学校であった怖い話
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坂上くんが何かおかしい
坂上くんの様子がおかしい。
さっきから椅子に半分だけ腰掛けている。
おしりの片側だけ椅子に座って、片方は椅子からはみ出している。そんな座り方ってある?
「ねえ坂上くん、どうしたの?」
「どうって?」
狭い新聞部室内に二人きり、私達は机を挟んで向かい合って座っていた。
次の学校新聞に載せるために編集していた記事から顔を上げ、私のことを不思議そうに見てくる。
坂上くんは鈍いから、ちゃんと聞かないと分からないみたい。
「ねえ座り方おかしくない? 何で半分しか座ってないの?」
私が問い掛ければ坂上くんは目に見えて慌てだした。
「これは、その、筋トレなんだ。体幹を鍛えてるんだよ」
坂上くんってば嘘が下手ね。そんな筋トレ聞いたことないわ。左右交互にするならともかく、半分にだけ負荷がかかったら筋トレどころか身体が歪みそうじゃない。
見え見えの嘘に心の中でツッコミを入れる。でも私はなぜだかイタズラ心が沸いて、ちょっと彼の話に乗ってあげることにした。
「そうなんだ。確かに椅子に座る姿勢って大事っていうよね。こういう普段からの積み重ねが筋肉を作るんだろうね」
「うん、そうなんだ。実はね、日野先輩にちょっと猫背気味なんじゃないかって言われて…………」
日野先輩との会話を私に一生懸命話してくれる。これは本当にあったことなのかな。それとも頑張ってでっちあげているのかしら。
「この筋トレは本で見たの?」
「いや、Yチューブか何かで見たんだ」
「へえ、そうなんだ。私もやり方知りたいからその動画教えてよ」
興味を持った体で詳しく聞こうとすると、坂上くんは急に私から目を逸らした。
「えっと、テレビだったかも、いやtoktokだったかな?」
ほら、詳細を詰めないで嘘をつくからボロが出まくりよ。
「そんな曖昧なまま筋トレ始めようとしたの?
「どこで知ったかなんて何でもいいじゃないか」
坂上くんが不満そうに口をとがらせる。
「正しいフォームを確認したり、どの部位が鍛えられるのか意識しながら取り組んだ方が効果があるって言うじゃない。そういう確認のために知りたいのよ」
「夢野さんは真面目だなあ」
ふん、話題を逸らすために私に焦点を当ててきたわね。とうとうごまかしきれなくなってきたみたい。あんまりいじりすぎても可哀想だし、そろそろいいか。
「ねえ坂上くん、もうしょうがないごまかしはいいから」
「しょうがないごまかしって、何のことを言ってるの?」
「坂上くん」
なおもとぼけようとする彼を制する。
「どこか具合が悪いんじゃないの」
「な、そんなことないよ」
「その座り方、まるでどこか庇うような姿勢じゃない。そう、おしりとか」
「!」
坂上くんは息を呑んで固まってしまった。図星みたい。
「坂上くん、私は心配してるの。何かあったんでしょう?」
小さくため息をついたかと思うと彼はおすおずと口を開いた。
「……………………夢野さん、絶対誰にも言わないで欲しいんだけど、実は僕…………
おしりに出来物ができちゃったんだ」
勿体ぶって出てきた言葉が「おしりに出来物ができた」で、私は思わずプッと吹き出してしまった。
「もう、笑わないでって言ったのに。本当に大変なんだからね」
坂上くんが咎めるような目線を向けてきて私をたしなめた。
「ごめんごめん。だからそんな変な座り方してたのね」
「明日病院に行くから、今日だけの辛抱なんだ」
「そんなに痛いなら今日の部活休めば良かったのに」
「だって、まだ記事が完成してないし夢野さんにだけ負担かけるわけにもいかないから」
全く変なところで真面目で頑固なんだから。…………まあ、そこが良い所でもあるけど。
「どのくらいの大きさなの?」
「どのくらいっていうと、このくらいかな」
そう言い坂上くんは拳を作って見せた。拳大の出来物?かなり大きくない?
