10.斎藤の嗜好品
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「あのぉ、そちらさんは」
「家内が世話になりました」
「へっ……」
まさか夢主が人妻とは思わなかった二人、驚いてその顔を見ると、夢主は大きく頷いて夫婦であると認めた。
思わず親子で顔を見合わせた。
こんな愛らしい娘さんの旦那はんがあんな……つい小声で漏らしてしまい、斎藤の咳払いを誘った。
「失礼しました、旦那様……ですか。妙、お前は向こうに行っていなさい」
何やら不穏な空気を察した妙の父は、娘を店の奥に隠そうとした。
「ほな、また……」
「あっ、ありがとうございます、必ずお返しに伺います」
妙はにこりと頷いて店の奥へと消えた。
「あっ……名前聞いてへんかった……今度聞かな……」
妙は呟きながら大人しく二階へ上がっていった。
店に残された妙の父、店の主人は夫婦の気まずい空気にも笑顔を保っていた。
だが心の目では、何や喧嘩中か……こんな綺麗な嫁はんを……と非難して斎藤を睨みつけている。
「あの、一さん……」
今までの経緯を伝えようとするが、斎藤は外の泥の窪みと夢主の着物が変わっていることから、説明を受けずとも事態を把握した。
そして夢主と同様、礼の代わりに何か求めようと店の中を見回した。
「ほぅ、紙煙草ですか」
「旦那様、煙草をなさいますか」
黙って斎藤に作り笑顔を向けていた主人が、商品の話になり顔色を変えた。
反射的に商人の顔に変わっていた。
「いや、紙煙草は無い。だが煙管なら何度か」
「えっ、一さん吸った事があるのですか」
「屯所では確かに無いが、外で煙草盆を出されれば失礼の無いよう手を付けるもんだろう」
強い匂いを纏っていては、あの時代で密かな仕事をこなすのは困難だった。
自ら煙管を楽しみはしなかったが、好まないわけではなかった。
「そうですね……」
……でも煙草の臭いなんて感じたことが無かった……
煙草を始めるのは明治になってからと考えていた夢主は、驚いて斎藤を見上げた。斎藤は主人との会話を楽しんでいる。
新選組の時代から斎藤は煙草を知っていた。
だが夢主は臭いを感じたことは無かった。
何故だろうか、風呂に入ったか、他の匂いに消されたか……臭いが消えた理由を考えても良いことはない。
昔を気にしても仕方が無い。だが目の前で煙草に手を伸ばす夫を放ってはおけなかった。
主人が「一本お試しください、煙管よりも味わいが良いですよ」と手渡す姿に「あっ」っと反射的に声を出していた。
斎藤と主人の動きが止まり、揃って夢主を振り返った。
「あ……なんでもありません……」
煙草を手渡す手を止めたいのが本音だが、世話になった妙の父の顔を潰すわけにもいかない。
目の前で斎藤が「ふうっ……」とゆっくり白煙を吹き出すさまを眺めるしかなかった。
煙草特有の匂いと刺激が店の中に広がり、心地良さそうな斎藤に対し、隣で眺める夢主の体は拒否反応を示した。
目が染みて喉の奥が詰まり、顔を逸らす。そして苦しそうに声を絞り出した。
「一さん……煙草に興味がおありですか」
「んっ、まぁな。懐かしい味だ……随分と吸いやすいな。駄目なのか」
斎藤は主人に「これはいい」と穏やかな声で告げる一方、夢主には冷ややかに応じた。
「いえ……でも煙草って……物凄く体に悪いんですよ。肺が黒くなって病気になっちゃうんです……」
おや、と聞いたことの無い話に妙の父は驚いている。
「ほぅ、俺は肺の病で死ぬのか」
「そういうわけでは……」
煙草は斎藤の象徴的な物……肺を病んだ記録も無い。
止める理由は無いのかもしれない。
「でも……私は煙草が嫌いです……」
「そうか。俺は嫌いでは無い」
