【幕】幕新ゆらり
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「痛っ…」
本物と思わなかった夢主は、人差し指の先を切り、血を流してしまった。
周りの男達も予想外の行動にどよめいた。
「痛い…え、何で……これ、本物?!」
刃を向けた斎藤は自ら刀を退けた。
切っ先に血は付いていない。傷は浅い、威嚇した相手の無事に何故胸を撫で下ろさねばならんのだと、眉根を寄せていた。
「何をしている! 指を落としたいのか!」
「正気かよお前」
「大丈夫ですか! 指、見せてください」
そう言って、騒ぎの中で夢主の手を取ったのは紛れもない、沖田総司だった。
「お、沖田さん!」
「はい、そうですよ」
にこにこと微笑みながら沖田は手際よく手拭いを千切り、止血をした。
手当てを受けた夢主は白く巻かれた指先を見つめた。
血が流れた、現実の痛み。手拭いの切れ端に圧迫される感覚。
呆然とする夢主の肩を、沖田はぽんぽんと叩いて笑った。
「うん!これでもう大丈夫。貴女も無謀なことをしますね、斎藤さんの刃先に触れるなんて命知らずを。斎藤さんは刀の手入れが半端じゃないですから、とっても斬れるでしょ」
あははと笑い、斎藤に刀を早くしまえと手で合図した。
斎藤が刀を納めて鳴った金属音で、夢主が我に返った。
刀が本物で、目の前にいるのは明らかに新選組の人達。
だとすれば、もう仮説を否定出来ない。
「あの、もしかして今って幕……幕府の、その、元号って何ですか」
幕末と言いかけて止まった。
危惧する事態が真実ならば、この目の前にいる男達は今が時代の末だと知らず、幕府の治める世が長く続くと信じて戦うのだから。
威勢の良かった夢主の声が沈み、表情から生気が消えた。
「元治元年、四月ですよ。ほら、桜が綺麗でしょう」
立ち上がった沖田が障子を開き、指差された外を見ると、見事な桜が咲いていた。
先程は気付かなかった、大きな桜の木が塀の向こうに聳え立っていた。
「綺麗……」
気付くと、夢主は新選組の幹部達に周りを囲まれていた。
見知った顔が二人、三人だった部屋。
いつの間にか、思い浮かぶ限りの幹部達が自分を取り囲んでいた。
その迫力に思わず生唾を飲んでしまう。
「さぁて、お前だが。聞かせてもらおうか。お前一体何者だ。どこから現れやがった。突然姿が現れたんだ、空から落ちてきたとか言うんじゃねぇぞ」
胡坐を掻いた土方が落ち着いた声で訊ねた。
夢主は土方に問われて、初めて状況を把握した。
自分は彼らの前に理解できない状態で突然姿を現わしたらしい。
そんな奇怪な存在を布団に寝かせて解放してくれたのだから、悪い人達ではないのだろう。
「ど、どこからって、京都に遊びに来てただけで、家はえっと……」
おかしい。
何度思い出そうとしても、記憶が見つからない。
夢主に焦りが生まれた。
「ぇえと、思い出せないんですけど、京都に遊びに来てたのは確かで……でも、そもそも私、どうしてここに……」
冷や汗が滲み出る。
着物を選び、京都を散策して、小腹が空いて噂の可愛いカフェに入った。
大好きな珈琲を味わい、それから……。
記憶が途絶えている。
言葉を失い、顔を青くする夢主を土方は覗き込んだ。
嘘を吐いている気配はない。奇妙だが裏は無さそうだ。土方は馬鹿正直な女だなと、感情を顔に表す夢主を見つめた。
「お前本当に分からねぇんだな。嘘だったら承知しねぇぞ」
睨む土方が恐ろしく、夢主は目を潤ませた。
「は、はい! 嘘なんて吐きません、新選組のみなさん、大好きですから!」
「ほぉお」
男達が短く声を上げた。好意的な言葉に顔が緩んでいる。
夢主が歴史が好きで、幕末、特に新選組が好きなのは本当だった。
だから京都を散策していたのだ。
──ここは本物の新選組で元治元年、そう考えて話すしかない……
夢主は必死に考えた。
事を荒立たせず話を纏め、皆を納得せねばならない。避けるべきは嘘。夢主は意を決して真実を述べた。
「未来からやって来た、って言ったら信じてくれますか」
「未来?」
「先の、百五十年後の時代から飛んできちゃったみたいです、本当に! 本当です!」
百五十年、土方が呟くと場が静まった。
少し沈黙があった後、男達は笑い出した。
「凄ぇ作り話だな! お前噺家になれるんじゃねぇか!」
「百五十年も経つと昔に戻れるのか、大層な時代だな!」
笑いながら様々、言いたい事を口にする。本気ではなく揶揄いの言葉。
責められているような気がして、夢主は涙目で必死に訴えた。
「本当です! 嘘じゃない証は、そうだ、今年の初めに将軍警護なさったでしょ!」
「そんな事は町で見てりゃ誰だって分かるだろう」
「じゃあ、孝明天皇の命で長州を京から追い出したのは!」
「……詳しいな」
「じゃあ、じゃあ、新見さんと芹沢さんの……!」
