【幕】華掌底・京の夜に落つる華
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「お前も他の者と共に行け。後は役人共の仕事、俺が関わるのはここまでだ」
見たことのない形の衣服。胸から腰に生地が沿う胴部分、対して広がる裾、花の蕾のように膨らんだ袖。
女の立ち姿に一瞬目を奪われるが、斎藤は我に返り視線を外した。
これ以上の調べも不要。
立ち去ろうとする斎藤を、夢主は引き留めた。
「何のつもりだ」
夢主は思い詰めた顔で斎藤の手に触れていた。
無礼な、手を振り払おうとした斎藤だが、目を見開いて立ち尽くした。
己にそっと触れる手は過酷なを知らぬ柔らかさ。
優しく触れられ、全身が優しく包み込まれる不思議な感覚に襲われた。
斎藤が何だこれはと感じた時、夢主はもう一方の手も添えて、両手で強く握り締めた。
「何を、っ、何だ」
手を振り解く間もなく、斎藤の心臓が激しい鼓動を打ち始めた。
何かが己の中に入り込んでくる。
勝手に抉じ開けられる己の心か記憶か、そこに捻じ込まれる奇妙な感覚。
与えられるこれは、女の記憶か。
辺りの気配が消え、感覚が消え、真っ白な空間に包まれたかと思うと、己の中に女が流れ込んできた。
女の見てきたもの、感じてきたもの、肌で触れて知ったもの、それらが一気に斎藤の中に流れ込んできた。
「何だ、これは」
味わったことのない感覚に斎藤は驚いた。
とても刹那的な出来事、だが女の何かを知ったような奇怪な感覚がした。
「貴様」
斎藤は険しい顔で夢主を睨みつけたが、夢主は望みを掛けて斎藤を見上げていた。
助けを請う目で見つめながら、恐る恐る握る手を入れ替える。
斎藤の手が夢主の手を握る、そんな状態にされて、今度は先程とは異なる妙な感覚が生まれた。
何かが奪い取られるような、引き抜かれるような感覚。
嫌な感じがした斎藤は、夢主の手を振り払った。
「ごめんなさい……大丈夫です、何も見ていません。ただ、知って欲しかったんです。斎藤……一さん」
「何故」
「生きる場所を探しています、居場所が無いんです。……この世界は怖いです。何でもします、お役に立ちたいんです。斎藤さんの、新選組のお力に」
この世界で夢主が信頼できる存在。新選組。
かつて生きた世界で新選組の皆を尊敬していたが、目の前の男は夢主には特別だった。
古の時代に飛ばされたと考えていたが、それだけではないと斎藤の姿形で思い知る。
もう少し複雑な世界に身を置いてしまった。
幼い頃から悩まされた力は、この世界で活かされる為のものなのか。
この世界で既に何度か怖い思いをしてきた。これ以上は嫌だ。
夢主は生き抜く為に、過ごすべき場所を斎藤のそばに求め、願った。
この人なら信頼して自分の力を託せる。それに、この人の為なら少しだけ我慢できる気がする。力を使う上で感じる嫌な気持ちを。
斎藤は今しがたの二つの体験を反芻した。
夢主の言葉を加味して推察する。
見ていない、とは何を差す。
途中で変わった感覚、他に変わったのは手の重なりか。
不思議な体験は、己を引き留めたこの女が作り出した状況か。
ではあの流れ込んできたものは何を意味する。反して湧き起った引き抜かれるような感覚。
夢主は自らの手を合せて、懇願の目を向けている。
「来い」
女を連れて行こうと、今度は斎藤の意思で女の手を掴んだ。
瞬間、ゾクリと何かが体の中を走る。
先程より強い感覚で、女と一体になり重なる何かを感じた。
まるで己の中を覗かれたような錯覚を得る。
斎藤の驚きを察した夢主が自ら手を振り解いた。
そして蕾のような袖の中に手を隠してしまった。
「女、名は」
「夢主と……申します」
「全て話してもらうぞ。それでも良ければ来い」
斎藤が告げると夢主は頷き、共に歩き出した。
夢主の力は幼い頃からあるものだった。
自らの手で触れると相手に想いを伝えることが叶い、場合によっては見せたくない記憶や感情までも見られてしまう。
だが成長と共に、相手による望まぬ侵食は減っていた。もっと慣れたら完全に制御できる。分かっていても相手が必要な行為、制御できぬまま今に至っていた。
また、誰かに触れられると、相手の心を覗くことが出来た。記憶も経験も探ることが出来る。
干渉の深度は接触の深さによる。
相手が自らの意思で強く接触するほど、夢主が受け取る情報は深く強くなる。
相手の心を見るのは快いことばかりではない。
なるべく人に触れぬよう生きてきた夢主、現代では手袋を愛用していた。
斎藤は夢主の力に単純に興味を持った。
同時に使える力だと認識していた。
使うか否かは当人の意思も必要だろう。
力添えとなるか危険を招くか、詳しく知らねばならない。
不安な面持ちでついてくる夢主を振り返った斎藤は、そう怖がるなと声を掛けた。
「安心しろ、お前の身の振りには俺が責任を持つ。力になりたいと言ったな」
「はい」
「心得た。存分に働いてもらうぞ、まずはお前とその力を知るところからだ」
