決別の時
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「____兄様、兄様!」
「…」
ぼんやりと目を開けると目の前に小さな女の子がいた。
腰に手を当ててこちらを見下ろしながら、なぜか眉を釣り上げている。
美朱のように二つにしたお団子頭に、自分と同じ垂れた瞳。
服は…忘れもしない、あの日のままで。
「康、琳……」
恐る恐る名前を呼ぶ。
これは現実…?
それとも、夢でも見ているのだろうか。
「まったくもう、兄様ってば、一体何やってるの!?」
「……久しぶりに会えたってのに、いきなり説教はないだろ?康琳」
「いーえ!兄様には言いたいことがいーっぱいあるんです!覚悟して下さいっ」
「あたしに言いたいこと…?」
「そうですっ。康琳はずーっとそばで見てたんですよ?兄様のこと」
ぷんすかと相変わらず怒った表情のままで、こちらを見下ろしている康琳。
死んだはずの、妹だ。
自分が座っているのか康琳が浮いているのか、それさえもよく分からないまま、ああ…と、モヤのかかった頭で理解をする。
「あたし、死んじゃったのね…あんたが見えるってことは」
「一体何やってるんですか、兄様!」
独り言のような質問に答えること無く、声を荒らげて叱りつけてくる康琳。
「何って…。これでも使命は果たしたつもりよ?あの巨大岩も何とか動かせたし。ま、ドジ踏んじゃったけど」
穴が空いているだろう自分の胸元にそっと手を置いた。
……と、思う。
感覚が、なんだかイマイチ分からないのだ。
「そんな事言ってるんじゃないです!」
「え?」
「兄様?兄様の名前は何?康琳、ですか?」
「…」
目の前の妹が言わんとする事をすぐに理解して、目を泳がせた。
「私の大好きな兄様は、誰よりもかっこ良くて、強くて優しい“男の子”だったはずです。あの兄様は一体どこに行ってしまったんですか?」
「康琳……僕は…」
「兄様はとっても強いけれど、本当はそんなに強くないことも康琳は知っています。でも一体いつになったら私の死を認めて受け入れてくれるのか、康琳はずーっと心配で堪らなかったんですよ!」
「……ごめん…」
「まったくもう兄様ってば…シスコンにも程があります!」
ズバリと言われた台詞に返す言葉もなく、ポリポリと頭をかいた。
康琳はこんなにポンポンとものを言う、はっきりした性格だっただろうか?記憶の中の妹はいつもニコニコしていて、穏やかで優しい女の子だったのに…
なんだかまるで、自分自身に叱られているみたいだ。
「康琳は、言う時はちゃんと言います。兄様と血の繋がった妹なんですから」
心を読んだように康琳が言った。
「……そうね。そうよね。あんた本物の女の子だもんね。きっとあたしなんかより、しっかり者よね」
フッと、小さく笑う。
「でもね康琳、安心して?あたし、やっと受け入れられた気がするの。あんたがもういないんだってこと…でもその矢先にまさか自分も死んじゃうなんてね。皮肉なもんよね」
そう言うと、ふわりと康琳が笑ったような気がした。
と同時に、ふわりとその体が少し、離れる。
「聞いて、兄様。康琳は生まれ変わるんです。自分の望んだ姿に。兄様が未来(まえ)を向いてくれたなら、康琳は安心して行けます」
「康琳……なら、あたしも……僕も、一緒に」
手を伸ばすが、その手から逃れるかのように、またふわりと離れていく。
「兄様には心強い仲間がついているでしょ?康琳がいなくても、もう大丈夫…」
「康琳…?」
「これからは兄様の人生を歩んで下さい。私の代わりじゃなくて、兄様自身の人生を。康琳はそれが一番嬉しいです!」
どんどん離れていく小さな姿。
「…!康琳、待ってよ、どうして!?だって僕はもう…!」
「兄様はまだこっちに来ちゃダメです。護りたい人がいるんでしょう?だからしっかりして!兄様っ!」
いつの間にか頬をつたっていた涙を、誰かに拭われたような気がした。
康琳は今もふわふわと遠ざかっていっているのに。
「またね、兄様」
「康琳っ!!」
次第に見えなくなっていく姿。
追いかけたいのに、足が、動かない。
「康琳、待って!康琳!康琳!!」
何も無い空間に必死に手を伸ばす。
流れる涙を拭おうともせず、何度も何度も、その名を呼び続けた。
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