそうじゃない? ま、帰りながら詳しい話をしようか」
僕は先ほどの彼女の様子に少しばかり心をざわつかせられていたが、すぐに赤川君との話に意識が向き数分後にはすっかり頭から抜け落ちてしまった。
翌日、いつも昼ご飯は僕の教室で一緒に食べることにしていたが、時間になっても彼女は来ない。何か用事でもあるのだろうかと夢野さんのクラスを覗きに行くと、そこにも彼女はいない。もしかして今日は学校を休んだのだろうか。
クラスメイトに尋ねると彼女は登校しているという。ではやはり何か用事があっていないのだろう。僕はクラスメイトに礼を言い、また放課後に様子を見に来ようと自分のクラスに戻った。
「夢野さん、いますか」
放課後、彼女の様子を見に行くと、またしてもそこに彼女の姿はなかった。昼休みに話しかけたクラスメイトが僕に気づき、声をかけてくれた。彼女はもう帰ってしまったのだという。僕は礼を言うとその場を立ち去った。
僕が彼女のクラスに向かったのは終業のチャイムが鳴ってからすぐだ。その間に帰ったとすれば、相当急いで昇降口に向かったことになる。しかし、廊下で彼女とすれ違うことはなかった。つまり、僕を避けて彼女は帰路についた。…………何かがおかしい。
彼女のことが気がかりではあったが、今日は塾の日だったので放課後はそのまま塾へ向かってしまった。
【続きは同人誌で】