酒場にて
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「あー…」
「…」
「あー…」
「…」
「あ~~~……」
「……もう!うるさいわね、さっきから!あーあーあーあー言わないでよ」
持っていたお猪口を置き、隣で机に頬をつけている翼宿に向けて柳宿が呆れたように目をやる。酔っ払って顔が赤く、目もぽやんとしている翼宿は、ちらりと視線だけを柳宿に向けた。
「あんた、山賊の頭のくせに大してお酒強くないのね」
「あ?んな事ないっちゅーねん。オレはまだまだいけんで」
そう言いながら、体を起こしてグイッと酒をあおる翼宿。
しかしその直後、再びパタリと机に倒れ込んだ。
「そんなんやないけど………あ~~~……」
「違うなら何あーあー言ってンのよ?」
「何て…アレやアレ。分かるやろお前も男なら。もう何日目やこれで…」
「…ああ」
勘のいい柳宿がすぐに翼宿の意図を察し、同じようにグイッと酒をあおった。
「お、分かるか!せやろ?男にはツラいねんてこの状況」
「違うわよ。あたしじゃなくて、あんたを見てりゃ分かるって意味よ」
「はぁ?」
「あんたさぁ、美朱もいるんだから、もうちょっとこう…旅の間くらい寝相に気を遣いなさいよね。よりによってあんな大の字で、毎朝毎朝…」
呆れた目でじろりと翼宿を見る柳宿。
そして、わざとらしく翼宿の下半身に視線を移した。それでようやくピンときた翼宿が目をパチリと開け、ガバッと勢いよく起き上がった。
「あ!お前か、オレの股間に毎朝毎朝鉄扇乗っけよるアホは!」
「アホって何よ!あたしは感謝される覚えしかないわよ。何度隠してやったと思ってンの?」
「そやけど鉄扇はないやろお前…バレへんかったとしても滅茶苦茶マヌケやんけオレ」
「だぁって、布団や枕だとアンタすぐはね飛ばしちゃうんだもん。こっちがいい加減にして欲しいわよ」
「んなこと言うたかて、しゃーないやろ。生理現象やんか。お前もなるやろ?」
「…あたし乙女だからそんな事になんないもーん」
「嘘つけや」
「ほんとよ」
「いや絶対嘘やん。賭けてもええで?心はなんや知らんけど、体が男なら溜まるもんがあるやろ」
「あたしはねぇ、あんたみたいな性欲の塊とは違うのよ」
べっと舌を出す柳宿に、ムッと眉を寄せる翼宿。
「誰が塊やねん!オレは普通や。100歩譲ってならんかったとしたらやで?隠れて一人でコソッとやっとるとしか…」
「やってないわよッ!!」
翼宿の言葉に、思わずムキになってバンッと机を叩いた。
「もう、やめてよね!下品なこと言うの。今後見つけても隠してあげないわよ?」
「別に頼んでへんわ」
「あっそう!じゃーもうあたし知らないんだから。美朱にモロに見られて軽蔑されるがいいわ!」
「まぁまぁまぁまぁ…こんなことでそんなムキになんなや。ほれ飲めや、まだ飲み足りんやろ?」
立ち上がろうとする柳宿の腕をグッと掴み、空いたお猪口に酒を注いでいく翼宿。
「頼んでへんけど、こういうんは男同士の暗黙のなんちゃらってやつやんか。逆にお前がなっとったらオレが隠したるさかいに」
「だからなんないって」
「いくらオカマや言うたって、仮にも18の男がならへんわけないやろ」
「……あのね、あたしは旅の間くらい寝相に気を付けろって話をしてんのよ。なるならないの話じゃなくて。あたしはアンタみたいに豪快に大の字で布団もなにも跳ね除けて寝たりしないもの」
「そんなもん疲れとったら分かれへんやん。万が一バレそうになったらの話や、オレかてそんなもん女に見られたないしな。それにオレよりお前の方がまずいやろ?姉貴みたいに慕っとるオマエのそんなモン美朱が見たら、えらいショック受けてまうで」
「…そりゃ間違いないわね。お子ちゃまだもの、知識があるのかさえ微妙なとこね」
注がれた酒に口をつけている柳宿の姿を見て、ニッと口の端を上げた。
「ほんじゃ、取引成立やな」
「どんな取引よ…結局一方的にあたしが隠してあげてるだけじゃないの」
「まぁ今んとこな」
「大体あんた、あたしより先に起きたためしがないじゃない」
「まぁ今んとこな」
「………。ぷっ……」
会話内容のくだらなさに思わず吹き出して笑う柳宿を見て、つられて笑い出す翼宿。とくとくと、空いた柳宿のお猪口に再び酒を注いでいく。
「ほんっとにもう……でもあたし、こんな話すんの生まれて初めてかも。ずっと後宮で女に囲まれてたからさァ」
「たまにはええもんやろ?男同士の話も」
「ま、たまにはね」
そう言って翼宿の手からひょいと酒瓶を取り上げる。お返しとばかりに、とくとくと翼宿のお猪口に酒を注ぎ返していった。
「ほんじゃ、ま、」
ニカッと笑って、翼宿がそれをひょいと目線の高さまで持ち上げた。
「男同士の密約に。かんぱー…」
「体だけね」
「……“体”が男同士の密約に~、乾杯や!」
「ふふっ、ばーっかみたい!」
翼宿のヘラヘラとした赤い顔に笑みを返し、コツンとお猪口をぶつけ合った。
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