10.斎藤の嗜好品
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「家内が世話になった礼です、釣りは結構」
たいした額ではないからそのまま受け取ってくれと、主人に手を向けて受け取りを拒んだ。
主人は斎藤に対して最初に抱いた悪い印象をすっかり無くしたようで、自分より若い男の面子を保とうと、大人しく釣銭を引いた。
「ではお言葉に甘えまして。煙草の箱が空になりましたら、またお越しください」
「あぁ」
店の主人である妙の父と、客である夫の良好な関係が築かれた。
そんな二人の、夢主からすれば不思議な空気にふっと俯いた。
……一さんの好きなものだから、仕方が無いんだよね……でも……
「煙草は良くないですよ……」
ポツリと呟いた夢主を、斎藤は顎を上げて見下ろした。
世話になった店の主人の前で品物にケチを付けるとは失礼だろう、それにその不満は俺自身に対するものかと、厳しい視線を送る。
先程から好ましくない態度が続く夢主に、斎藤こそ不満を抱いているようだ。
「煙草が嫌いなら煙草を吸う俺も嫌いか」
「そんな事言ってないじゃありませんかっ」
目を合わせもせず顔を逸らす夢主に、斎藤は小さな舌打ちをした。
「お前の前で吸わなきゃいいんだな」
「……服に残った臭いも有害物質なんですよ……残ってるから、臭うんです……」
体に突き刺さる冷たい視線を確かめたくなるが、夢主はそのまま下を向いて続けた。
出来れば吸うのを止めたい。だが斎藤にとって象徴的な煙草を奪うのも気が引ける。夢主にもどうすべきか分からなかった。
「とりあえず……私の前では止めてください」
「あぁ分かったよ。お前がいなきゃいいんだろう」
ズキン……胸が締め付けられた夢主は、黙って言葉を受け止めた。
私がいなければ……そんな事を言うなんて……顔を見たくない……見せたくない、嫌……斎藤が見たくないのかもしれない。
夢主は絶対に振り向くものかと背を向けた。
「先に行ってろ、一服してから帰る」
「……」
存在を拒否されたように感じた夢主は、静かに扉に向かい、一人出て行った。
「お客はん、幾らなんでも……」
妙の父は、斎藤より夫として長く生きる男の先輩として、「あれはあかんで」と何度も首を振って見せた。
「お気になさらず」
……しつこいあいつが悪い。不躾な態度を取ったあいつが悪い。主人の親切心を踏みにじったあいつが、大人しくしていろと言ったのに出歩いたあいつが……
斎藤は僅かに首を振ると、笑顔を作って軽く会釈し、店の外に出た。
既に小さくなっているが、道の先に夢主の背中が見える。ちゃんと家に向かっているようだ。後を追えばすぐに追いつける。
それにしても見知らぬ衣に包まれた姿は知らない女のようだ。そんな事を考えてはまた舌打ちを繰り返した。
「やれやれ……」
そして本当に一服してから歩こうと、箱の中から取り出した新しい一本に火をつけた。
その時、店の中では妙が慌てて二階から降りてきて父に声を掛けていた。
「大変やわお父はん、包みを替えて渡すの忘れてたんよ!これ、中身薬やわ、大事なもんよ」
「阿呆、何しとるん!貸しぃ、急いで追いかけるわ」
娘から包みを奪った妙の父が店から飛び出すと、店前で一服して立ち止まっている斎藤に驚き、危うく転びそうになった。
斎藤が手を伸ばし腕を掴んだ事で転倒を免れた。
「大丈夫ですか」
「あぁ、すみません、助かりました。これ……奥様の忘れ物です」
「忘れ物」
「薬のようです。包みが汚れたんでお預かりして入れ替えたんですけども、お渡しするのを忘れてしまいまして。お渡しくださいますか」
「もちろん、こちらこそお手数お掛けしました」
夢主のやつ……薬を何の為に手に入れてきたのか、嫌でも分かる斎藤は、包みを受け取り目を細めた。
