◆沖田総司に似た密偵の部下
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7.消したい眼差し
沖舂次が何を考えているのか、俺を見つめている。
張の報告を聞いているのか。
たまに思い知らされるが、こいつは純朴だ。
仕事の上では強かさを感じるが、いわゆる色恋に関しては経験が全くないと見える。
男に惚れたことすらないかもしれん。
そんな沖舂次の視線が厄介でならない。
本人は気付いていないが、時折、上司に向ける眼差しとは違うものを含んでいる。
元新選組組長という俺への単なる興味か、男に対する警戒、不慣れから来る視線であればいいが。
さすがに沖田君からあんな視線は受けたことは無かった。
似た顔にあんな目で見つめられ、気まずくてならない。
「手伝わせてください」
本心なのだろう。
自分の成長の為、俺の手助けの為と残務を申し出てきた。だが受け入れるわけにはいかなかった。
張は帰ってしまった。
一晩そばに置くのか。無防備すぎる女を。
自制心には自信があるが、万一の事態を考えねば。
沖舂次はただの女ではない。
無性に惹かれる。懐かしいあの男に似ているから。理由は分かっているが、目を離せない。
大丈夫か、そう言って手を伸ばしたくなる時がある。
疲れが見える時、何やら落ち込んでいる時。
あの男が頑なに弱さを見せず、笑ったまま散っていった所為かもしれない。
沖舂次にあの儚い笑顔が重なって見え、放っておけない。
放って置いたらこいつも死んでしまうのではないか、そんな気が触れた恐れに駆られる。
生きるも死ぬも当人次第、俺が気に掛ける必要は無いのだが。
もし沖田君のつもりで触れて、触れたのが女だと気付いたら。
触れられた沖舂次が女の顔を見せたならば、俺はその手を引けるだろうか。
──そこまで馬鹿じゃない、俺は
所詮は小娘、冷静に向き合えばどうってことは無い。
それでも危険を冒すつもりはなかった。
あれほど懸命に働く健気な部下を傷つけるなど、してはならない。
──しかし嫌いな煙草に咽る姿はなかなか
深い意味は無く頑張れよと労いを兼ねた悪戯で、まれに沖舂次に紫煙を吹きかける。
涙目で嫌がるさまはなかなか悪くない。
あまりに咽ると多少は申し訳なさを感じるが、あの視線が消えるのがいい。
何の意味を含んだか分からぬ視線。
──あの目だけは、勘弁だ
俺は煙草嫌いの沖舂次の前で、堂々と煙草を咥えた。
「駄目だと言っているだろう、お前がいると煙草が吸えん。かといってお前に煙草は不要だろ、さぁさっさと帰って明朝出直すんだな。早出なら大歓迎だぞ」
「もぉ、いつも追い返すんです。分かりました、役立たずの部下は帰ります! 張さんと一緒に帰れば良かったです」
ほぅ、と思い付いた俺は眉を動かし、喉を鳴らした。
沖舂次にとって張はいい先輩らしい。
「ククッ、張に送られるのもいいかもしれんな」
「ななな何ですか、意味深な顔して、もぅ。それではまた明日、ここで寝てないでくださいよ!」
「寝るか阿呆、お前と一緒にするな」
自分の未熟さを棚に上げて俺に指示するなと睨み、しっしっ、と仕草を加えて沖舂次を追い帰した。
「これでいい」
清々した顔で燐寸を取り出し、何度か擦ってようやく点いた火を煙草に移す。
密偵としてさえ育てばそれで構わないが、男に対する初心さが足枷にもなりかねない。
ちょうどいい任務がある。
「"いい先輩"らしいからな。張と一緒に出張らせるか」
深く息を吸うと、煙草の巻紙が一気に短くなった。
沖舂次が何を考えているのか、俺を見つめている。
張の報告を聞いているのか。
たまに思い知らされるが、こいつは純朴だ。
仕事の上では強かさを感じるが、いわゆる色恋に関しては経験が全くないと見える。
男に惚れたことすらないかもしれん。
そんな沖舂次の視線が厄介でならない。
本人は気付いていないが、時折、上司に向ける眼差しとは違うものを含んでいる。
元新選組組長という俺への単なる興味か、男に対する警戒、不慣れから来る視線であればいいが。
さすがに沖田君からあんな視線は受けたことは無かった。
似た顔にあんな目で見つめられ、気まずくてならない。
「手伝わせてください」
本心なのだろう。
自分の成長の為、俺の手助けの為と残務を申し出てきた。だが受け入れるわけにはいかなかった。
張は帰ってしまった。
一晩そばに置くのか。無防備すぎる女を。
自制心には自信があるが、万一の事態を考えねば。
沖舂次はただの女ではない。
無性に惹かれる。懐かしいあの男に似ているから。理由は分かっているが、目を離せない。
大丈夫か、そう言って手を伸ばしたくなる時がある。
疲れが見える時、何やら落ち込んでいる時。
あの男が頑なに弱さを見せず、笑ったまま散っていった所為かもしれない。
沖舂次にあの儚い笑顔が重なって見え、放っておけない。
放って置いたらこいつも死んでしまうのではないか、そんな気が触れた恐れに駆られる。
生きるも死ぬも当人次第、俺が気に掛ける必要は無いのだが。
もし沖田君のつもりで触れて、触れたのが女だと気付いたら。
触れられた沖舂次が女の顔を見せたならば、俺はその手を引けるだろうか。
──そこまで馬鹿じゃない、俺は
所詮は小娘、冷静に向き合えばどうってことは無い。
それでも危険を冒すつもりはなかった。
あれほど懸命に働く健気な部下を傷つけるなど、してはならない。
──しかし嫌いな煙草に咽る姿はなかなか
深い意味は無く頑張れよと労いを兼ねた悪戯で、まれに沖舂次に紫煙を吹きかける。
涙目で嫌がるさまはなかなか悪くない。
あまりに咽ると多少は申し訳なさを感じるが、あの視線が消えるのがいい。
何の意味を含んだか分からぬ視線。
──あの目だけは、勘弁だ
俺は煙草嫌いの沖舂次の前で、堂々と煙草を咥えた。
「駄目だと言っているだろう、お前がいると煙草が吸えん。かといってお前に煙草は不要だろ、さぁさっさと帰って明朝出直すんだな。早出なら大歓迎だぞ」
「もぉ、いつも追い返すんです。分かりました、役立たずの部下は帰ります! 張さんと一緒に帰れば良かったです」
ほぅ、と思い付いた俺は眉を動かし、喉を鳴らした。
沖舂次にとって張はいい先輩らしい。
「ククッ、張に送られるのもいいかもしれんな」
「ななな何ですか、意味深な顔して、もぅ。それではまた明日、ここで寝てないでくださいよ!」
「寝るか阿呆、お前と一緒にするな」
自分の未熟さを棚に上げて俺に指示するなと睨み、しっしっ、と仕草を加えて沖舂次を追い帰した。
「これでいい」
清々した顔で燐寸を取り出し、何度か擦ってようやく点いた火を煙草に移す。
密偵としてさえ育てばそれで構わないが、男に対する初心さが足枷にもなりかねない。
ちょうどいい任務がある。
「"いい先輩"らしいからな。張と一緒に出張らせるか」
深く息を吸うと、煙草の巻紙が一気に短くなった。