「は……はい」
強張りを解こうと斎藤が掛けた一言は、夢主をより一層緊張させた。
──物語はここまで──
見たことのない形の衣服。胸から腰に生地が沿う胴部分、対して広がる裾、花の蕾のように膨らんだ袖。
女の立ち姿に一瞬目を奪われるが、斎藤は我に返り視線を外した。
これ以上の調べも不要。
立ち去ろうとする斎藤を、夢主は引き留めた。
「何のつもりだ」
夢主は思い詰めた顔で斎藤の手に触れていた。
無礼な、手を振り払おうとした斎藤だが、目を見開いて立ち尽くした。
己にそっと触れる手は過酷なを知らぬ柔らかさ。
優しく触れられ、全身が優しく包み込まれる不思議な感覚に襲われた。
斎藤が何だこれはと感じた時、夢主はもう一方の手も添えて、両手で強く握り締めた。
「何を、っ、何だ」
手を振り解く間もなく、斎藤の心臓が激しい鼓動を打ち始めた。
何かが己の中に入り込んでくる。
勝手に抉じ開けられる己の心か記憶か、そこに捻じ込まれる奇妙な感覚。
与えられるこれは、女の記憶か。
辺りの気配が消え、感覚が消え、真っ白な空間に包まれたかと思うと、己の中に女が流れ込んできた。
女の見てきたもの、感じてきたもの、肌で触れて知ったもの、それらが一気に斎藤の中に流れ込んできた。
「何だ、これは」
味わったことのない感覚に斎藤は驚いた。
とても刹那的な出来事、だが女の何かを知ったような奇怪な感覚がした。
「貴様」
斎藤は険しい顔で夢主を睨みつけたが、夢主は望みを掛けて斎藤を見上げていた。
助けを請う目で見つめながら、恐る恐る握る手を入れ替える。
斎藤の手が夢主の手を握る、そんな状態にされて、今度は先程とは異なる妙な感覚が生まれた。
何かが奪い取られるような、引き抜かれるような感覚。
嫌な感じがした斎藤は、夢主の手を振り払った。
「ごめんなさい……大丈夫です、何も見ていません。ただ、知って欲しかったんです。斎藤……一さん」
「何故」
「生きる場所を探しています、居場所が無いんです。……この世界は怖いです。何でもします、お役に立ちたいんです。斎藤さんの、新選組のお力に」
この世界で夢主が信頼できる存在。新選組。
かつて生きた世界で新選組の皆を尊敬していたが、目の前の男は夢主には特別だった。
古の時代に飛ばされたと考えていたが、それだけではないと斎藤の姿形で思い知る。
もう少し複雑な世界に身を置いてしまった。
幼い頃から悩まされた力は、この世界で活かされる為のものなのか。
この世界で既に何度か怖い思いをしてきた。これ以上は嫌だ。
夢主は生き抜く為に、過ごすべき場所を斎藤のそばに求め、願った。
この人なら信頼して自分の力を託せる。それに、この人の為なら少しだけ我慢できる気がする。力を使う上で感じる嫌な気持ちを。
斎藤は今しがたの二つの体験を反芻した。
夢主の言葉を加味して推察する。
見ていない、とは何を差す。
途中で変わった感覚、他に変わったのは手の重なりか。
不思議な体験は、己を引き留めたこの女が作り出した状況か。
ではあの流れ込んできたものは何を意味する。反して湧き起った引き抜かれるような感覚。
夢主は自らの手を合せて、懇願の目を向けている。
「来い」
女を連れて行こうと、今度は斎藤の意思で女の手を掴んだ。
瞬間、ゾクリと何かが体の中を走る。
先程より強い感覚で、女と一体になり重なる何かを感じた。
まるで己の中を覗かれたような錯覚を得る。
斎藤の驚きを察した夢主が自ら手を振り解いた。
そして蕾のような袖の中に手を隠してしまった。
「女、名は」
「夢主と……申します」
「全て話してもらうぞ。それでも良ければ来い」
斎藤が告げると夢主は頷き、共に歩き出した。
夢主の力は幼い頃からあるものだった。
自らの手で触れると相手に想いを伝えることが叶い、場合によっては見せたくない記憶や感情までも見られてしまう。
だが成長と共に、相手による望まぬ侵食は減っていた。もっと慣れたら完全に制御できる。分かっていても相手が必要な行為、制御できぬまま今に至っていた。
また、誰かに触れられると、相手の心を覗くことが出来た。記憶も経験も探ることが出来る。
干渉の深度は接触の深さによる。
相手が自らの意思で強く接触するほど、夢主が受け取る情報は深く強くなる。
相手の心を見るのは快いことばかりではない。
なるべく人に触れぬよう生きてきた夢主、現代では手袋を愛用していた。
斎藤は夢主の力に単純に興味を持った。
同時に使える力だと認識していた。
使うか否かは当人の意思も必要だろう。
力添えとなるか危険を招くか、詳しく知らねばならない。
不安な面持ちでついてくる夢主を振り返った斎藤は、そう怖がるなと声を掛けた。
「安心しろ、お前の身の振りには俺が責任を持つ。力になりたいと言ったな」
「はい」
「心得た。存分に働いてもらうぞ、まずはお前とその力を知るところからだ」
「は……はい」
強張りを解こうと斎藤が掛けた一言は、夢主をより一層緊張させた。
──物語はここまで──