祭りの夜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あたりが薄暗くなり始めた頃、約束通り井宿と名無しは市街に出ていた。祭り会場となった場所は人でごった返しており、楽しそうな声があちこちから響いている。
「わぁ!すごーい!!」
目を輝かせながら周囲を見渡している名無し。
「あ、見て!力比べやってる。前に星見祭りに行った時は、柳宿がおじさんごと持ち上げちゃったんだよね」
「柳宿に適う相手なんていないのだ~」
名無しが「これ何だろう?可愛い!」と小物類が並べてあるある屋台を見ながら歩くのを相槌を打ちながら後ろからついていく。たまにはこういうのもいいな、とその様子を見ながら仮面の下で微笑んだ。
祭りを楽しむのなんて随分久しぶりのことだ。
ずっと一人でいることを好んでいたけれど、こうしているとまるで遥か昔のことのように感じられて不思議な気持ちになる。
そんな事を考えながら歩いていたが、前から歩いてきた大柄な男に余所見をしながら歩いている彼女がぶつかりそうになっているのを見て、咄嗟に名無しの腕を掴み自分の方へグイッと引き寄せた。
力を入れすぎたつもりはなかったが、勢いで名無しが胸におさまってしまった。
少し、焦ったような声を出す彼女。
「ち、井宿?」
「…危なかったのだ。ぶつかるところだったのだ」
「あっ…。ごっごめんなさい!ありがとう」
そう言ってすぐに離れた彼女だったが、気まずそうに目を逸らしながら、耳が赤くなっているのが見えた。
「…」
へへ、と誤魔化して笑う彼女の照れたような笑顔に、少しだけ…少しだけ目を奪われてしまい、今度は自分が慌てて視線を逸らした。
「あっ!見て!井宿がいるよ!」
「え?」
突然叫んだ彼女が自分の背後を指差した。振り返ると、沢山のお面が所狭しと並ぶ屋台が目に入った。タタッと駆け出した彼女が、狐の顔をかたどったお面を指さした。
「…オイラ狐じゃないのだ~。でも、翼宿ならここにいるのだ」
近寄って同じように目付きの悪い狼の面を指さすと、彼女が「そっくりー!」と笑い出した。その後、再びお面をキョロキョロと見渡し始めた。
「じゃあ、柳宿は……。あっ、あった!これだ!」
「ほらこれ」と名無しが指差したのは、タレ目の狸の面。
まさかのタヌキに思わずプッと噴き出してしまった。
「ね?この狸、柳宿に似てるよね?」
「そっくりなのだ」
二人でケラケラと笑い合っていると、突然どこからともなく低い声が響いた。
「……だ~れが、タヌキですってぇ?」
お面売り場の後ろから急にぬっと顔を出した柳宿。
驚いて悲鳴をあげた名無しが、勢いよく胸の中に戻ってきた。