店の主人の視線を受けて歩き出した斎藤は、まだ長い煙草を指で弾いて通りに捨てた。吸殻は斎藤の大きな靴跡の上にポトリと落ちた。
たいした額ではないからそのまま受け取ってくれと、主人に手を向けて受け取りを拒んだ。
主人は斎藤に対して最初に抱いた悪い印象をすっかり無くしたようで、自分より若い男の面子を保とうと、大人しく釣銭を引いた。
「ではお言葉に甘えまして。煙草の箱が空になりましたら、またお越しください」
「あぁ」
店の主人である妙の父と、客である夫の良好な関係が築かれた。
そんな二人の、夢主からすれば不思議な空気にふっと俯いた。
……一さんの好きなものだから、仕方が無いんだよね……でも……
「煙草は良くないですよ……」
ポツリと呟いた夢主を、斎藤は顎を上げて見下ろした。
世話になった店の主人の前で品物にケチを付けるとは失礼だろう、それにその不満は俺自身に対するものかと、厳しい視線を送る。
先程から好ましくない態度が続く夢主に、斎藤こそ不満を抱いているようだ。
「煙草が嫌いなら煙草を吸う俺も嫌いか」
「そんな事言ってないじゃありませんかっ」
目を合わせもせず顔を逸らす夢主に、斎藤は小さな舌打ちをした。
「お前の前で吸わなきゃいいんだな」
「……服に残った臭いも有害物質なんですよ……残ってるから、臭うんです……」
体に突き刺さる冷たい視線を確かめたくなるが、夢主はそのまま下を向いて続けた。
出来れば吸うのを止めたい。だが斎藤にとって象徴的な煙草を奪うのも気が引ける。夢主にもどうすべきか分からなかった。
「とりあえず……私の前では止めてください」
「あぁ分かったよ。お前がいなきゃいいんだろう」
ズキン……胸が締め付けられた夢主は、黙って言葉を受け止めた。
私がいなければ……そんな事を言うなんて……顔を見たくない……見せたくない、嫌……斎藤が見たくないのかもしれない。
夢主は絶対に振り向くものかと背を向けた。
「先に行ってろ、一服してから帰る」
「……」
存在を拒否されたように感じた夢主は、静かに扉に向かい、一人出て行った。
「お客はん、幾らなんでも……」
妙の父は、斎藤より夫として長く生きる男の先輩として、「あれはあかんで」と何度も首を振って見せた。
「お気になさらず」
……しつこいあいつが悪い。不躾な態度を取ったあいつが悪い。主人の親切心を踏みにじったあいつが、大人しくしていろと言ったのに出歩いたあいつが……
斎藤は僅かに首を振ると、笑顔を作って軽く会釈し、店の外に出た。
既に小さくなっているが、道の先に夢主の背中が見える。ちゃんと家に向かっているようだ。後を追えばすぐに追いつける。
それにしても見知らぬ衣に包まれた姿は知らない女のようだ。そんな事を考えてはまた舌打ちを繰り返した。
「やれやれ……」
そして本当に一服してから歩こうと、箱の中から取り出した新しい一本に火をつけた。
その時、店の中では妙が慌てて二階から降りてきて父に声を掛けていた。
「大変やわお父はん、包みを替えて渡すの忘れてたんよ!これ、中身薬やわ、大事なもんよ」
「阿呆、何しとるん!貸しぃ、急いで追いかけるわ」
娘から包みを奪った妙の父が店から飛び出すと、店前で一服して立ち止まっている斎藤に驚き、危うく転びそうになった。
斎藤が手を伸ばし腕を掴んだ事で転倒を免れた。
「大丈夫ですか」
「あぁ、すみません、助かりました。これ……奥様の忘れ物です」
「忘れ物」
「薬のようです。包みが汚れたんでお預かりして入れ替えたんですけども、お渡しするのを忘れてしまいまして。お渡しくださいますか」
「もちろん、こちらこそお手数お掛けしました」
夢主のやつ……薬を何の為に手に入れてきたのか、嫌でも分かる斎藤は、包みを受け取り目を細めた。
店の主人の視線を受けて歩き出した斎藤は、まだ長い煙草を指で弾いて通りに捨てた。吸殻は斎藤の大きな靴跡の上にポトリと落ちた。