「本当にそんなに大きいの? 話を盛ってない?」
「本当だよ」
「じゃあ見せてよ」
冗談半分、興味半分で言ってみれば、坂上くんは椅子から勢いよく立ち上がった。
「ええ!?」
「おしりを出した子一等賞って言うじゃない。ほら、坂上くんおしりを見せてよ」
「訳わかんないこと言わないでよ! 嫌だよ!」
私も椅子から立ち上がり坂上くんににじり寄る。坂上くんも椅子から立ち上がり私から逃れようと一歩、また一歩と後退りする。
と丁度坂上くんの後ろにダンボール箱が無造作に置いてあったせいで引っかかってしまった。
「あっ、あぶなっ……わっ!!」
坂上くんはわたわたと腕を振るもバランスを崩し、おしりを庇おうとするあまり頭からダンボール箱目がけて落ちていってしまった。
猫が伸びをするような格好でお尻を高く上げ、つんのめっている。あろうことかそのおしりは私の目の前に突き出されている。
「おつかれ〜! 夢子ちゃん坂上君、進捗はどう?」
その時、勢いよく扉を開きながら恵美ちゃんが入ってきた。なんてタイミング、よりによってこの状況で。恵美ちゃんが見たらきっと……。
「キャーー!! 坂上君が夢子ちゃんにおしりを見せつけようとしてる!!」
「ちょっと、倉田さん、誤解だって」
案の定恵美ちゃんが騒ぎ出した。まあ恵美ちゃんじゃなくても、この状況を目にしたら何事かと思うよね。
「誤解じゃないわ恵美ちゃん」
訂正しておいた。坂上くんのおしりを見るのはこれから事実になる予定なので。
「夢野さんも何でそんなこと言うの!?」
「ねえ、何で坂上くんはおしりを見せようと思ったの?」
恵美ちゃんが坂上くんのおしりを見ながら疑問を口にした。
出来物ができた、という理由は誰にも言わないで欲しいって約束したからなあ。適当言っておくか。
「坂上くんがおしりを出して、鳴神学園の一等賞を目指すらしいわ」
「夢野さん、変なこと言わないでよ! また倉田さんが妄想を広げてろくでもないことになっちゃうよ!」
「おしり…………露出…………と来ればスパンキング? 鳴神学園全校生徒におしりを叩かれる坂上君………………、閃いたわ。次回の作品はSMよ」
恵美ちゃんが目を輝かせながらメモにペンを走らせる。
恵美ちゃんの創作意欲が刺激されたし、坂上くんの秘密は守られたし、良い事したわ。めでたしめでたし。
立ち上がった坂上くんが恵美ちゃんの創作活動の妨害を試みメモを取り上げようとしたけれど、脛を思いっきり蹴られて悶絶していた。
区切りの良いところまでメモが終わったのか、恵美ちゃんが顔を上げ私にちょっといたずらっぽい笑みを向けてきた。
「実は、立ち聞きしてたから知ってるんですけどね。坂上くん、出来物ができたんでしょ?」
さすが将来のピューリッツァー賞候補。情報収集に余念がないわね。
「倉田さん、この話は誰にも言わないでね」
坂上くんが心配そうな表情で恵美ちゃんを見る。まるで子犬だわ。そういう表情をするから私や恵美ちゃんにからかわれるのよ。でもこの表情がたまらないのよね。困らせたくなるっていうか。
「わかってるって。でも夢子ちゃん、こう見えて義理堅いじゃない。坂上君のことからかっても本当の理由は言わないでいたのね」
会話が思わぬ方向に向かい、私は面食らってしまった。ふう、とため息をついて目を逸らす。
「別に、言うほどのことでもないでしょ」
「あはは、照れてる照れてる」
もう、恵美ちゃんったら。何だか調子が狂うわ。そんなんじゃないのに。
「そうだよね倉田さん。夢野さんっていじわるな所あるけど、今みたいに優しいところもあるよね」
あーあ、恵美ちゃんが余計なこと言うから坂上くんが調子に乗り出した。
何だか癪にさわったので坂上くんの頭を思いっきりデコピンしてやった。パツッと乾いた音がして坂上くんのおでこの真ん中に赤い跡がじわっと浮き上がる。ここも大きな出来ものになったりしてね。
「いたっ、いたいって!」
「また調子乗ったこと言ったら、次はおしりを連打するからね」
「やめて!」
おしりを庇ってか、坂上くんは私に背後を見せないように後ずさりしながら机に向かう。
「やっぱり坂上君にはSMの素質があるわね、ふふふ……」
そんな私達二人を見ながら、恵美ちゃんが再びメモに夢中になる。きっと近いうちに彼女の新作が拝めるだろう。
私も新聞記事作成頑張らないと。大きく伸びをしてから私は机へと向かった。
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