学校であった怖い話
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あこがれ
夢主学年1個上/設定は鳴七だけど性格はSFCぽい
「荒井君、放課後ちょっといいかな?」
お昼休み、夢野さんが僕のクラスに訪ねてきた。教室の入り口から室内を覗き込み、僕と視線が合うと声をかけてきた。
僕は廊下に出ると「……どうも」と控えめな挨拶を口にする。
夢野さんは僕より一つ上の先輩だ。胸元に彩りを添える緑のリボンを見てチクリと胸が痛む。そこから視線を落とすと上履きが目に入り、学年を区別する為に示された緑色を視界に入れて僕はそっとため息をついた。
「何かご用でしょうか」
「この前荒井君が協力してくれた記事の原稿が出来上がったから、確認してもらおうかと思って。今日は忙しかった?」
夢野さんは新聞部に所属している。朝比奈さんや日野さんと同じ三年生だ。彼女とは新聞部の取材を通して知り合い、何度か僕の話を記事にしてもらった。
「いえ、大丈夫です。新聞部に行けばよろしいでしょうか」
「ああ、新聞部は今日は日野君達が取材で使っているの。空き教室を先生に言って借りておくね。放課後迎えにくるから」
「あの、メッセージアプリを……」
「ん?」
夢野さんが首を傾げる。
「メッセージアプリで知らせていただければ、わざわざ迎えに来ていただく手間が省けると思うのですが……」
口にしてから僕はしまったと後悔した。せっかく迎えに来てくれるという夢野さんを突き放すような物言いに取られかねない。しかし僕の心配を他所に、彼女はそれもそうね、と納得した様子で僕に笑いかけた。
「じゃあ後で連絡するね。……って、私荒井君と連絡先交換していたかな」
「いえ、夢野さんの連絡先は知りません……」
「あら、私すっかり交換したと思ってた。じゃあ交換しておこう」
「はい」
スマホを操作しお互いの連絡先を交換する。じゃあねと言い残し彼女は軽やかに去っていった。夢野夢子、新しく増えた連絡先の名前を、僕はじっと見続けていた。
放課後、僕と夢野さんは空き教室で机を挟み、向かい合って座っていた。机の上には彼女の書いた原稿が載っている。
「どう?」
「はい。簡潔にまとめられていて良いと思います」
僕がそう言うと、彼女は少し安心したような表情を浮かべた。
「これが私の担当する最後の記事だから、荒井くんに頼みたかったの」
「そこまで僕を買っていただいて、光栄ですね」
そうだ、彼女と同じ学校で過ごせる期間はそう長くはない。分かりきった事実を前にして、僕の思考は何度も心の中で思い描いた「もしも」に行き着く。
もし、彼女と僕が同じ学年だったならば、今よりも長く同じ学校生活が送れたのに。
もし、彼女が僕よりも歳下だったならば、その時は……僕が追いかけられる側になったのだろうか。
ありもしない「もし」を考えても仕方のないことだ。そう分かってはいても頭の中で思考を巡らせてしまう。
「……ん? どうしたの?」
無意識に夢野さんを見つめてしまっていたせいか、彼女が僕の視線に気付き目が合う。僕はあわてて目をそらし、彼女の胸元のリボンを見ながらとっさに口を開いた。
「緑が、いいなと思いまして……」
「みどり?」
「はい。その、夢野さんの学年のカラーの色がいいなと、リボンを見ていたら思いました」
「荒井君、緑好きなんだ?」
「…………はい」
本当は緑が好きというわけではない。あなたと同じ学年になりたかった。ただ、それだけだった。
「そっか。青もいいなと思うけど、こればっかりは選べないからね」
胸元のリボンを撫でながら、彼女はしみじみとつぶやいた。
「荒井君と同じ学年だったらどんな感じだったんだろうねえ」
心臓がドキリと跳ね上がる。何も悪い事をしていないはずなのに、心の中に不安感が芽生える。
「さあ……どうでしょう」
「ふふふ、どうだろうね。でもね、多分こうやって話をしていたんじゃないかと思うよ。何となくそんな気がするの」
彼女が僕を見て微笑む。つられるように僕も小さく笑った。
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