雪の想い出
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「あたし、きっと男として美朱のことが好きだったのね」
立ち聞きしてしまった柳宿のまさかの告白に、目の前が一気に真っ暗になるのを感じた。
喉が締め付けられてしまったかのように息が苦しい。
小さく震える唇を噛み、ぎゅうと拳を握りしめる。
その後はすぐに逃げるようにその場を離れた。
一体どうやって部屋に戻ったのだろうか。
気付いた時には布団の中で息を殺して涙を流していた。
いつも優しい柳宿に、気付くといつも隣にいてくれる彼に、もしかしたらってどこかで期待してしまっていた。そんな自分が酷く惨めで、恥ずかしかった。
今すぐ存在ごと消えてしまいたい気分だ。
「…っ…う…」
次第に漏れてしまう嗚咽に美朱の方をちらりと見る。
聞こえてくる規則正しい寝息に少し安堵して、ズビッと鼻を啜った。
(男として美朱のことが好きだったの)
先程の柳宿の言葉を思い出してズキンと痛む胸。
いいなぁ美朱は。みんなに愛されて。
柳宿に…愛されて。
自分の中の柳宿への気持ちがこんなにも大きくなっていたことに、こうなって初めて気付くなんて…
幸せそうな顔でスヤスヤと眠る美朱の顔を布団に横たわったままぼんやりと見ていると、キィと突然部屋の扉が開く音がした。
「!」
咄嗟に息をひそめる。
と同時に、足音を立てないよう静かに部屋の中へと誰かが入ってくる気配がする。
「……名無し?」
(!柳宿…)
小さな声掛けに反応することなく、必死で寝ているふりをする。今はとても顔なんて合わせられない。
さらに近付いてきた柳宿が隣に立っている気配がする。
薄暗い中で涙の跡までは見えない…はず。
反応せずにいると、柳宿も少し離れた自分の寝床へ入ったようだった。
安堵しながら、そのままじっと時間が過ぎるのを待った。
どれくらい時間が経っただろうか。
旅で疲れている上にお酒も入っているから流石に柳宿ももう寝ているだろう。布団からそっと音を立てないように抜け出し、上着を羽織って一人宿の外へと出た。
ヒンヤリと冷たい空気が顔にあたる。
見渡す限りの沢山の雪は、今の私にはちょうどいい。
宿から少し離れた場所にしゃがみこみ、雪を手にして目元にそっと近付けた。
このままじゃ朝にはきっと私の顔は大惨事だ。
少しでも冷やしておけばマシにはなるかもしれない。
なのに、またじわりと目が熱くなってしまう。
「……これじゃ意味ないや…」
諦めて、手元の雪をすくっては落としながら涙が止まるのを待った。
サク、と背後で雪を踏む音がした。
「名無し」
「!」
今一番聞きたくなかったその声に、雪をすくう手をピタッと止めた。しゃがみこんでいる私のすぐ後ろにいつの間にか立っている柳宿が、上から呆れたような声をかけてきた。
「あんた、こんなとこで何してんの?風邪ひいちゃうわよ」
「……あ、ちょ、ちょっと眠れなくって…外の空気を吸いたくなって。柳宿こそどうしたの?」
振り返ろうとしない早口な私をきっと怪訝に思っているだろうけど、どうしようもない。早くどこかに行って!と心の中で叫ぶ。
「あんたがこっそり出てくから、気になってついてきたのよ。気付いてないとでも思った?」
「……もう、心配性だなぁ柳宿は。別に大丈夫だから!柳宿は疲れてるんだから、早く戻って休んで?」
「……どこが大丈夫なのよ」
グイッと肩を引っ張られ、心配そうな表情の柳宿とバチッと目が合ってしまった。
「…っ」
「そんな顔して、あんたさっきも一人で泣いてたでしょ?放っとけるわけないじゃない。それにこんな時間に女一人でこんなとこいて、襲われでもしたらどーすンのよ」
「…大丈夫だもん」
「あたしで良ければ、話くらい聞くけど?」
呆れたような声を出しながらも真面目に心配してくれている柳宿のいつもの優しさに、思わずぎゅっと唇を噛んだ。
好きでもないくせに、なんで優しくするのよ。
私のことなんか放っとけばいいのに。
好きでも何でもない私なんか、どうなろうが別にどうでもいいでしょ?だから大好きな美朱のそばに行ってきなよ。
そんな可愛くないセリフが口をついて出そうになるのを堪え、心を落ち着かせるようにふうと息をひとつ吐いた。
「ほら、あの、ホームシックってやつだよ。元の世界が急に恋しくなっちゃって」
「ふーん?」
「だからそんな心配しなくても全然大丈夫だから…」
「本当にそれだけ?」
「え?」
「あんたさっき、鬼宿との話聞いてたでしょ」
思いもよらない柳宿の言葉にギクッとして一瞬固まるが、気を取り直して言葉を繋ぐ。
「あ…ああ、そっか…柳宿、気付いてたんだ。ごめんね立ち聞きしちゃって。聞かれたくなかったよね」
「別に謝ることなんかないわ。ただ…あんた、途中までしか聞いてなかったでしょ」
「え?」
何のことかとキョトンと振り返ると、何やら少し言いづらそうにしている柳宿が目に入った。
「……あたしが美朱のこと好きって言ったの、もしかしたら気にしてるのかなぁって」
「なっ…何、それ…どういう…」
どういう意味で言ってるの?
「だからっ、その……ほら、アレよ、その~……」
目を泳がせながら何やら口篭っている柳宿が、コホンと小さく咳をした。
「あんたさ、……あたしの事、好きなんじゃない?」
「!?」
思わぬ言葉に、目を見開いた。
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