そう言うと主人にこれを貰おうかと告げ、燐寸と共に煙草の箱を受け取った。
「家内が世話になりました」
「へっ……」
まさか夢主が人妻とは思わなかった二人、驚いてその顔を見ると、夢主は大きく頷いて夫婦であると認めた。
思わず親子で顔を見合わせた。
こんな愛らしい娘さんの旦那はんがあんな……つい小声で漏らしてしまい、斎藤の咳払いを誘った。
「失礼しました、旦那様……ですか。妙、お前は向こうに行っていなさい」
何やら不穏な空気を察した妙の父は、娘を店の奥に隠そうとした。
「ほな、また……」
「あっ、ありがとうございます、必ずお返しに伺います」
妙はにこりと頷いて店の奥へと消えた。
「あっ……名前聞いてへんかった……今度聞かな……」
妙は呟きながら大人しく二階へ上がっていった。
店に残された妙の父、店の主人は夫婦の気まずい空気にも笑顔を保っていた。
だが心の目では、何や喧嘩中か……こんな綺麗な嫁はんを……と非難して斎藤を睨みつけている。
「あの、一さん……」
今までの経緯を伝えようとするが、斎藤は外の泥の窪みと夢主の着物が変わっていることから、説明を受けずとも事態を把握した。
そして夢主と同様、礼の代わりに何か求めようと店の中を見回した。
「ほぅ、紙煙草ですか」
「旦那様、煙草をなさいますか」
黙って斎藤に作り笑顔を向けていた主人が、商品の話になり顔色を変えた。
反射的に商人の顔に変わっていた。
「いや、紙煙草は無い。だが煙管なら何度か」
「えっ、一さん吸った事があるのですか」
「屯所では確かに無いが、外で煙草盆を出されれば失礼の無いよう手を付けるもんだろう」
強い匂いを纏っていては、あの時代で密かな仕事をこなすのは困難だった。
自ら煙管を楽しみはしなかったが、好まないわけではなかった。
「そうですね……」
……でも煙草の臭いなんて感じたことが無かった……
煙草を始めるのは明治になってからと考えていた夢主は、驚いて斎藤を見上げた。斎藤は主人との会話を楽しんでいる。
新選組の時代から斎藤は煙草を知っていた。
だが夢主は臭いを感じたことは無かった。
何故だろうか、風呂に入ったか、他の匂いに消されたか……臭いが消えた理由を考えても良いことはない。
昔を気にしても仕方が無い。だが目の前で煙草に手を伸ばす夫を放ってはおけなかった。
主人が「一本お試しください、煙管よりも味わいが良いですよ」と手渡す姿に「あっ」っと反射的に声を出していた。
斎藤と主人の動きが止まり、揃って夢主を振り返った。
「あ……なんでもありません……」
煙草を手渡す手を止めたいのが本音だが、世話になった妙の父の顔を潰すわけにもいかない。
目の前で斎藤が「ふうっ……」とゆっくり白煙を吹き出すさまを眺めるしかなかった。
煙草特有の匂いと刺激が店の中に広がり、心地良さそうな斎藤に対し、隣で眺める夢主の体は拒否反応を示した。
目が染みて喉の奥が詰まり、顔を逸らす。そして苦しそうに声を絞り出した。
「一さん……煙草に興味がおありですか」
「んっ、まぁな。懐かしい味だ……随分と吸いやすいな。駄目なのか」
斎藤は主人に「これはいい」と穏やかな声で告げる一方、夢主には冷ややかに応じた。
「いえ……でも煙草って……物凄く体に悪いんですよ。肺が黒くなって病気になっちゃうんです……」
おや、と聞いたことの無い話に妙の父は驚いている。
「ほぅ、俺は肺の病で死ぬのか」
「そういうわけでは……」
煙草は斎藤の象徴的な物……肺を病んだ記録も無い。
止める理由は無いのかもしれない。
「でも……私は煙草が嫌いです……」
「そうか。俺は嫌いでは無い」
そう言うと主人にこれを貰おうかと告げ、燐寸と共に煙草の箱を受け取った。