◆沖田総司に似た密偵の部下
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1.俺が驚く新しい部下
京都での志々雄一派討伐を成し遂げた後、東京へ戻った俺のもとに新しい部下が一人配属された。
新米警官だが、技能の高さと人当たりの良さを買われたらしい。
実戦で即戦力とはいかないが、今回の一件で密偵も数を減らした。足りない部分は育てればよい。
面談をして感じたが成る程、確かに人に好かれる性格だ。
外見の柔和さも密偵として役立つだろう。市民から情報を引き出すのに適役だ。
ただ一つだけ気に掛かる。
姿背格好、声までもが沖田総司に良く似ている。
寝食を共にした俺が見紛うほど似ている。幕末、新撰組にいたら影役として面白い働きが出来ただろう。そんな考えまで抱いてしまう。
輪廻など信じちゃいないが生まれ変わりではないかと思うほどだ。まぁ年齢的にそれもあり得ないが。
「沖田……いや、沖……そうじ」
「つくしです」
「つくし」
沖舂次で、おきそうじ、名前まで似ていると思ったが違った。
「舂に次でつくしか、変わっているな」
「はい。でも気に入っています」
「しかし女の名前に"次"の字は珍しい」
そう、決定的に沖田君と違うのは女だと言うこと。
明治の世、俺のもとで働く分には何の問題も無いが。
「兄がいるので……父が身分も男も女も関係ない時代がやって来ると考えていたそうで、二人目の子供の私に"次"の字を使ったそうです」
「ほぅ。父君は先見の明をお持ちだったのか」
「はい、亡くなった今でも尊敬しています」
「そうか」
両親は共に死亡。経歴に書かれていないが漏れたのか、兄がいるらしい。
となれば気になるな、沖田君にそっくりな沖舂次の兄も、似ているのか。
「兄妹で生きてきたのか」
「はい。……兄は私がこうして一人立ちするまで育ててくれました。だから今は、兄には兄の人生を送って欲しいんです」
そう言って俯く様子から、兄も何らや事情を抱えているようだ。
これ以上問うのは無粋か。しかし最後に一つだけ、聞かせてもらおう。
「お前は剣術も見込まれてここに来たと聞いた。兄譲りか」
「はい、兄に学びました。我流なので免状は無いのですが……ですから、実力だけを見て認めてくださった警視庁で、精一杯頑張ります」
「あぁ。期待しているぞ」
俺は何を期待した、天然理心流と答えるとでも思ったか。我流とは、一度腕前を見たいものだ。
もう少し兄や剣術の話を聞きたいが、向こうは話したくなさそうだ。
共に働けば機会はある。
素直な態度は好感触。
反発ばかりの張に見習わせたいもんだ。
「フッ」
「どうかされましたか、警部補」
「いや、お前はいい部下になってくれそうだと思ったんだよ」
「はっ……ハイ!」
些細な相手の心情の変化に気付き、心遣いをする。
そして認められたり褒められた時の嬉しそうな表情。
そんなところまで沖田総司にそっくりだ。
俺は沖舂次を気に入った。
今は手のかかる新米だか、沖田君に負けない存在に育ててやる。
俺が無意識に煙草に火をつけると、最初の一息で流れた煙に沖舂次が激しくむせた。
煙草嫌いも同じか。
「ククッ、すまん、煙草は苦手らしいな」
「いえっ、大丈夫ですから、お気になさらず」
本当、やめてくださいよ!
沖田君のように怒鳴りはせんか。
まぁ会ったばかりでこれから世話になる上司には言えんな。
俺は涙目の沖舂次を見てニッと笑い、煙草の火は消してやった。
京都での志々雄一派討伐を成し遂げた後、東京へ戻った俺のもとに新しい部下が一人配属された。
新米警官だが、技能の高さと人当たりの良さを買われたらしい。
実戦で即戦力とはいかないが、今回の一件で密偵も数を減らした。足りない部分は育てればよい。
面談をして感じたが成る程、確かに人に好かれる性格だ。
外見の柔和さも密偵として役立つだろう。市民から情報を引き出すのに適役だ。
ただ一つだけ気に掛かる。
姿背格好、声までもが沖田総司に良く似ている。
寝食を共にした俺が見紛うほど似ている。幕末、新撰組にいたら影役として面白い働きが出来ただろう。そんな考えまで抱いてしまう。
輪廻など信じちゃいないが生まれ変わりではないかと思うほどだ。まぁ年齢的にそれもあり得ないが。
「沖田……いや、沖……そうじ」
「つくしです」
「つくし」
沖舂次で、おきそうじ、名前まで似ていると思ったが違った。
「舂に次でつくしか、変わっているな」
「はい。でも気に入っています」
「しかし女の名前に"次"の字は珍しい」
そう、決定的に沖田君と違うのは女だと言うこと。
明治の世、俺のもとで働く分には何の問題も無いが。
「兄がいるので……父が身分も男も女も関係ない時代がやって来ると考えていたそうで、二人目の子供の私に"次"の字を使ったそうです」
「ほぅ。父君は先見の明をお持ちだったのか」
「はい、亡くなった今でも尊敬しています」
「そうか」
両親は共に死亡。経歴に書かれていないが漏れたのか、兄がいるらしい。
となれば気になるな、沖田君にそっくりな沖舂次の兄も、似ているのか。
「兄妹で生きてきたのか」
「はい。……兄は私がこうして一人立ちするまで育ててくれました。だから今は、兄には兄の人生を送って欲しいんです」
そう言って俯く様子から、兄も何らや事情を抱えているようだ。
これ以上問うのは無粋か。しかし最後に一つだけ、聞かせてもらおう。
「お前は剣術も見込まれてここに来たと聞いた。兄譲りか」
「はい、兄に学びました。我流なので免状は無いのですが……ですから、実力だけを見て認めてくださった警視庁で、精一杯頑張ります」
「あぁ。期待しているぞ」
俺は何を期待した、天然理心流と答えるとでも思ったか。我流とは、一度腕前を見たいものだ。
もう少し兄や剣術の話を聞きたいが、向こうは話したくなさそうだ。
共に働けば機会はある。
素直な態度は好感触。
反発ばかりの張に見習わせたいもんだ。
「フッ」
「どうかされましたか、警部補」
「いや、お前はいい部下になってくれそうだと思ったんだよ」
「はっ……ハイ!」
些細な相手の心情の変化に気付き、心遣いをする。
そして認められたり褒められた時の嬉しそうな表情。
そんなところまで沖田総司にそっくりだ。
俺は沖舂次を気に入った。
今は手のかかる新米だか、沖田君に負けない存在に育ててやる。
俺が無意識に煙草に火をつけると、最初の一息で流れた煙に沖舂次が激しくむせた。
煙草嫌いも同じか。
「ククッ、すまん、煙草は苦手らしいな」
「いえっ、大丈夫ですから、お気になさらず」
本当、やめてくださいよ!
沖田君のように怒鳴りはせんか。
まぁ会ったばかりでこれから世話になる上司には言えんな。
俺は涙目の沖舂次を見てニッと笑い、煙草の火は消してやった。
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