2.連れ添い詣
お相手の名前変更
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「いや、そんな大層な理由じゃないさ」
「左様で……そうですか」
時尾も斎藤を真似てフゥと息を吐き、肩の力を抜いた。もう片意地張った態度は止めよう。互いに探り合っていたと認め、時尾は少しだけいつもの自分を取り戻した。向こう見ずでお転婆で、無邪気な世間知らずと揶揄われる自分はまだ晒さないけれど。
時尾は気を緩めても気は許さないと、ツンとした素振りで斎藤を見上げた。
「何か、名を変えなければならない事を成さったのですか」
「だったらどうする、軽蔑するか」
「事によっては、致します」
「ほぅ」
返答に迷わない時尾に驚いて、斎藤が眉を浮かせた。
暫し黙って二人は歩いて行く。
斎藤は、会津にやって来るまでの出来事を遡って思い出していた。会津に入るまで、品川に着くまで、艦中の出来事、大坂での慌ただしさ、伏見や淀での惨状。そして、駆け続けた京での日々。
「したさ、名前を変えなければならない事を。必要があった。他にも沢山、お前が厭いそうな事はしている」
突然、問いの答えを受けて、時尾は目を瞬いた。無意識に立ち止まり、斎藤を振り返ると、足もとで砂石が小さな音を立てる。
「……そうなの、ですね」
「あぁ」
立ち止まって、再び歩き出した時尾の歩みが遅れる。一歩追い越したところで斎藤が時尾を窺った。
「どうした、行かんのか」
「参ります」
時尾の歩幅は小さくなっていた。
何か話しましょう、そんな態度を見せた時尾が再び黙り込んでいる。顔は下げないが、表情に翳りが見えた。
日は傾き、社の石段は朱色の陽を受けている。二人は黙ったまま一段一段石段をのぼり、上を目指していった。
「ならぬことは……ならぬものです」
「何」
長い石段を上り終えたところで、時尾がぽつりと呟いた。
途中で石段を転げ落ちるのではと、時尾の小さな足を見ながら後を追った斎藤は、不意を突かれて首を傾げた。
「いえ、何でもございません」
そう言うと、時尾は小さな社の境内を歩んでいった。
何も訊き返さないでくださいと言わんばかりの張り詰めた空気。
いつもと同じ、静かな時間。時尾は黙って手を合わせ、何かを念じている。
斎藤は時尾が手を合わせるさまを、口を引き締めて見守っていた。
「左様で……そうですか」
時尾も斎藤を真似てフゥと息を吐き、肩の力を抜いた。もう片意地張った態度は止めよう。互いに探り合っていたと認め、時尾は少しだけいつもの自分を取り戻した。向こう見ずでお転婆で、無邪気な世間知らずと揶揄われる自分はまだ晒さないけれど。
時尾は気を緩めても気は許さないと、ツンとした素振りで斎藤を見上げた。
「何か、名を変えなければならない事を成さったのですか」
「だったらどうする、軽蔑するか」
「事によっては、致します」
「ほぅ」
返答に迷わない時尾に驚いて、斎藤が眉を浮かせた。
暫し黙って二人は歩いて行く。
斎藤は、会津にやって来るまでの出来事を遡って思い出していた。会津に入るまで、品川に着くまで、艦中の出来事、大坂での慌ただしさ、伏見や淀での惨状。そして、駆け続けた京での日々。
「したさ、名前を変えなければならない事を。必要があった。他にも沢山、お前が厭いそうな事はしている」
突然、問いの答えを受けて、時尾は目を瞬いた。無意識に立ち止まり、斎藤を振り返ると、足もとで砂石が小さな音を立てる。
「……そうなの、ですね」
「あぁ」
立ち止まって、再び歩き出した時尾の歩みが遅れる。一歩追い越したところで斎藤が時尾を窺った。
「どうした、行かんのか」
「参ります」
時尾の歩幅は小さくなっていた。
何か話しましょう、そんな態度を見せた時尾が再び黙り込んでいる。顔は下げないが、表情に翳りが見えた。
日は傾き、社の石段は朱色の陽を受けている。二人は黙ったまま一段一段石段をのぼり、上を目指していった。
「ならぬことは……ならぬものです」
「何」
長い石段を上り終えたところで、時尾がぽつりと呟いた。
途中で石段を転げ落ちるのではと、時尾の小さな足を見ながら後を追った斎藤は、不意を突かれて首を傾げた。
「いえ、何でもございません」
そう言うと、時尾は小さな社の境内を歩んでいった。
何も訊き返さないでくださいと言わんばかりの張り詰めた空気。
いつもと同じ、静かな時間。時尾は黙って手を合わせ、何かを念じている。
斎藤は時尾が手を合わせるさまを、口を引き締めて見守っていた。