続・護りたいもの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
近付くにつれ次第に口元を綻ばせていく柳宿。
今にも泣きそうで…でも嬉しそうなその表情が、「会いたくて堪らなかった」と言ってくれているようで。
そう感じ取った瞬間、自然と足が動いていた。
「柳宿…!」
「名無し」
私の名を呼ぶ懐かしい愛しい声に涙が滲みそうになる。
その胸の中に飛び込みたくて、その腕で抱き締めて欲しくて、思わず前へと手を伸ばした。
…が、すぐに我に返って動きを止めた。
もう触れることはできないんだとか、そんな事よりも。
あ、私、フラれてたんだった……なんて、死んでもなお現実的なことを考えてしまって。
(あんたの気持ちはすごく嬉しいわ。ありがとう)
(でも……ごめんね)
(名無しには、あたしなんかよりずっと男らしくてカッコいい人がお似合いよ!)
そう告げられた、あの朝。
伸ばした手を引っ込め、今なお思い出すたびに痛む胸の前でグッと握りしめた。
「名無し…ほんとに、アンタなのね?」
「……ん、そうだよ!」
どうしようもない寂しさを堪えながら笑顔を浮かべた。
そんな私の顔に、頬に、触れようとした柳宿の手が虚しく宙を切る。
瞬間、嬉しそうだった柳宿の顔が苦しげに歪んでしまった。唇を噛んで、私と同じように胸の前で手を握りしめている。
「……あっちで、少し話せるかしら」
くるりと背を向けて歩き出した柳宿の後を、静かについていった。
他の皆から離れ、水辺まで来て足を止める。
腰を下ろす柳宿の横に少しだけ間を開けて、自分も腰を下ろした。
「久しぶりだね」
黙ったまま何も喋ろうとしない柳宿に、そう声をかけてみる。
「……そうね」
「元気にしてた?」
「……そう、ね……お陰様で」
「そっか。良かった…」
「……」
「……」
続かない会話にポリポリと頬をかく。
前方にある滝をじっと見つめたままの柳宿の横顔をチラリと見て、おずおずと尋ねてみる。
「あの、やっぱり怒ってる……?」
そう言うと、驚いたように柳宿がパッとこちらを振り向いた。
「怒るなんて!………いや。そうね、怒ってるわ」
「怒ってるんだ…」
「あんな勝手なことして、そりゃ怒るわよ」
「やっぱり?」
「そうよ。それにあたし言ったわよね、死んだら許さないって。なのに勝手に死んじゃってさ!」
「…ご、ごめ」
「謝ったら許さないわ」
「……」
「前々から言いたかったのよね。名無しは色々遠慮し過ぎなのよ。そうやってすぐ謝ったりしてさ。女なんてちょっと我儘なくらいでいいのに、あんたは全然さぁ…」
静寂から一転、なぜかブツブツとお説教が始まってしまった。
どのみち許す気なんてなさそうな柳宿にフッと笑みを漏らす。その変わりない様子になんだか酷く安心して肩の力が抜けていくのを感じた。
「だからね、あんたはもうちょっと…。なんで笑ってんのよ?」
「んー?相変わらず口うるさい柳宿様だなーって」
「な…なによ。相変わらずって、そんな事ないわよ」
「あるよ。出会った時からずーっと、口うるさくってやたら世話焼きでさ」
でも、そんなところも大好きだったんだよ。
「自分のことより周りの人のことばっかり気にしててさ。いつもみんなのこと、心配しててさ…」
「…」
キツイこと言いながら実は誰よりも優しいんだって、知ってるんだから。
美朱のことを想っていたことも……全部全部、知ってるんだから。
「……名無し。あんたも怒りなさい、あたしに」
「え?」
「言いたいこと、あるんでしょう?大丈夫だから…全部言いなさい」
「…」
地面についている私の手の上に、そっと自分の手を重ねる柳宿。その体温も、感触さえも、何も感じることはできないけれど。その重なった手をぼんやりと眺めながら、ぽつりと呟いてみた。
「……柳宿の馬鹿」
「うん」
「ほんと馬鹿」
「うん」
「……ずっと…寂しかったんだから」
「うん…」
「星宿の方ばっかり見ちゃってさ!途中からは…美朱の方も」
「!」
驚いた様子でこちらを見る柳宿の視線に気付かないフリをして、続ける。
「全然私のこと見てくれなくて、ずっとずっと、寂しかったんだから」
「……うん」
「ずっとずっと、……好きだったのに」
「うん……」
「バカだよほんと。こんなに柳宿のこと想ってるイイ女が、すぐそばにいたのに」
「………うん……」
柳宿の重なった手が、ぎゅう、と形を変えた。
「そうね。そうね……」
その震えた声にようやく柳宿の方を見る。
顔を上げた途端、我慢していた涙がぽろりと零れ落ちてしまった。
すると柳宿もゆっくりとこちらを振り返った。大きな目に、同じように涙を溜めながら。
「どうして……気付けなかったのかしら……」
ぽろりと、その瞳からも涙が零れ落ちた。
·