護りたいもの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「好きなの…」
ポロリと零れてしまった本音。
こんな早朝から突然何を言っているんだと、自分でも思う。
私の言葉に目を丸くして固まっている柳宿に、やがて困ったように目を泳がせ始めたその姿に、ああ、とうとうやってしまったと項垂れる。
「あー……えっと…」
「…」
言葉を選んでくれている。
私を、傷付けないように。
これでもう今まで通りには過ごせなくなってしまうのだろうか。困らせるつもりなんてなかったのに。
「ごめん」
「…なんであんたが謝るのよ」
「ごめん…」
まだ何も言われていないのに、ハラハラと流れてくる涙。
突然こんな事言って泣き出すなんて。
困らせてしまうと分かっているのに、抑えきれなかった。
貴方の目に私が映っていないことなんて、分かっていたはずなのに。
それでも今伝えないと、って突然思ってしまったのは、虫の知らせというやつだったんだろうか。
すごく嬉しかったんだ。
今にも泣きそうな顔で、必死に私の名を呼んでくれる貴方の姿を最期に見ることが出来て。
いつもいつも、誰かを見つめる背中ばかり見ていたから。
やっと私の方を見てくれたね、なんて言ったら「こんなときに何言ってんのよ」って怒られるだろうか。
「ばかっ!!何やってんのよアンタ!!なんで、こんなこと…!」
酷く狼狽えて、流れ出る大量の血を必死で止めようとしてくれる柳宿。もうきっと分かっているだろうに。
ケホッと少し咳をしただけのつもりだったのに、口内が鉄の味で満たされていく。
「…柳…宿…」
その頬に震える手を伸ばす。
どんなに手を伸ばしても届かなかった貴方に、本当はずっと、触れてみたかった。
「……ホントに…好き…だったの…」
「…!」
言うやいなや、顔を歪めてその瞳から溢れ出した涙を、そっと指で拭う。
「泣いて…くれる、んだ… 」
へへ、と力無く笑う。
「なに、言ってンのよ…これで死んだら、許さないんだから…!!」
「…ん…」
嘘でもいいから、あたしも好きよって言って欲しかったなぁ、なんて考えてしまうのは贅沢なんだろう。
愛する人を守れただけで、泣いてくれただけで、私は十分、幸せじゃないか。
視界がぼやけて見えなくなってしまった貴方の方へともう一度手を伸ばすと、すぐにぎゅっと両手で握りしめてくれた。
「ごめん……ね、柳宿…」
「…だからっ!なんで、またっ…あんたが、謝るのよ…!」
「ごめんね…」
自分を庇って仲間が死ぬだなんて、きっと柳宿にとって酷く辛いことだろう。
こんなの究極の自己満足だと分かっているけれど。
「わ、私が……勝手にした事なの。どうしても、柳宿のこと…護りたかった…の…」
貴方が美朱を護りたいと思っているように、私も。
「柳宿のせいじゃ、ない、から…」
だからどうか、気に病まないで。
「あんた…」
柳宿が何か言っているようだけれど、でももう、なんだかよく理解ができない。
酷く、眠いのだ。
これが死ぬということなんだろうか。
「い、嫌よ…ねぇ、お願い…!やだ、やだ!!」
泣き叫ぶ柳宿の声がどんどん遠ざかっていく。
最後の力を振り絞って、ニコ、と笑顔を浮かべた。
どうか、笑顔を覚えていて欲しい。
ひとつ大きく息を吐いてから、抱き寄せてくれる貴方の胸の中で、静かにそっと目を閉じた。
→続・護りたいもの
1/1ページ