夢主が言いかけると、男達の何人かが動きを止めた。
本物と思わなかった夢主は、人差し指の先を切り、血を流してしまった。
周りの男達も予想外の行動にどよめいた。
「痛い…え、何で……これ、本物?!」
刃を向けた斎藤は自ら刀を退けた。
切っ先に血は付いていない。傷は浅い、威嚇した相手の無事に何故胸を撫で下ろさねばならんのだと、眉根を寄せていた。
「何をしている! 指を落としたいのか!」
「正気かよお前」
「大丈夫ですか! 指、見せてください」
そう言って、騒ぎの中で夢主の手を取ったのは紛れもない、沖田総司だった。
「お、沖田さん!」
「はい、そうですよ」
にこにこと微笑みながら沖田は手際よく手拭いを千切り、止血をした。
手当てを受けた夢主は白く巻かれた指先を見つめた。
血が流れた、現実の痛み。手拭いの切れ端に圧迫される感覚。
呆然とする夢主の肩を、沖田はぽんぽんと叩いて笑った。
「うん!これでもう大丈夫。貴女も無謀なことをしますね、斎藤さんの刃先に触れるなんて命知らずを。斎藤さんは刀の手入れが半端じゃないですから、とっても斬れるでしょ」
あははと笑い、斎藤に刀を早くしまえと手で合図した。
斎藤が刀を納めて鳴った金属音で、夢主が我に返った。
刀が本物で、目の前にいるのは明らかに新選組の人達。
だとすれば、もう仮説を否定出来ない。
「あの、もしかして今って幕……幕府の、その、元号って何ですか」
幕末と言いかけて止まった。
危惧する事態が真実ならば、この目の前にいる男達は今が時代の末だと知らず、幕府の治める世が長く続くと信じて戦うのだから。
威勢の良かった夢主の声が沈み、表情から生気が消えた。
「元治元年、四月ですよ。ほら、桜が綺麗でしょう」
立ち上がった沖田が障子を開き、指差された外を見ると、見事な桜が咲いていた。
先程は気付かなかった、大きな桜の木が塀の向こうに聳え立っていた。
「綺麗……」
気付くと、夢主は新選組の幹部達に周りを囲まれていた。
見知った顔が二人、三人だった部屋。
いつの間にか、思い浮かぶ限りの幹部達が自分を取り囲んでいた。
その迫力に思わず生唾を飲んでしまう。
「さぁて、お前だが。聞かせてもらおうか。お前一体何者だ。どこから現れやがった。突然姿が現れたんだ、空から落ちてきたとか言うんじゃねぇぞ」
胡坐を掻いた土方が落ち着いた声で訊ねた。
夢主は土方に問われて、初めて状況を把握した。
自分は彼らの前に理解できない状態で突然姿を現わしたらしい。
そんな奇怪な存在を布団に寝かせて解放してくれたのだから、悪い人達ではないのだろう。
「ど、どこからって、京都に遊びに来てただけで、家はえっと……」
おかしい。
何度思い出そうとしても、記憶が見つからない。
夢主に焦りが生まれた。
「ぇえと、思い出せないんですけど、京都に遊びに来てたのは確かで……でも、そもそも私、どうしてここに……」
冷や汗が滲み出る。
着物を選び、京都を散策して、小腹が空いて噂の可愛いカフェに入った。
大好きな珈琲を味わい、それから……。
記憶が途絶えている。
言葉を失い、顔を青くする夢主を土方は覗き込んだ。
嘘を吐いている気配はない。奇妙だが裏は無さそうだ。土方は馬鹿正直な女だなと、感情を顔に表す夢主を見つめた。
「お前本当に分からねぇんだな。嘘だったら承知しねぇぞ」
睨む土方が恐ろしく、夢主は目を潤ませた。
「は、はい! 嘘なんて吐きません、新選組のみなさん、大好きですから!」
「ほぉお」
男達が短く声を上げた。好意的な言葉に顔が緩んでいる。
夢主が歴史が好きで、幕末、特に新選組が好きなのは本当だった。
だから京都を散策していたのだ。
──ここは本物の新選組で元治元年、そう考えて話すしかない……
夢主は必死に考えた。
事を荒立たせず話を纏め、皆を納得せねばならない。避けるべきは嘘。夢主は意を決して真実を述べた。
「未来からやって来た、って言ったら信じてくれますか」
「未来?」
「先の、百五十年後の時代から飛んできちゃったみたいです、本当に! 本当です!」
百五十年、土方が呟くと場が静まった。
少し沈黙があった後、男達は笑い出した。
「凄ぇ作り話だな! お前噺家になれるんじゃねぇか!」
「百五十年も経つと昔に戻れるのか、大層な時代だな!」
笑いながら様々、言いたい事を口にする。本気ではなく揶揄いの言葉。
責められているような気がして、夢主は涙目で必死に訴えた。
「本当です! 嘘じゃない証は、そうだ、今年の初めに将軍警護なさったでしょ!」
「そんな事は町で見てりゃ誰だって分かるだろう」
「じゃあ、孝明天皇の命で長州を京から追い出したのは!」
「……詳しいな」
「じゃあ、じゃあ、新見さんと芹沢さんの……!」
夢主が言いかけると、男達の何人かが動きを止めた。