17.荒川河口西岸に -sai-
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
武器組織の捜査に進展があった。
神谷道場のガキ共が荒川沿いを駆け回ったが、拠点の情報を掴んだのは四乃森蒼紫だった。
朝方、墓地が燃えていると通報があった。場所は神谷の娘の墓地。
同時刻、町外れでドンパチ騒動が起きているとの通報もあり、警官隊を組織した。
双方の通報は同じ場所にまつわるものだった。
墓地を訪れると、四乃森蒼紫が地中より姿を現した。全身煤姿だ。
昨夜、御庭番衆御頭ならではの思考で武器組織の人間を待ち伏せして、滅殺したそうだ。しっかり情報を得ている点は流石と言えよう。
判明した武器組織の東京アジト。このまま向かうべく必要な警官をまとめた。歩き出す隊列、そこには遅れてやって来た沖舂次の姿もあった。
「藤田警部補、あの、その方」
そばに張り付いていた沖舂次が、小声で言った。何を気遣ったのか、久しぶりに藤田警部補と呼ばれた。
四乃森蒼紫、警察の行軍、一人異なる服装は目立つ。全身に煤を帯びた異質な姿。沖舂次の視線は四乃森に向いていた。
「四乃森蒼紫。先日資料室にいただろう。今日は警察の協力者だ」
同行に至った経緯を知らぬ沖舂次は、それは分かりますが、と言いたそうに俺を見た後、四乃森の顔を不躾な視線で見上げた。
「……沖田総司」
見上げてくる沖舂次を尻目に入れて、四乃森が呟いた。
単純な沖舂次は見上げた理由を忘れて、整った顔に見惚れている。
「ほぅ、御頭さんは沖田君の顔を知っているのか」
沖舂次が反応する間を与えず、俺は話に割って入った。
四乃森が沖田を知っているとは初耳だが、立場を考えれば不思議ではない。
「江戸城に入る前、一時期、俺は京都にいた。新撰組と言えば幕府方の重要な戦力。幹部の顔くらい把握する」
「成る程、それで沖田君の顔を」
「あぁ。瓜二つだな」
「全くの他人だそうだ。だろ、沖舂次」
問うと、沖舂次は何度も頷いた。話について来られない割には、楽しそうに聞いている。沖田の名前が出たからか。四乃森が話すのが珍しいか、それとも。やけにこっちを見てくるな。まぁ鬱陶しい渋い顔をされるよりはいい。
だが、へへっと品の無い笑い声が聞こえたと思ったら、うーんと唸り声が漏れた。
「もしや禁句だったか」
唸り声を聞き四乃森が問うと、沖舂次はあっけらかんとした顔を取り戻した。
「いえ、気にしていませんから。ちょっと昔の京都のことを想像してみたら声が出ちゃいました。蒼紫様こそ、先日から気になっていたんですね、言って下されば良かったのに」
「あの場で言えば長引きそうだったからな」
ガキ共が興味を持てば話が長引く。想像出来る展開だ。
「確かにそうですね。話が長引くと斎藤さんの機嫌悪くなるから」
「おい」
「あははっ、冗談ですよ。でも操ちゃん、御庭番衆に見えないと言うか、普通の女の子と変わらない可愛らしいお方ですよね、大好きが溢れてて傍にいたくなっちゃうような」
「んんっ」
「クククッ」
可愛らしいと沖舂次がイタチ娘を語ると、四乃森が突然喉を詰まらせたような咳払いをした。
こいつは面白い。声を殺して笑ってしまった。
「どうかされましたか。操ちゃん四乃森さんをとても慕っていて、その、そう言うお方なのでは。あ、煤が喉に入ったんですか、大丈夫ですか、お水持ってきますよ」
「放っておいてやれ。ククッ、水はいらんだろう」
冷静に見えた四乃森、気のせいか、瞳が僅かにぶれて動揺して見える。沖舂次の勘違いのせいだ。突然遠慮なしの言葉で関係を指摘されては流石の伊達男も戸惑うか。
可笑しくてならないが、勘違いに気付いた沖舂次も、おろおろとして四乃森の顔色を窺い始めた。
普段、人の感情には鈍いクセに変な所に気付いたもんだ。
しかし、この後の戦闘を考えれば、この話は終いにせねば。
「沖舂次」
「はいっ」
「着いたら俺達二人で正面から乗り込む。周囲を残りの警官が囲む。賊が気を引かれているうちにお前は情報を探せ。今回のアジト以外、東京湾上にでかい拠点がある筈だ。処分される前に書類を見つけろ」
「分かりました。でも、お二人で大丈夫ですか」
今後の作戦を伝えて話を逸らすと、沖舂次は身の程知らずにも俺達の身を案じてきた。阿呆を通り越して面白いヤツだな。
「阿呆、余計な心配せず動け。むしろ二人で十分。お前や警官の配置は邪魔だ。味方を斬る訳にもいかんだろ。俺は構わんがな」
「警部補、怖いです」
沖田の顔が見えたら俺の刀は勝手に避けるだろうがな。
それに、まだまだ本人には言えんが、沖舂次は斬り捨てるには惜しい人材だ。いろいろと面白味を感じる。
「急いで探せよ、俺達が全員斬り伏せるまでに探せ」
「えぇっ、だって斎藤さんめちゃくちゃ強いんじゃ……」
「異論は受け付けん」
「わ、分かりました、頑張ります」
沖舂次は今にも斬られそうだと大袈裟に身構えた。青い顔をして、そこまで怖がることも無かろう。揶揄ってやりたくなるのを堪え、上司らしさを演じて、頼んだぞと頷いて見せた。
神谷道場のガキ共が荒川沿いを駆け回ったが、拠点の情報を掴んだのは四乃森蒼紫だった。
朝方、墓地が燃えていると通報があった。場所は神谷の娘の墓地。
同時刻、町外れでドンパチ騒動が起きているとの通報もあり、警官隊を組織した。
双方の通報は同じ場所にまつわるものだった。
墓地を訪れると、四乃森蒼紫が地中より姿を現した。全身煤姿だ。
昨夜、御庭番衆御頭ならではの思考で武器組織の人間を待ち伏せして、滅殺したそうだ。しっかり情報を得ている点は流石と言えよう。
判明した武器組織の東京アジト。このまま向かうべく必要な警官をまとめた。歩き出す隊列、そこには遅れてやって来た沖舂次の姿もあった。
「藤田警部補、あの、その方」
そばに張り付いていた沖舂次が、小声で言った。何を気遣ったのか、久しぶりに藤田警部補と呼ばれた。
四乃森蒼紫、警察の行軍、一人異なる服装は目立つ。全身に煤を帯びた異質な姿。沖舂次の視線は四乃森に向いていた。
「四乃森蒼紫。先日資料室にいただろう。今日は警察の協力者だ」
同行に至った経緯を知らぬ沖舂次は、それは分かりますが、と言いたそうに俺を見た後、四乃森の顔を不躾な視線で見上げた。
「……沖田総司」
見上げてくる沖舂次を尻目に入れて、四乃森が呟いた。
単純な沖舂次は見上げた理由を忘れて、整った顔に見惚れている。
「ほぅ、御頭さんは沖田君の顔を知っているのか」
沖舂次が反応する間を与えず、俺は話に割って入った。
四乃森が沖田を知っているとは初耳だが、立場を考えれば不思議ではない。
「江戸城に入る前、一時期、俺は京都にいた。新撰組と言えば幕府方の重要な戦力。幹部の顔くらい把握する」
「成る程、それで沖田君の顔を」
「あぁ。瓜二つだな」
「全くの他人だそうだ。だろ、沖舂次」
問うと、沖舂次は何度も頷いた。話について来られない割には、楽しそうに聞いている。沖田の名前が出たからか。四乃森が話すのが珍しいか、それとも。やけにこっちを見てくるな。まぁ鬱陶しい渋い顔をされるよりはいい。
だが、へへっと品の無い笑い声が聞こえたと思ったら、うーんと唸り声が漏れた。
「もしや禁句だったか」
唸り声を聞き四乃森が問うと、沖舂次はあっけらかんとした顔を取り戻した。
「いえ、気にしていませんから。ちょっと昔の京都のことを想像してみたら声が出ちゃいました。蒼紫様こそ、先日から気になっていたんですね、言って下されば良かったのに」
「あの場で言えば長引きそうだったからな」
ガキ共が興味を持てば話が長引く。想像出来る展開だ。
「確かにそうですね。話が長引くと斎藤さんの機嫌悪くなるから」
「おい」
「あははっ、冗談ですよ。でも操ちゃん、御庭番衆に見えないと言うか、普通の女の子と変わらない可愛らしいお方ですよね、大好きが溢れてて傍にいたくなっちゃうような」
「んんっ」
「クククッ」
可愛らしいと沖舂次がイタチ娘を語ると、四乃森が突然喉を詰まらせたような咳払いをした。
こいつは面白い。声を殺して笑ってしまった。
「どうかされましたか。操ちゃん四乃森さんをとても慕っていて、その、そう言うお方なのでは。あ、煤が喉に入ったんですか、大丈夫ですか、お水持ってきますよ」
「放っておいてやれ。ククッ、水はいらんだろう」
冷静に見えた四乃森、気のせいか、瞳が僅かにぶれて動揺して見える。沖舂次の勘違いのせいだ。突然遠慮なしの言葉で関係を指摘されては流石の伊達男も戸惑うか。
可笑しくてならないが、勘違いに気付いた沖舂次も、おろおろとして四乃森の顔色を窺い始めた。
普段、人の感情には鈍いクセに変な所に気付いたもんだ。
しかし、この後の戦闘を考えれば、この話は終いにせねば。
「沖舂次」
「はいっ」
「着いたら俺達二人で正面から乗り込む。周囲を残りの警官が囲む。賊が気を引かれているうちにお前は情報を探せ。今回のアジト以外、東京湾上にでかい拠点がある筈だ。処分される前に書類を見つけろ」
「分かりました。でも、お二人で大丈夫ですか」
今後の作戦を伝えて話を逸らすと、沖舂次は身の程知らずにも俺達の身を案じてきた。阿呆を通り越して面白いヤツだな。
「阿呆、余計な心配せず動け。むしろ二人で十分。お前や警官の配置は邪魔だ。味方を斬る訳にもいかんだろ。俺は構わんがな」
「警部補、怖いです」
沖田の顔が見えたら俺の刀は勝手に避けるだろうがな。
それに、まだまだ本人には言えんが、沖舂次は斬り捨てるには惜しい人材だ。いろいろと面白味を感じる。
「急いで探せよ、俺達が全員斬り伏せるまでに探せ」
「えぇっ、だって斎藤さんめちゃくちゃ強いんじゃ……」
「異論は受け付けん」
「わ、分かりました、頑張ります」
沖舂次は今にも斬られそうだと大袈裟に身構えた。青い顔をして、そこまで怖がることも無かろう。揶揄ってやりたくなるのを堪え、上司らしさを演じて、頼んだぞと頷いて見せた。